ストロングゼロにいつの間にか駄目人間にされていた件
俺の高校生活も8年目に突入したある日の事。
あー眠ぃしダルい~!
昼飯食った後の授業はなんでこんなにしんどいんだよ!?
タカシは机に突っ伏して堂々と寝てやがるしタケシはいつものようにスクワット。タキジは蟹工船だしよ。
歴史の授業なんか何の意味があるんだよー!?
社会に出て使うのかー!?
思わず愚痴をこぼしそうになりながら俺はストロングゼロをちびちびやりつつ真面目にノートを取っているのだ。
っと、手が滑った!
カラン!
缶が落下しちまったよ!
「いけねっ!」
慌てて身を屈めて拾い上げようとする俺。
その時!
「零くん、ストロングゼロ、落としたよ?」
俺の隣の席の大吟醸粕子ちゃんと手が触れ合ってしまった。
「あっ」
二人して思わず伸ばしていた手を引っ込めばつが悪そうに苦笑いしてしまう。くぅ~~!
大吟醸粕子。日本有数の大富豪である大吟醸家の一人娘。抜けるような白い肌と誰もが思わず振り向く美貌、モデルも顔負けのスタイルを持ちつつもとても気さくな女の子だ。くぅ~~!恋!!
「零くん、どうしたの? 手が震えてるよ?」
「さ、酒のせいだろ多分」
ちょっとドキッとしちゃったのは秘密。粕子ちゃんほどの美人だから言い寄る男は星の数ほどいるが、何故か誰に対しても素っ気ない態度を取っているので“塩対応の粕子”などと陰口を叩かれたりしている可愛そうな子だが、何故か俺にだけはしょっちゅう絡んでくる。めんどくせぇ~~~!恋!!
「おい、須戸呂! 授業中におしゃべりをするんじゃない!」
歴史担当の佐伯先生はチョークで黒板を叩いてしかめっ面をした。ヤベッ。
「もちろん俺の話を聞いていたんだろうな? ほれ、今何の話をしていたか、言ってみろ!」
「はいっ!墾田永年私財法ですね!?」
「フランス革命だ、バカ!」
「ちえっ、惜しい!」
歴史の授業は苦手な俺である。まぁ勉強はほとんどしないけどテストの点数はそんなに悪くなくて、自慢じゃないがいつも男子の中では学年一位に近い成績を取ることが出来る(学年全体で男子は5人。その中で俺は4位くらいだ)。
「零くん、いっつも墾田永年私財法って答えてるよね」
そう言って俺の隣の天使様はにっこりと笑うのだ。言っちゃ悪いが俺は容姿も普通だし(何度かモデルにスカウトされたことはあるけど)、身長も180センチくらいしかないからモテる要素が無いはずなんだがな。
「へへっ、能ある鷹は爪を隠す、って言うだろ」
「だからいっつも深爪なんだね!」
「へへっ、てやんでぃ!」
粕子ちゃんはユーモアもある。でもなんで俺なんかにこんなにベタベタしてくるんだろう。女の子の考えてることはよくわかんねぇ。
「きーんこーん、かーんこーん」
佐伯先生が口笛でチャイムを鳴らした。やっと授業が終わったのかよ、寝落ちしちまう寸前だったぜ。そんなこんなで放課後、粕子ちゃんに屋上へこっそり呼び出された俺。おいおいおいぃ! 告白かぁ~!?
「あのね、零くん」
「こんな所に急に呼び出して、な、何だよ!?」
(待て待て~! 心の準備させろぉ!)
「気を悪くしたらごめんね。でも言っておかないといけないことが」
「な、な、何だよ、何なんなんだよ~~?」
ストロングゼロを持つ手が震えてきた。さすがに緊張するぜ。
「もう少し、勉強した方がいいよ。いっつもテスト、0点じゃない」
「……え?」
「このままじゃ、9年目に突入しちゃうよ? それでいいの? 私……あなたを置いて大学に行っちゃうよ?」
「~~~~~~~~~っ!!?」
「もし次のテストで零くんの点数が悪かったら、私もう知らないから」
そう言い残して両手で顔を覆い小走りに立ち去ろうとする天使の背中に向かって俺は叫んだ。
「おい、待てよ!」
「……何?」
「だったら、一つ約束してくれ」
「うん、何を?」
「次のテスト、もし俺が学年1位を取れたら……その時は……」
俺は一世一代の賭けに出た。
震える右手に握ったストロングゼロを粕子ちゃんに向けて突き出す。
「俺と夜明けのストロングゼロを飲んでくれるか?」
「……一人で飲んでろ、ボケ!」
ドゴオッ!
粕子ちゃんの強烈なレバーブローが炸裂! 俺は内臓に深刻なダメージを負って療養生活を余儀なくされてしまった!
こんなんじゃ今年もまた留年決定だよ~~~トホホ!
俺のドタバタ学園ライフはまだまだ続きそうである。おしまい。
今回は作者的には書きながら笑いすぎて死にそうになりました。トホホ~~!!