第5話 記憶の旅 ー始まりの話ー
もう長いこと寝ているような気がする。もうこのままでいたい。戦いもなく誰も死ななくてもいい。ここはそんな世界だと思う。僕はどうして戦っているのだろうか?どうしてこんな辛い思いをしないと駄目なのだろうか?答えが返ってこない質問をする。だが予想外に答えは返ってきた。
『それは俺が望んだからだ。誰もが笑って暮らせるように、家族を失う悲しみがないようにと望んだからだ。』
僕しかいないと思っていた空間に僕と似た声が響く。これは何だろうか?僕の忘れていることなのか。
『そうだ。これはお前が忘れている俺達の記憶だ。そして思い出さないといけない大切な記憶だ。これからお前が体験するのは過去に経験した記憶だ。これが終わった頃には全てを思い出し、俺とお前は統一されるだろう。』
待って!君は一体誰なんだ?
『俺はもう1人の神谷 蓮であり、《異界の英雄》レン=クロスフィールド。数多の世界を救いし勇者。じゃあな。頑張れよ。』
そう声を聞いて、僕は再び意識を失った。
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「おい大丈夫か?蓮、起きろって!」
僕が再び意識を取り戻したのは、隼人の声を聞いた時だ。あれ?なんか隼人が若い気がする。それに自分の目線が低い。それにここは何処だろう。僕は異界化で出撃したはずだ。それにさっき何かがあった筈なのに思い出せない。
「蓮、本当に大丈夫か?」
隼人が心配そうに顔を覗きこんでくる。僕はそんなに気を失っていたのだろうか?一応身体の確認もしておこう。そう思い身体を見た時、驚いて声も出せなかった。制服の名札が目に入り学年が見えた。1年A組 神谷 蓮。そうなっていた。僕が忘れているのは1年前のことか。
「大丈夫だよ。隼人。それで此処は?」
一通り確認をして、疑問に思っていたことを聞く。だが隼人の方も困った顔しているだけだ。要するにわからないってことか…。
『ここは地球とは別の世界だ。お前にわかりやすく言うと魔法と剣の世界、異世界エステル。ゲームみたいな世界だ。』
「えっ?なんで消えた筈じゃ…。」
僕はいきなり聞こえてきたもう1人の自分の声に驚いた。さっきお別れもした筈なのに。
『言っただろ。これは過去の記憶の体験だって。忘れた記憶をもう一度体験しているだけだ。これが終わらないと俺も消えない。あと声を出して話すな。1人で話している危ない人になるぞ。俺と話すときは心で思ったらいい。』
(わかった。それで別の世界って何?)
『今からあそこの美少女が教えてくれる。それを聞けばわかる。それから自分が勇者であることを隠せ。ゲームみたいにステイタスがある。それをそうだな、剣士にしておけ。それとスキルの【聖剣召喚】もだ。とりあえずこんなところか。しばらくは連絡取れないから頑張れ。』
そうだけ言って、もう1人の僕の声が消えた。忘れない内にステイタスの隠蔽をしておこう。
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名前 神谷 蓮 [レン=クロスフィールド]
年齢 16歳 [26歳]ランク:C [SSS]
職業: 剣士 [勇者、公爵]
スキル: 剣術、火魔法、水魔法、隠蔽 [聖剣召喚、魔剣召喚]
称号:英雄の子 [女神の子、異界の勇者]
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僕が変更をする前に自動になっていた。たぶんカッコになっているものが、本来の自分の能力だろう。それよりも称号になっているものを説明して欲しかったな…。
「蓮、どうした?さっき声を上げていたけど。ここにいる理由についてはあそこの女の子が教えてくれるらしい。」
さっき自分と話していた時間経過はほんの数秒だったみたいだ。隼人がさっきした質問の答えを返してくれた。
「全員起きられたみたいなので、この世界にお呼びした理由についてお話し致します。」
隼人が指を指したのに気付き、女の子が話し出した。