二次災害
(…始まった)
この場において唯一状況を把握できていたのは、コウヤに全てを知らされていたイリア・サナサードだけだった。
と言っても、情報として知っていただけで、こんなものだとは思っていなかった。
とても信じられるような話では無かったが、コウヤだから信じた。だが、内心信じきれていなかった。そんな事があるはず無いと。
だが、実際に起きた。この時点で彼の言った事は全て本当だと考えられる。であれば、迷宮内から魔獣が溢れ出てくると云う話も本当なのだろう。
この地震と云うものは、本当に恐ろしいものだ。止める手段は無く、被害は甚大。建物が崩れ、地面が割れる。そして、被害はそれだけでは済まないだろう。私には何が起こるかは予測できないが、それだけは分かる。
そして、そんなものを長期間止められる『神』と云う存在は、一体どれ程強大な存在なのだろう?そしてそれも、私には分からない。
「っ!!」
なんて考えている暇は無かった。天井から屋根が落ちてくる。壁が倒れ、地震の揺れで立つ事もままならない。
その場にいる『大国』のトップの護衛達でさえ、反応出来なかった。そして唯一反応出来たのは、この場で誰よりもこの状況に詳しかったイリアだけ。
揺れる大地になんとか足の裏を繋ぎ、
「【氷の丸屋根】」
氷のドームを、この場の全員を覆うように創り出した。大地の揺れを止める事は出来ないが、降ってくる瓦礫や倒れてくる壁から皆を守る事ぐらいは出来る。
氷に幾つか皹が入ったが、降って来た瓦礫を全て受けても壊れる事はなかった。
彼の話によれば、『地震』はそこまで長時間は続かない。それまで耐えられればと考えていた時に、ようやく揺れが収まった。
それを確認すると、【氷の丸屋根】を解除して周囲を確認する。頑丈に作られている筈の、この白の領地の建造物ですら、その全てが瓦礫と化している。
だが、それだけではなかった。瓦礫からは火災が発生し、割れた地面からは、多くの魔獣が咆哮とともに這い出て来ていた。
「五月蝿い…!」
その咆哮が煩わしく聞こえたので、そのイライラとともに全方向に黒氷を展開し、這い出て来た魔獣を核ごと刺し貫いた。
辺りが静かになったところで、場の全員に目を向ける。
「皆様、大丈夫でしょうか?」
そして、一応全員の安否を確認する。
「大丈夫だよ!ありがとう!イーちゃ、イリアさん!」
思わずイーちゃんと言いそうになってしまったが、急いで訂正するシーナ。満面の笑みで答えた。
「我らも大丈夫だが…これは一体…?」
辺りを見回し、混乱した様子で答えるヘイズ国王。
「答えてやろうか?」
上空から聞こえた声に、その場に居た全員が目を向ける。そこには、まるで空中に立っているかの様に佇んでいる『死神』が居た。
黒いローブを身に纏い、骸骨の仮面を付けた『死神』は、ただそこに佇んでいた。
「『死神』!」
最も驚いたのは、かつて『死神』と対峙した騎士団団長ヘルトだった。
「この状況を教えてやる。この大地の揺れ『地震』は、この大陸全土で起こっている。どんな場所でも殆どの建造物が倒壊し、様々な二次災害が発生している。
そして、迷宮内から大量の魔獣が這い出て来ている」
「「な!」」
「そこには、伝説と呼ばれるSSS級の魔獣や、それを上回る実力を持つSSSS級の魔獣も含まれる」
「「っ!」」
「俺から言える事はこれだけだ」
それだけ言うと、『死神』は姿を消した。この場に居た誰もが認知できるスピードを超えて。
「…直ちに行動を開始すべきです。『死神』の言う二次災害もそうですが、魔獣からの被害が尋常ではなくなると考えられます。
それに、丁度今ここに『大国』のトップが揃っているんです。私達全員が力を合わせなければ、この事態の対処は不可能です。
ヘイズ国王殿も、協力してくれますよね?」
「…ああ。そもそもさっきそう言うつもりだった。そしてこうなった以上、そうせざるを得ない…」
「有難うございます」
ここに、全ての『大国』による同盟が結ばれる事になった。奇しくも、それは『人魔大戦』勃発の引き金となった『大国会談』と同じ日だった。
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「始まったね。これからどうなると思う?」
地震の惨状と、コウヤの行動を見て、隣にいる者がどう思っているかを確認したくなった裕翔は、そう話しかけた。
「…」
その者は、ただ『魔力状態』を発動しているだけで、何も答える事は無かった。
それを見て裕翔の表情は、少し曇った。




