第99話 ミリア・ハイルデートはミリアである20
「──お母さん! お粥できたよ!」
元気よく、ミリアがお粥を持ってくる。
ミトリのお粥がいつもより大盛りなのは、ミリアが沢山食べてほしくて多く盛ったからだ。
何せ、20日ぶりの食事である。むしろ、これでは全然足りないんじゃないかと、ミリアは考える。
勿論、ミリアは自分の分のお粥も持ってきている。
数時間前に、鍋いっぱいのお粥を全部食べたミリアだが……今は別に、お腹が空いてる、空いてないとかの感情では無く──ミリアは、ミトリと一緒に食事をしたかったのだ。
「ありがとう。早速、いただくわね──」
ミトリはガサゴソと寝室の棚を開けて、何かを探してたみたいだが、ミリアが来ると、その手を直ぐに止める。
熱も下がったので、居間で食べても良いのだが、ミリアが寝室まで運んで来てくれたので、病み上がりということで、ミトリはベッドで食事を取る。
ちなみに、既にミリアは、ベッド横の椅子に腰かけて〝いただきます〟待ちでいる。
「「いただきます!」」
久しぶりの、お母さんとの『いただきます』だ。
ミリアはこれだけでも、ここ最近毎日作って食べていたお粥が、一回りも、二回りも、美味しく感じた。
「──美味っしい! ミリア! おかわり!」
最初はゆっくり食べていたお母さんが、半分を平らげた所で急に手が加速し、あっと言う間に完食する。
これにはミリアもビックリだが、直ぐに……
「うん! いっぱいあるから沢山食べてね!」
ご機嫌でおかわりを持ちに行く。
──ミリアは嬉しいのだ。
母親が目を覚ました事が。
母親が元気になった事が。
一緒にごはんを食べれる事が。
自分の作ったお粥をおかわりしてくれる事が。
20日ぶりにミリアは心から笑った。
その後、ミトリは4回程お粥をおかわりをし、すこぶる満足そうに食事を終えた。
ミリアも、自分の分の食事は、勿論完食している。
「「ごちそうさまでした!」」
ミリアも大満足の食事だった。
食事が終わり、食器を片付けようとするミリアを、ミトリが呼び止める。
「ミリア。今日はもう遅いから、食器を洗うのは、明日にしなさい」
「え? うん。分かった」
珍しいことだ。お粥の空いたお皿は、1日ぐらい放っておいても、別に変な異臭はしないが、それでも──『食器を洗うのは後にしなさい』と、言われたのは、ミリアはこの時が初めての事だった。
でも、お母さんが、そう言うのなら仕方ない。
ミリアは食器を寝室の扉の側に置き、ミトリのいるベッドに戻ってくる。
「ミリア、こっちに来てくれる?」
「うん!」
ミトリに呼ばれると、ミリアは嬉しそうに、ミトリの側に行き、ミトリの膝の上に乗る。
ミトリは膝に乗るミリアの頭を優しく撫でると、ゆっくりと話し出す。
「ミリア、ありがとう。お粥とっても美味しかったわ」
「どういたしまして。また作るね!」
無邪気に笑うミリア──
そんなミリアを見て、泣きそうになるミトリは、必死に涙を堪える。
「お母さん、もう少し起きてていい?」
ミリアはミトリにそんな質問をする。
「ええ、私も起きてたいわ。お話しましょ?」
「いいの! うん、いっぱい話したい!」
──この後、2人は本当に沢山の話をした。
美味しかったごはんの事。
美味しくなかったごはんの事。
タケシに乗って散歩をした時の事。
魔法の事。
おばちゃん達の事。
叱られた事。
笑った事。
泣いた事。
森に果物や薬草を取りに行った事。
湖でお魚を取った事。
一緒に食事を作った事。
一緒にご飯を食べた事。
一緒に寝た事。
お父さんの事。
お母さんの事。
私の事。
嬉しかった事
楽しかった事。
本当の本当にいっぱいの思い出を話した。
そんな幸せな時間がどんどん流れて行く。
気づくと、私はお母さんと小一時間、話をしていた。不思議と全然眠くない。
むしろ、楽しくてお話が盛り上がってしまい……
すっかりと、私は目が覚めてしまっていた。
すると……
お母さんが私を持ち上げながら立ち上がる。
「ミリア、プレゼントがあるの」
「プレゼント? 私に?」
不意なお母さんの言葉に私は首を傾げる。
「ええ、ちょっと待ってなさい」
私を抱え下ろすと、さっき何かを探していた、寝室の棚からお母さんが杖を出してくる。
これは魔法の杖だ。そしてこれは──
「お父さんの使ってた杖?」
今となっては、形見になってしまった……お父さんが、冒険者仕事の時に使っていた、愛用の杖だ。
定期的にお母さんが手入れをしてくれてあるみたいで、まだまだ使う事ができそうな感じだ。
「それとこれ──」
お父さんの杖と一緒に、豪華な布に巻かれていた、お母さんの拳ぐらいの大きさの〝青い宝石〟を私に渡してくる。
「綺麗……」
思わず、感想が洩れる。
「これはただの宝石じゃないわ──〝魔宝石〟よ。正式名称は〝聖海の青玉〟代々受け継がれてきた家の家宝よ。だから、これもミリアが使っちゃいなさい!」
「え、わ、私が貰っていいの?」
「勿論、杖はお父さんからで、この青玉は私からよ!」
私は、プレゼントを恐る恐ると両手で受け取る。
「杖は魔法の基盤に。青玉は魔力を大量に含んでいるから、そのまま蒼玉の魔力を使って、魔法も打てるわ──〝聖海の青玉〟は、水に触れると勝手に魔力を回復してくから、ちゃんと定期的にお水あげるのよ?」
「うんっ! 大切にする! お水もあげる!」
思いがけないプレゼントにミリアは顔を綻ばせる。
「さて。じゃあ、そろそろ寝る時間よ? ミリアも、まだ寝ておきなさい? まだ日も昇って無いのだから」
「うん。分かった。でも、何か眠くないかも……」
「それでも、横にはなりなさい」
そうミトリに言われると、ミリアはミトリに抱きつく形で、一緒にベッドに入る。
その傍らには、先程貰ったプレゼントがある。
「お母さん、温かいね」
「そうね。とっても温かいわ。ミリア、ありがとう」
「? どういたしまして……?」
(何にお礼を言われたのだろう?)
ミリアは少し疑問系で返事を返す。
そしてミトリの抱き締められ、優しく頭を撫でられてる内に、ミリアに少しずつ睡魔がやって来る。
「お母さん。私、眠いかも……」
(……明日起きたら、お母さんと一緒に、お団子屋のおばちゃんとおじちゃん、それとタケシに会いに行こう──きっと、いっぱい喜んでくれる筈だ……)
そんな予定を思い浮かべながら、ミリアは瞼を擦る。
「いいのよ。ゆっくり寝なさい」
ミトリはミリアの頭を更に優しく撫でる。
「うん……お母さん、お休みなさい」
「ええ、ミリア、お休みなさい──」
その返事を聞き、満足そうにミリアは目を閉じると、すぐに寝息を立てて、寝てしまうのだった。
*
──ミリアが寝てから数分後。
「ごめんね。ミリア、お母さん、ズルしちゃった……」
ミリアが寝ると、ミトリはそんな言葉を呟く。
実はさっき──ミリアは気づいていなかったが、ミリアは、ミトリの魔法で寝かせられていたのだ。
この魔法は後もう少しだけ続くだろう。
「こんなに大きくなったのね……」
まだまだ成長途中の8歳のミリアだが、生まれてきた時と比べると、その成長をひしひしと感じられる。
話には聞いていたけど、子供の成長は本当に早いのね──と、ミトリは寂しそうに、嬉しそうに呟く。
「そろそろ時間ね。楽しい時間は、あっと言う間というのも、本当みたいね……ごめんね、ミリア……」
まだミトリの半分ぐらいのミリアの手を、優しく握った後、ミリアの頭を、心底愛しそうに撫でる。
最後にミトリはミリアを優しく抱き締め……
「ミリア、本当にありがとう。大好きよ──」
そう呟くと、ミトリは──ベッドの中で、ミリアを優しく抱き締めたまま、まるで、眠るかように……
ゆっくりと、静かに息を引き取るのだった。
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