諦め
「ハァ…ハァ…ハァ…」
私は、目の前に佇んでいる炎に包まれた鴻、不死鳥を見上げていた。いや、見上げる事しか出来なかった。
既に体は動かず、立っている事もままならない。いや、それ以前に、もう戦う気力は無い。
諦めてしまった。
だからこそ、自分の為に傷ついてくれた彼女にも、救いの手を差し伸べる事すら…。
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「イーちゃん、この方向で合ってる?」
「はい、真っ直ぐです!」
誰もいない荒野を走り始めて十数分。ヘルトと別れてからは5分といったところだ。
ヘルトと別れたのは、出来るだけ広範囲に散った方が良いと云うヘルトの考えに従ったからだ。
そうして走っているとイーちゃんが、魔獣が集中している場所を見つけたからそこに向かっている。
と、
「キャァァァァァァァ!!!」
「グォォォォォォォォ!!!」
人々の叫び声や、魔獣らしきものの咆哮が聞こえてきた。地響きや、破壊音が聞こえてくる。
それを聞いたシーナは、
「イーちゃん、先に行くね!」
そうイリアに伝えて、『魔力状態』を使って飛行し、スピードを上げた。
「はい、お願いします」
無論イリアも、『魔力状態』を発動すればシーナと同じスピードで移動する事が出来るが、無限の魔力を持つシーナとは違い、イリアの魔力は有限。
魔獣と戦闘をするにあたって、魔力は出来るだけ温存しておきたい。そう云う理由で、イリアはシーナを先に行かせたのだ。
「お願い…」
現場に向かうシーナは、そう呟かずにはいられなかった。だが、先程聞こえた叫び声から何かしらの被害があったのは確かだ。
だからこそ、誰も死んでいない事を願った。
だが目に映ったのは、それと真逆の光景だった。ここは小さいが村だと、そう聞いていた。しかし、今その面影は殆ど残っていない。
建物は全て倒壊。村は火に包まれ、巨大な魔獣達が村を踏み荒らしている。そして、辺りは村人の血で赤く染まっていた。
これは全てが魔獣達の仕業、と云う訳では無い。だが、これらは全て地震の所為だ。
何故あんな事が起こったのかは分からない。だが、今はここに居る魔獣達を倒す事が、この場でやるべき事だ。
そう判断した。だから、魔獣討伐を開始した。
伊達に100年も超迷宮に潜っていない。見覚えのある魔獣ばかり。倒し方は身体に染み込んでいる。
風火土雷氷、全ての属性魔法を使って、効率良く魔獣を倒す。つまり、核を破壊していく。
そんな中、大きな地響きが鳴り始めた。一瞬地震か?とも思ったが、割れている地面から炎の鴻が飛び出してきた。
「っ!まさか…!」
その姿は、かつて出会い、敗北した存在だった。
「不死鳥…?…なんで…?」
その姿に身体が、心が震えた。足の震えが収まらず、呼吸も荒くなった。
その存在は数秒間こちらを見つめ続け、そして数秒後に行動に移った。
大きく息を吸い、口から豪炎を放ってきた。その炎は、前回戦った時とは比にならない程の威力だった。
だがその炎が目の前まで迫ってきても、足が地面に張り付いたように動かず、魔法を放つ事すら出来なかった。
(このままじゃ…死――
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(…どうだ?)
手応えはあった。今の俺が放てる最大攻撃の1つだ。
まず命中したし、命中したならばある程度のダメージ、もしくは死を与える事が出来た筈だ。
『破壊の全・波動』は地面まで届いた。当然、『青龍』は地面に叩きつけられたか、体を抉られたかのどちらかだ。
徐々に土煙が晴れてきた。その光景を見た時、コウヤは驚きを隠せなかった。
確かに『青龍』に攻撃は命中していた。だが、軌道をずらされていた。『青龍』は大地で創られたドームの中に居た。そしてそのドームは壊せていたが、それによって軌道がずらされ、『青龍』の脇腹を抉り取るに留まっていた。
だが、コウヤが驚いたのは『青龍』が生きていた事にではない。『玄武』の魔法によって、コウヤの最大攻撃の軌道をずらされた事にだ。
そして、この瞬間に断言出来る。『四獣』、こいつらを皆殺しにする為には、まず『玄武』を殺さなければならない。そうでなければ、殺しきれない。
「…良いだろう。なら、全力で相手をしてやる」
この瞬間、俺は『四獣』達を殺す為だけに行動し出した。自らの無敗と云う称号を、そして約束を違わない為に。
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瞑っていた目を開けると、そこには見慣れた背中があった。
「…イーちゃん?」
「はい。遅くなり、申し訳御座いません」
そう、その背中は、『黒氷の魔人』イリア・サナサードだった。既に『魔力状態』そして、
「【黒・氷の状態】」
体を黒氷に変化させた。シーナにとっては初めて目撃する、イリア・サナサードの戦闘が始まった。




