藪崎康平という男
佐々木は教室の外に連れていかれてから戻ってこなかった。いくら抵抗したとしても、あの筋肉の塊の立花には、敵わないだろう。
「それにしても佐々木のやつバカね。あれだけのことでルール違反である暴力をするなんて」
と本郷が言った。俺は反論した。
「そうでもないぜ、佐々木と俺はお互いに自分の弱さを見せ合った。そして、『協力して本郷を倒そう』と同じ目標を立てた。」
本郷は興味がなさそうに聞いている。だが俺は話を続けた。
「佐々木は人を騙すことと弱者をいじめるやつがとても嫌いでなあ、その二つをしていたお前を俺と協力して懲らしめようと考えていた。お前なら金持ちだから本郷なら騙したっていいだろうと思ってたと思うぜ。だが実際はお前は金に困っていたわけだ。」
俺がそこまで言い終えると本郷は何かに気づいたようだった。
「やっと気づいたようだな。そう、佐々木は、人を騙し、弱者をいじめていたのは自分だったということに気づき、一番やりたくなかったことをしてしまった自分に絶望した。その上、弱さを見せ合い信頼関係にあると思っていた人物、つまり俺からの裏切りにあい、あいつの精神はボロボロだった。やってはいけないとわかっていても、俺を殴ってしまうくらいにはな」
俺は自然と笑みがこぼれてしまった。
「あんた、最低ね。まあ佐々木のことなんてどうでもいいんだけど」と本郷は言った。
「そんなことより、私は330万も負けた。最初に佐々木から勝ちとった100万を含めても残り金額は270万。貸し付けられた500万を返すには残り230万が必要になる。他の人とも勝負して取り戻さなくっちゃ」
本郷は独り言のように呟いた。
「それは無理なんじゃないか」本郷は俺の言葉にわかりやすく怒りの表情を見せた。
「なんであんたなんかにわかるのよ」
「だってお前勝負強さないじゃないか」
「はあ、今回のは初めから仕組まれていただけで、私に勝ちようがなかっただけよ。」
本郷の意見に俺はまたも反論した。
「そんなことはない。今回のギャンブル、お前にも勝つチャンスはいくらでもあった。」
「それはどういうこと。」食い気味に聞いてきた。
「今回のギャンブルで使ったトランプは佐々木が持っていた。だからそのトランプを俺が持っていることをお前は怪しみ、そしてイカサマを疑った。」
「そうよ」
「そこまではよかった、だが問題はここからだ。俺の作戦でトリックカードを引いたとき、わざと裏向きで机に落とし、お前に見せた。そして俺が勝負のやり直しを求めるとお前は迂闊にも、勝利を確信してしまった。佐々木が持っていたトランプならトリックカードが入っているかもしれないと疑っていれば、こうはならなかった。しかもこのことに気づいていれば、自分の手札にトリックカードがきたときにもちゃんと対応ができたんだ。」
「確かにそうね。」
本郷は過去を振り返って、自分もミスに気づいたようだ。
「つまりお前は俺がカードを落とした時点で思考を放棄していたんだ。そんな少しの根拠で勝ちを確信してしまうようなやつがこれから勝てると思えないわけだ。」
「じゃあどうすればいいのよ」
本郷は怒り気味で迫った。
「俺も一度はお前のようなミスをおかした。だが俺は変わった。一度の敗北を経て。ギャンブルなんて所詮運だが、最後まで思考を放棄せず、運を自分の手でつかみ取るんだ。お前みたいな三流にできるかは知らんがな」
「確かにそうね。」いつもの調子を取り戻したようだった。
「次あんたと勝負するときは絶対負けないから」本郷はそう言いその場を立ち去った。
俺は本郷と佐々木に復讐をしようとしていた。佐々木は上手くいったが本郷の方は、なぜか励ましてしまうような形になってしまった。
もうすぐ下校時間になろうとしていた。学校時間だけギャンブルが行われるから恐らく今日はもう終わりだろう。
一日目にしてはよく稼いだ方だ。明日からどんなギャンブルが出来るか楽しみだ。
読んでいただきありがとうございます。ブックマークや★★★★★も本当にお願いします。最近評価が全然ないので読んでいる人がいるのかもわからないです。
「高校生ギャンブル」という名前を変えようと思います。実はこの名前仮名だったので、次回投稿するときに変えます。読んでくれている方がいるかはわかりませんが、名前が変わっても是非見てください。