第4話 見守る者たち
神谷春人視点
俺は蓮と隼人を理事長室から下がらせた後、隣の部屋にいた春香を中に入れた。
「悪かったな。蓮には配属については伝えた。これであいつの護衛は何とかなるな。」
「あのことを伝えなくてもいいの?たぶん神楽少尉は何かを隠している。それによって計画が邪魔されたら面倒だよ。」
「わかっている。とりあえず隊舎に向かえ。このままだと王女殿下と鉢合わせするぞ。」
「了解。兄さんのことは任せて。」
そう春香が告げて退室していく。これで蓮の安全は確保された。王女の護衛に見せて、蓮を守る。これしか方法がない。
「これで良かったのですか?シャルル王女殿下。」
俺は誰もいない部屋でそう呟く。今はもう会えない蓮の大切な人。あのことさえなければ、蓮は苦しまなくても良かった。幸せになれるはずだった。もうあの苦しみを与える訳にはいかない。そう決心をした時、通信が入った。
『閣下、アイリス王女殿下が到着されました。お部屋に御通ししてもよろしいでしょうか?』
「わかった。通してくれ。」
そう返事をしてから数分後、扉がノックされた。
「はい。開いてます。」
「失礼致します。お久しぶりです。ハルト様。」
そう言って入って来たのは、異世界にあるアースティア王国、第2王女 アイリス=アースティアと護衛の者だろうか。金髪の長い髪、耳が尖っている。そしてサファイアみたいな綺麗な眼だ。
「ええ。お久しぶりでございます。アイリス王女殿下。それでそちらのお嬢さんは?」
「あ、申し訳ございません。こちらは護衛のエリス=クロスフィールド、クロスフィールド公爵代行です。」
アイリス王女はそう言いながら、後ろに立っているエリスを自分の前に出した。蓮の義妹で、俺の血の繋がりがない娘になるのか…。
「はじめまして、エリス=クロスフィールドと申します。」
エリスはそれだけ言うとアイリス王女の後ろに下がった。普段から無口なのだろうか?まぁいいか。
「アイリス王女殿下、計画は最終段階に入っています。このまま進めば、殿下が転入して1週間ほどで実行出来ます。」
「そうですか!ようやくですか!これでお義兄様を帰還出来ます。」
俺が計画の実行予定日を伝えただけで、アイリス王女は子どもの様に喜んでる。後ろのエリスはそれを見て苦笑いしている。主のこんな姿を見たら苦笑いもしたくなる。そんな中で緊急アラートが鳴る。
『緊急事態発生!新たな異界化が発生!内部に未確認種及びオーガ、ゴブリンが多数。国より出現要請です。』
「わかった。第1小隊と第3小隊は出せない。俺が出る。バックアップを任せた。」
『閣下自らですか!了解です。国の方にそう伝えます。』
俺は出撃準備をしながらアイリス王女に謝った。こんな状況なのでアイリス王女もわかってくれた。そんな中で蓮から通信が入った。新入隊させる人物を見たからだろう。時間がないのでたまたま来ていた神代殿に説明を任せた。久しぶりに蓮の顔を見たからだろうか、アイリス王女とエリスから涙が流れていた。それを見ながら部屋を出ようとしたら通信が入った。映像に映った人物を見て無視を出来ないと悟った。
『久しぶりだな、神谷元帥。貴公の出撃には許可出来ない。第1小隊を出せ。』
「内藤総理、第1小隊は新人を迎えたところです。出撃させれません。」
『これでもかね。「第2小隊、第4小隊及び第5小隊から援軍要請!未確認種出現の為、対処不可!」貴公の部隊が援軍を要請している。自衛隊では対処は出来ない。そうなると第1小隊を出すしかないだろう。貴公はアイリス王女殿下を守れ。これは国家元首としての命令だ。』
そう言いたいことだけ言って通信が切れた。確かに俺が動くより第1小隊を、蓮を出した方が確実に対処できる。これしかないのか…。そう思って通信を開こうとすると蓮から再び通信が入った。あいつも自分が動く方が良いと思ったみたいだ。出撃をすると言って通信を切断された。
「例え、記憶を無くしても人の為に動いてしまうのですね…。」
「それがお義兄様ですから。」
アイリス王女とエリスの小さい呟きが聞こえる。仕方がないので2人と共に戦闘をモニターで見ることにした。
「流石だな。」
「そうですね…。あれだけの力を持ちながら何故、レン様とお姉様は負けたのだろう?」
「えっ?ティアお姉様?」
俺とアイリス王女が蓮の戦闘を見ているとエリスが第1小隊の戦闘を見ながら驚いている。
「どうしましたか?エリス。」
「アイリス様、ティアお姉様があそこに!」
アイリス王女の問い掛けにエリスは映像を指を指し叫んでる。神楽少尉がいた場所に妖精がいた。どこかで見たことがある。まさか妖精王 ティターニアか!
「俺だ。神楽少尉が帰投後、直ぐに来るように伝えてくれ。」
『了解です。』
問い詰めないといけない。何故ここにいるのかを。