四獣
割れた大地から夥しい数の魔獣が這い出て来て、近くの人間達を殺している。老人から子供まで、一民間人からトップクラスの冒険者まで。
そこに例外は無く、ただ人々が殺されている。人々の阿鼻叫喚は、魔獣達の咆哮で掻き消される。向けた殺意と憎しみは、全て恐怖と絶望となって返ってくる。
辺りは火に包まれ、瓦礫の山と化した街に、巨大な化け物の足跡が響く。
正に地獄だ。空中を走りながら地上を見た俺は、そう思った。どれだけ強い人間でも、伝説と呼ばれる魔獣を同時に数十体も相手には出来ない。出来ることは精々、力の無い者達を置いて逃げ出す事ぐらいだ。
早く手を打たなければ、この世界は崩壊する。それを止めるためには、『大国』が手を組むしか無い。
まぁ、それでも救えるのは4分の1程だろうが。それでは困る。せめて半分は生きていてもらわなければならない。
『神』が止めていた地震を解放したのは、全ての『大国』に同盟を結ばせ、『神』の危険性を全世界に知らしめる為だ。
無論、俺がやったと知られればドルス魔国を離れる必要があるだろうが、その心配は無い。それを証明するための証拠は、この世のどこにも存在しない。
話を戻すが、俺が予定していた死者は、この世界の総人口の半分。『大国』が手を結んだところで、その数を生かす事は絶対に出来ない。
だから、俺がやるしか無い。
「『破壊の雨』」
『魔力破壊』で、雨程の大きさの球体を無数に創り出す。そして、それをそのまま地上に落とす。人間には当たらないように制御しておく。
これで、この辺りの大方の魔獣は消せるはずだ。この技は、謂わば鉄の雨。全ての魔力を破壊する、鉄の雨。防御する事も、回避する事も容易では無い。
だが、俺の『魔力破壊』の発動可能領域は半径100メートル。当然、それを外れれば、この雨は降り止む。
それでもし、魔獣が生きていたとしても、その魔獣がその場の人間達を皆殺しにしたとしても、俺には関係のない事だ。あくまで力の無かった、自分の身を守るための力が無かったから、そんな奴らの命を救う義理など、今の俺には無い。
今こうしているのも、自分の目的のためでしか無い。単純に総人口が半分以下になれば、この世界は復興不可能になる可能性があった。それを回避する為でしか無い。
そして、目的がもう一つあるとすれば…。
そう考えていると、コウヤの目の前にあるものが現れた。それを見たコウヤは、足を止め、空中に静止する。
「…来たか……」
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「うっ……」
まだ痛みの残る後頭部を抑えながら、沙霧はなんとか立ち上がった。何があったのかを知る為に、部屋の窓から外を見る。
「っ!これはっ!」
思わず、声に出てしまった。窓から見えた景色は、この世のものとは思えなかったからだ。と同時に、今起こったのが地震である、と云う事を瞬時に理解できた。
何故なら沙霧は、日本にいた頃にニュースで見た事があるのだ。今見ている景色に近い光景を。
割れた地面、壊れた建物、燃え盛る瓦礫の山。ただ一つ違ったのは、割れた地面から魔獣が現れた事だ。
状況はよく分からないが、分かることもある。地震が起こり、それによる二次災害と、割れた地面から魔獣達が現れた、と云うことだ。そして、自分のやるべき事も分かる。
それは、国に残っている『四天王』を始めとした兵士達と共に、民間人の避難と現れた魔獣達を退治する事だ。
そう判断するのに1秒とかからず、判断した瞬間に窓から外へと飛び出していた。
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「一先ず、私や護衛達は『勇者』殿を除いて各地へ分散。避難誘導と魔獣討伐を並行して行います」
同盟を結んだ『大国』は、これからどう動くかを議論していた。
「避難場所はどうする?」
イリアの提案に、ヘイズが質問する。
「各『大国』の城です。いずれも頑丈に作られていますし、大きいので避難民を匿うには丁度良いかと…」
「そうだな。それでいこう」
「我等騎士団は分散し、イリア殿の提案と同じ事をするつもりだ。SSS級の魔獣や、それより強いと云う魔獣達を相手にするには、我々がやるしか無い」
ヘルトはそう宣言すると、場の人間達に背を向け、走り出そうとする。
「まって!」
そんなヘルトを呼び止めたのは、シーナだった。
「なんだ?」
一刻も早く現場に行かなければならない、そう思っていたヘルトと苛立たせてしまうのは、このシーナの言葉では仕方がないだろう。
「私も行く!」
高らかに宣言した。
「分かりました。共に行きましょう」
イリアは静かに返事をした。
「なっ!?」
ヘルトは本当に驚いていた。世界を震撼させていた魔王が、自分も戦うなどと。いくら同盟を結んだからといっても、そこまで魔王が動く理由が有ると思えなかった。
「SSSはともかく、SSSSは本当に強い。私でも勝てるか分からない。人手は多い方がいいでしょ?」
否定出来なかった。確かに今は1人でも多くの手練れが必要だ。魔王の参戦は願っても無い話だ。断る理由は無かった。
「…」
何も答えず、走りだした。了承と受け取ってくれると信じたからだ。それにしても、先程の魔王の宣言には驚くべき内容があった。
私でも勝てるか分からない、だ。この世界で最高峰の力を持つ魔王でさえも、勝てると確信出来ない程の実力とは、一体どんなものか想像が出来ない。
そして、どれだけの人々が殺されるか分からなかった。だから急いだ。走った。全速力で。
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コウヤの目の前で起こった現象とは、空間に『穴』が開いた事だ。『天使』ソレイが開いたものと同じ『穴』が、目の前に出現した。
それも、これまで見てきたものとは比較にならない大きさのものが、前方、後方、そして左右に。
「…来たか……」
そして、出てきた。『穴』の両端を掴み、咆哮と共に這い出てきた。
出てきたのは、4体の獣。白い虎、赤い鳥、青い龍、黒い亀。いづれも似ていた。地球にいくつも存在する伝説の存在と。
四獣。四神とも呼ばれ、天の四方の方角をつかさどる霊獣とされている。東の青龍、南の朱雀、西の白虎、北の玄武。
現れた獣達は、彼等と余りにも容姿が似ていた。獣達がオリジナルなのか、彼等がオリジナルなのかは分からないが、少なくとも『神』が俺に刺客を送り込んできた事は確かのようだ。
「行くぞ…『神』のペット共」
その宣言と共に、俺は『白虎』に向かう。鞘から出した『魔滅』に『魔力破壊』を纏わせ、斬りかかった。
それに反応した『白虎』はその強靭な爪で、同じく俺に斬りかかった。
奴の爪と俺の『魔滅』がぶつかり合い、辺りに尋常ではない衝撃が走った。




