第101話 ミリア・ハイルデートはミリアである22
*
「……う……ここ……どこ……?」
頭がズキズキと痛み、目がぐるぐると回る。
……後、誰かが私の手を握っている。
そんな感覚と共に私は意識を取り戻す。
「──意識が戻りましたね。よかった」
(……だ……誰だろう……知らない人の声だ……)
「!?」
数秒遅れて、ビックリしたミリアは反射的に距離を取ろうと、身体を動かそうとするが……
「まだ動いては行けません──〝魔力枯渇〟です。あと少し治療が遅ければ、本当に死んでいたかもしれませんよ? 安静にしてください」
そっと、簡単に片手でその動きを封じられる。
「……お母さん……お母さんは……どこですか……?」
驚く頭を必死に抑え──ミリアは、目の前の修道服を着た金髪の女性に向けて、何とか声を振り絞る。
すると、その時……
「──ミリアちゃん!!」
この声は、私のよく知ってる声だ。
「……おばちゃん……!」
声の主は、お団子屋のおばちゃんだ。
その声を聞いて、私は少しだけ安堵する。
「ミリアちゃん! よかった、心配したのよ!」
おばちゃんは、涙を浮かべて私に駆け寄ってくる。
「……おばちゃん……ここ……どこ……?」
喋ると、ズキリと頭が痛む。
でも、そんな事は今の私にはどうでもよかった。
「ここは街の教会の中の病室だよ。ミリアちゃん、お家の中で倒れていたのよ」
「教会の病室……?」
今更ながら気づくと──ベッドが6つだけあり、間隔を開けて並べられている、少し広い部屋にいた。
私は、その中のベッドの1つに寝かされている。
「聖女様、本当にありがとうございました──」
おばちゃんが、私の寝ているベッドの横に腰掛ける、シスター服の金髪の女の人に頭を下げている。
「……聖女……様……」
お母さんに聞いた事がある……
確か……教会の凄い人だ……
「ミリアちゃん! まだ動いちゃダメよ!」
起き上がろうとすると、おばちゃんに止められるが、私はそれを振り切り、目の前の聖女様にすがり付いて、必死にお願いをする。
「お、お願いします……聖女様……お母さんを助けてください……! お母さんが……朝起きたら……意識も脈も無くて……息もして無くて……体も冷たくて……」
そんな状態を何と言うのか、私は知っていた筈だ。
……でも、認めたくなくて。他の言葉を探した。
「ポーションや……私の回復魔法じゃ……何も効果が無いんです……お願いします……私は大丈夫ですから……お母さんを……お母さんを助けてください……!!」
私にはできなかったけど、この人なら、教会の凄い人なら、聖女様なら、何とかできるんじゃないかと──そう信じて、ひたすらに私は頭を下げ続けた。
「──、ミリアさん。よく聞いてください──」
言葉に詰まり、困った様子の聖女様。
「──ミリアちゃん、よく聞いて。ミトリちゃんは、3日前に亡くなったわ。ミリアちゃんは〝魔力枯渇〟で倒れて、3日も意識が無かったのよ……」
だが、聖女様では無く、おばちゃんが返事をする。
「……う……嘘だ……嘘だよ……」
お母さんが亡くなった──それに、自分が3日も意識が無かったと伝えられ、私は頭がパニックになる。
「本当の事よ……嘘じゃないわ……」
おばちゃんは涙声で返事をする。
「嘘だよ……だって、お母さん、夜中に目を覚まして、元気だったもん! ごはんも一緒に食べたもん!」
(本当だ……熱も引いて……いっぱいお話もした……)
朝のも……私が3日も意識が無かったのも、きっと何かの間違いだ! 夢だ……! お願い、早く覚めて!
「ミリアちゃん……落ち着いて!」
パニックになり──バタバタと暴れる私を、おばちゃんが必死に宥めてくれる。
「──私帰る! お家でお母さん待ってるもん!」
私は何を叫んでいるんだろう。勝手に口が動く。
「ミリアちゃん! だから、ミトリちゃんは──」
焦るおばちゃん。
「嫌だ! 嫌だよ! お願い、お願いだから、そんなこと言わないでよ! ──おばちゃん、大っ嫌い!」
(あれ……私……今何て言ったの……?)
自分でもビックリするぐらい、大きな声が出た。
でも、それよりも、最後の言葉が、自分の口から発せられた言葉だと気づくのに、少し時間がかかった。
「あ……」
違う。そうじゃない。
そう言おうとしたが、口が上手く回らない。
おばちゃんが悲しそうな顔で固まっている。
謝らなくちゃ、私は凄く酷いことを言った。
「おばちゃ……」
声が、やっと出てくれた。早く謝らなくちゃ。
でも、私が言葉を続ける前に……
──がしっ!
私は、おばちゃんに抱き締められる。
「そうよね──ごめんね。ごめんね。ミリアちゃん、おばちゃん、何にもできなかったよ。私の事なんて大嫌いでもいいから、少しだけ話を聞いておくれ──」
そこで、私の張り詰めていた緊張の糸がぷつんと切れ、少し頭が冷えて来て、今度は涙が溢れ出てくる。
「ごめんなさい……悪いのは私です。おばちゃんは何も悪く無いよ……私、お母さんの事が大好きだから、その分……色んな感情が一気に込み上げてきて、頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃって、酷いこと言っちゃったの……おばちゃん、本当にごめんなさい! ……うぐっ……!」
ミリアは謝り終えると、声を上げて泣き始める。
「よかった……いいのよ。こんな事になって、混乱しちゃうのは当たり前よ。偉いわね。ありがとう、ミリアちゃん──ちゃんと、理由も教えてくれて」
ミリアが誰かに向けて『大嫌い!』何て言うほど取り乱す──裏を返せば、それほどミリアは、母親の事が大好きで、大好きで仕方なかったのだ。
大好きな母が亡くなり、8歳のミリアが取り乱すのも無理は無い──そんな思いを汲んだ、お団子屋のおばさんは、大きく声を上げて泣き叫ぶミリアの背中を、ミリアが落ち着くまで、ずっと、ずっと優しく擦り続けた。
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