5話.自由自治国家:マイン
ナビ 「誰か他の人が近くにいるときは黙っておくね」
くろむは、無言でナビに頷いた。
(俺以外に見えないナビと話してるところを誰かに見られたら、
絶対に不審者にみえるよね・・・)
くろむ「とりあえず、無事でよかった」
「ここは、洞窟の出口に近いのか?」
アキナ「逃げ回っていたので、正確ではないのですが・・・」
「たぶん、徒歩10~20分ほどで外に出れると思いますよ」
「・・・・・」
「くろむさん!!!」
くろむ「ん?」
アキナ「命を助けて頂いた上、大変失礼なお願いだと思うのですけど、
よろしかったら街まで護衛していただけませんでしょうか?」
くろむ「こんな可愛い子のお願いを断ることはできないし、
俺でよければ護衛させていただくよ」
アキナ「か、かわいい・・・?」
くろむ「相当可愛いと俺は思うよ」
(ナビ「じーーーーーーーー」)
アキナ「え・・・・」
「くろむさんって変わってますね・・・」
くろむ「そうか?」
「そんなことより敬語と「さん」付けはやめてほしいな
そういうの苦手なんだ・・・・」
アキナ「わ、わかりま・・・ わかったよ」
「くろむさ・・・ くろむ、色々ありがとね」
くろむ「他の魔物が襲ってきても面倒だから、そろそろ街までいこうか」
アキナ「は、はい!!」
くろむ「護衛はするけど、道はわからないから案内は任せるね」
アキナ「はい! 案内はまかせて!」
二人は出口に向けて歩き出した。
道中、数回魔物と遭遇はしたものの、くろむが瞬殺を繰り返し、出口を目指す。
そして、二人は色々なことを話した。
・くろむは記憶喪失であり、この洞窟の最奥で目が覚めたこと。
・とりあえず外を目指して洞窟を探索していたこと。
・この洞窟は<森の洞窟>と呼ばれていること。
・最寄りの街であり目指している街は<自由自治国家:マイン>であること
・<森の洞窟>から<自由自治国家:マイン>は徒歩1時間ほどのこと
・アキナは鉱石の収集のために<森の洞窟>まできていたこと。
・そこでオークの群れに襲われていたところを助けてもらったこと。
(転生者であることとかは、バレたらたぶん面倒だろうし、
隠しておかないとね)
くろむ「鉱石収集のためにこの洞窟まできたのはわかったけど
一人でくるのは無謀だったんじゃないのか?」
アキナ「この洞窟の鉱脈は入り口に近いところに固まってるの」
「入口付近は<うさぎ>や<狼>の魔物しか本来はいないの」
「だから、さほど危険はないはずだったんだけど・・・」
「なぜかオークがいたのよ・・・」
「でも群れでなく、4匹だけだったのは運がよかったよ」
本来、オークは20匹以上の単位の群れでいるものらしい。
ナビ 「くろむがボコボコにしたオークの群れの生き残りが
外に向けて逃亡してたんじゃ・・・・・」
まさか、そんなことは・・・・
と思いつつも、否定できないくろむ・・・・・
(アキナが襲われたのは俺がちゃんと狩りきらなかったせいか・・・・)
罪悪感を覚え、自分が狩り洩らしたオークだったのかもしれないことを
アキナに伝えた。
アキナ「そ、そんなことは気にしなくていいですよ!」
「本当にそうなのかもわからないですし・・・・」
「むしろ、そんな群れを一人で倒せちゃうなんてすごい・・・・」
アキナはそう言いつつ、尊敬のまなざしをくろむに向けた。
謝罪をしたら、尊敬されるとか・・・・
そんな会話をしているうちに、二人は外に到着した。
アキナ「でれたぁ~~!」
くろむ「思ったより時間がかかったな」
アキナ「自覚している以上に逃げ回ってたみたいです・・・」
くろむ「アキナが無事だったんだし、よかったよ」
アキナ「・・・・そうだ!」
「街についたら、お礼を兼ねてお食事をご馳走させてください!」
「ご飯の美味しいお店を知ってるんです♪」
くろむ「いいのか?」
アキナ「もちろんですよ!」
くろむ「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
くろむは、
手持ちのお金がないこと
洞窟内で銀鉱石を回収したので、それを売り払いたいこと
をアキナに伝えた。
アキナ「街への入門料は、お礼の一部としてわたしに払わせてください。」
「銀鉱石は<冒険者ギルド>で買い取りしていますよ」
「わたし、一応冒険者ギルドに所属している冒険者なの」
「食事のあとにご案内しますね」
くろむ「そこまでしてもらってもいいのか?」
アキナ「命の恩人さんが遠慮なんてしないでください!」
くろむ「ぅ・・・」
「・・・正直助かることだから、好意に甘えさせてもらうよ」
アキナ「はい!」
二人は<ルイン>に向けて歩き出した。
しばらく歩くと高い壁に囲まれた街と大きな門が見えてきた
アキナ「あれが<自由自治国家:マイン>です。」
「この大陸内で唯一3大国の領土外の街であり、
都市そのものが一つの国家になってるのよ」
「まぁ3大国それぞれから色々と政治的な力が働いてるから
色々と政治方面は面倒なことが多いらしいけど、
それでもこの大陸内でもっとも自由で平等な街でもあるわ」
くろむ「へぇ~」
<自由自治国家:マイン>は貴族制議会政治をしているらしい。
貴族は、3大国出身のものが等しい数だけ存在しており、
議長が<自由自治国家:マイン>の国家元首にあたる。
議長は10年の任期で、国民の投票で選ばれ、
その他の議員は貴族の中から選出される。
3大国からそれぞれ3名づつの議員が選出され、
議長を含めた10人の議員で<自治議会>が運営されている。
そんな内情のため<自治議会>は空転することも多く、
議長は頭を悩ませることが多くなるそうだ。
くろむ「聞いてる限りでは、面倒ごとが多そうで、
自由とは程遠いイメージなんだけど・・・・」
アキナ「この国は自国の軍隊というものを持たない代わりに、
冒険者ギルドが軍事力を担当してるの」
「冒険者ギルドは、世界中に展開していて、
もちろん3大国にも存在するわ」
「3大国といえども冒険者ギルドにはお世話になっており、
冒険者ギルドを軽視はできないのよ」
「<自治議会>の歪な状況を<冒険者ギルド>の力と影響力で緩和して
なんとか<国>として機能させているといった感じかしら」
くろむ「ん~、冒険者ギルドに所属して、一定以上の地位を得れれば、
ここほど<自由>なところはないってことか」
アキナ「まぁ、そんなところね」
そんな話をしながら、<門>に入るための行列の最後尾に並ぶ。
アキナ「くろむは身分証持ってる?」
くろむ「元々はもっていたのだろうけど、目覚めたときにはなかったな」
アキナ「そっかぁ・・・・」
「本来なら門番さんに身分証を見せて門の中に入るのよ」
「でも、悪人とか以外なら仮滞在の身分証なら門で発行できるから
それを発行してもらえるようにわたしが話をしてみるね」
「ないとはおもうけど・・・・」
「悪人さんじゃないよね・・・?」
「身分証発行には<ステータスボード>を見せる必要があって、
犯罪履歴の情報は隠せないからさ・・・・」
くろむ「犯罪者ではないと思うよ」
「<ステータスボード>を見る限り、そんなことは書いてないしね」
そういいながら、くろむは自分の<ステータスボード>を
アキナに見せた。
(ステータスの<偽装>をしておいて助かったよ)
アキナ「ん~、たしかに犯罪歴とかはなさそうね♪」
「でもこのステータスってわたしより少し強いぐらい・・・・」
「これでよくあの圧倒的な強さに・・・・」
「あっ! ごめんなさい・・・」
「ステータスの詮索はマナー違反だったわ・・・」
「ごめんね・・・・」
くろむ「そこまで気にすることないよ!」
「俺の場合、きっと記憶喪失前に槍術とかがきっと得意だったんだよ
体はそれを覚えてるってことじゃないかな」
アキナ「そ、そっかぁ~」
「そういうこともあるかもね!」
行列はくろむたちの順番になった。
門番 「身分証をみせてくれ」
アキナ「はい、わたしのはこれです」
「ただ、この人はどうも記憶喪失になっているらしく・・・・」
「洞窟で助けて頂いた人なので、仮滞在の身分証の発行を
お願いできませんでしょうか?」
門番 「君はたしかランクCの冒険者だったよね?」
「その君を助けれる力を持っているなら発行自体は問題ないよ」
「ただ、決まりだからね<ステータスボード>の確認はさせてもらうよ」
くろむ「それは構いませんよ」
そういうと、くろむは自分の<ステータスボード>を門番に見せた。
門番 「ん~、特に問題のあるものはなさそうなので、身分証を発行しよう」
「発行は中の宿舎でするから、中についてきてくれ」
くろむは門番に引きつられ宿舎に入っていった。
門番 「はい、これが仮滞在の身分証だ」
「期限は3日」
「期限をすぎても滞在していた場合は、
重罪人となり奴隷落ちすることになるから気をつけてな」
くろむ「はい、わかりました」
くろむは<指輪>を手渡された。
おそらくこれが身分証となるのだろう。
門番 「君の強さなら<冒険者ギルド>に登録するといいよ」
「冒険者ギルドで発行される冒険証は身分証になるしね」
くろむ「わかりました、色々とありがとうございました」
くろむたちは、門番にお礼をいうと<ルイン>の街中へと向かった。
アキナ「ふぅ~~~~♪」
「無事かえってこれたわ・・・・」
「これもくろむのおかげね!! ほんとありがと!」
くろむ「可愛い子を助けるのは当然だから気にするなよ」
アキナ「か、かわいい・・・・」
「・・・・ またそうやってからかうんだから・・・・」
くろむ「ほんとのことなんだけどな・・・・」
ナビ 「あんたはほんとに・・・・・」
なぜかナビは呆れた声でそう言ってきた。
アキナ「じゃ、じゃあ! さっそくお礼をするためにご飯にいこ♪」
くろむ「おう、ちょうどお腹もすいてた頃だしな」
アキナ「味は期待してくれていいよ♪」
「ルインでも指折りの美味しいお店だからさ♪」
くろむ「そんな店って高いんじゃないのか?」
アキナ「そこは大丈夫!」
「旨くて安い!!! を売りにしているお店なの♪」
「まぁその結果貴族さまたちには睨まれてるみたいだけど、
庶民たちには嬉しいお店なのよ♪♪」
くろむ「ほぉ、かなり好感がもてそうなお店だな!」
アキナ「うんうん♪」
出てくる料理に期待しながら、
ふたりはアキナおススメのお店まで歩いていった。
ゴブ太のご飯に比べたらなんでも・・・ と考えていたのは内緒であった。