第100話 ミリア・ハイルデートはミリアである21
パチリ……ミリアは目を覚ます。
頭に奥で悩んでいたことや、喉につっかえていた物の全てが取れたかのような、サラリとした目覚めだった。
でも、次の瞬間、ミリアが感じた感覚は……
(何か冷たい……それに重い……)
そんな感覚だった。
自分を抱き締めている母親の体温は冷たく、抱き締めている腕はだらりとしていて力が無く、その腕が重くミリアの肩にのし掛かって来てしまっている。
「……お母さん………! ねぇ! お母さん!!」
飛び起きたミリアは、ミトリの体を強く揺する。
でも、返事がない。
そして、脈も無ければ、息もしていない。
「嘘だ……嘘だ……お母さん……」
ミリアは数時間前の深夜の事を思い出して、
──バッと、後ろを振り返る。
ミリアが振り返った、その視線の先にあったのは……確かに数時間前、ミトリからプレゼントとして貰った〝トアの形見の杖〟と、家の家宝だと言われた青く光る宝石──〝聖海の青玉〟だった。
扉の方を見ると、昨日『もう遅いから、食器を洗うのは明日にしなさい』と言われ、扉の隅に寄せておいた、お粥を食べた後の二人分の食器もある。
血の気が引け、頭が真っ白になる──
そんな感覚をミリアはハッキリと感じた。
でも、何もせずにはいられない。
ミリアはバンッ! と走りだし、家にある全ての〝ポーション〟と〝魔力回復薬〟掻き集め、寝室に戻ると、直ぐ様にミトリに〝回復魔法〟を使う。
「お母さん、お母さんッ!」
ピクリともしないミトリを見ると、ミリアは涙が溢れてくる。
回復魔法を使い、ミトリの口にポーションを無理に流し込み──自身の魔力が尽きそうになってきたら〝魔力回復薬〟を胃に流し込む。
お母さんが倒れた日から、これしかやってないが、今の自分にはこれを繰り返すことしかできない。
頭の何処かでは……もう……分かっていたけど……
それでも手は止められない。止めたくない。
手を止めたら、何処かにあるかもしれない……極僅かな……限り無くゼロに近い……そんな可能性すらも、全部消えてしまうから。
──それから、数時間が過ぎた所で、ポーションも〝魔力回復薬〟も尽き、ミリアの体力と魔力も尽き、バランスを崩したミリアは……後ろ向きに、バタリと音を立てて倒れ込み、意識を失うのだった。
*
──ミリアが倒れてから、更に時間後。
ルスサルペの街・湖
ハイルデート家・私有地 境界線付近
そこには、2人の人物が立っていた。
1人は、団子屋・花選のおばさん。
そして、もう1人の人物は、修道服に身を包んだ──長い金髪の、泣きボクロが印象的な豊満な胸のおっとりとした雰囲気の女性だ。
ビュン!
すると、猛スピードで、凄く慌てた様子のタケシが飛んで来る。
「タケシちゃん! ちょうどよかった。ミリアちゃんを呼んで貰ってもいいかしら? こちらは〝大都市エルクステン〟から来てくれた、聖教会の聖女様だよ。ミトリちゃんを見て貰おうと思うの!」
団子屋のおばさんはタケシに向けて話かける。
この敷地内に入るには、直系のハイルデート家の者の許可がいる。今現在、団子屋のおばさんが知る限り──ミトリとミリアの二人だけだ。
「こちらが空竜の〝変異種〟ですか。通常の空竜とは、まるで別物ですね」
修道服の女性がタケシを見て、ゆっくりと口を開く、その表情には少なくない驚きの色が見える。
「──ガウ! ガウッ!」
「タケシちゃん、どうしたの?」
いつもと様子が違う。そう思い、団子屋のおばさんはタケシを真剣な目で見つめる。
次にタケシは空から地面に降り、身を屈め、背中を向けながら、後ろを向く──
「背中に乗れってこと……」
ボソリとおばさんが呟く。
「ガウッ!」
それを肯定するような、力強い返事が返ってくる。その返事を聞くと、団子屋のおばさんはタケシの背中に乗って行く。
「ガウッ!」
そして、次にタケシの視線と声は聖女へと向けられた。
「私もよろしいのでしょうか?」
「そのようです……聖女様もこちらへ──」
そう、団子屋のおばさんに言われると、聖女は軽やかにその場を跳び「失礼致しますね」とタケシの背中に飛び乗る。
そして、そのままタケシはミリアの家まで大急ぎで飛ぶ。
だが、距離は殆ど無い為、飛行時間ほんの数秒だ。
(おかしい……おかしいわ……)
今のタケシの態度と、この家の中の妙な静けさに、お団子屋のおばさんは嫌な汗を掻き始める。
ミリアの家に着くと……
「急ぎましょう──何やら、火急のようです!」
何かを感じた様子で、直ぐに聖女はタケシを跳び降り、ミリアの家の中にノックもせず入る。
「──聖女様!?」
その様子を見た、団子屋のおばさんは、タケシに『ここで待つように』とジェスチャーをし、自身も家の中へと急いで走って行くのだった──。
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