信念
一切躊躇はしなかった。止める理由もなければ、助ける義理もなかったからだ。既に、何の罪もない人間を大量に殺して来ている。今更迷うことも無い。
加えて、彼女の傷は深すぎる。生かす為には『自動再生』を使うしかない。そんな事をする訳にはいかない。
ただ、俺に助けを求めて来た少女は、奴隷としている頃にはずっと見つめて来ていた。俺を見て、何か感じるものがあったのかも知れない。
その内容までは分からないし、知ろうとも思わなかったが、ブライト皇子を殺したのが『死神』だと云う情報を知っている時点で、こいつは殺す事を決めていた。
そして、その他の奴隷達も例外では無い。元よりこいつらは、既に周りからは死んだと思われているはず。ここで死んだとしても、それによって悲しむ人間はいない。
元々ブライトに殺される運命だったのだ。例え俺がブライトを殺してしまったとしても、彼女達の運命は変わらないはずだ。
そして彼女らも、このまま生きていても辛いだけだ。
だからと言って殺人を正当化するつもりはないが、無意味では無いと云う事は理解してくれるだろう。
その思いで、俺は俺に手を伸ばして助けを求めて来た少女の心臓を『魔滅』で刺し貫いた。彼女には何の罪も無い。だから、意識を未だ残している彼女には、せめて自分の死を噛み締めて欲しい。そう思って、『暗殺の斬撃』は使わなかった。
彼女の心臓から『魔滅』を引き抜く。と同時に血液が勢い良く吹き出し、彼女の目から光が消えた。
吹き出した血液が俺にかかる事は無かったが、周りを赤く染めるのには十分な量だった。
部屋を見回し、まだ息のある少女達は4人である事を確認し、1人ずつ『暗殺の斬撃』で殺していく。
意識が無い彼女らにとっては、首を刈り取られるのも心臓をくり抜かれるのも同じだ。だから、『暗殺の斬撃』を使った。
自らの死の瞬間は意識を持っていて欲しいが、彼女らに意識は無いし、既に心が壊れているようだった。城にいる人間は、出来るだけ同じ殺し方をしたかった。だから、『暗殺の斬撃』を使った。
城の人間で『暗殺の斬撃』で殺さないと決めていたのは、皇帝、皇子らだけだったが、もう1人増えるとは思っていなかった。
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ブライト皇子の部屋の扉よりも、更に大きい扉。『皇帝の間』に繋がる扉だ。中にはブラート皇帝と、その護衛が3人いる事は分かっている。
そして向こうも俺の存在を知っているようなので、そのまま扉を開く。まぁ、実際は俺が態と気配を掴ませてやったんだが。
これには理由がある。クレイム法国の時のように、実力者と戦っておきたいのだ。今回は正直期待していないが、一応やっておこうと思った。
この国の最高の実力者であり、支配者のブラート・アルナラは騎士団程度の実力を持ち、護衛の『三槍』は3人がかりならばブラートに勝てると聞く。
扉を開けると案の定、中央の椅子に皇帝が腰掛け、その横に『三槍』が控えるようにして立っている。
彼等に向かって、ゆっくりと歩いていく。皇帝との距離が10メートル程になったところで歩みを止めた。
「侵入者よ。何が目的だ?」
最初に沈黙を破ったのは皇帝。こちらを見下すように聞いて来た。
「貴方の娘の頼みを引き受けた。それだけだ」
「…ソフィアか。何か企んでいるとは思っていだが、まさかここまで大きく出るとは思ってもみなかった…」
「そこまで彼女が本気だという事。既に皇子も殺した。後は貴方方を殺せば、クーデターは終わる」
「フッ…我ら全員を相手にして、勝てると思っているのか?」
椅子から立ち上がりながら発言したブラート。言い終わると、こちらに近づいて来た。当然、後ろから『三槍』も来ている。
「…何故お前らを暗殺では無く、正面戦闘で殺そうと思ったか分かるか?」
「つまり、我らと戦いたかったという事か?」
間違ってはいないが、正解でも無い。
「ああ。暇潰し程度にはなると思ったからな」
実際は、世界に名を馳せる皇帝と『三槍』が、どこまで俺を戦わせられるのかを知りたいだけだ。
『神』対策の一環である。実力者との戦闘は元より期待していない。帝国ならば、他国に隠している秘密兵器ぐらいはあると思ったが、皇帝達を見ている限りでは、それは無い。
そう考えていると、突然『三槍』が全員同時に飛び出して来た。余程さっきの言葉が気に障ったのだろう。
3人は、上、右、左からの3方向同時攻撃をやって来た。タイミングはバッチリで、良く連携がとれているのを理解出来る。
それに、会話の途中に攻撃を仕掛けてくるという不意打ちも、中々良かった。
だが、それならもう戦闘は始まっていると考えて良い。そういう事になる。
だから俺は『魔滅』を抜き、3人全員がほぼ同時に攻撃して来たので、『暗殺の斬撃』で全員の首を斬った。
当然、返り血も無ければ首が飛ぶ事もない。ブラートには、ただ『三槍』が突然倒れたように見えただろう。だが、流石は皇帝。彼等の死にはちゃんと気づいている。
表情にも態度にも出さないが、内心はかなり焦っている。それは、見れば分かる。
「悪いがこの通りだ。貴方方では相手にならない。大人しく首を飛ばされてくれると嬉しいんだが?」
「……断る!」
案の定断ってきた。と、同時に『魔力状態』を発動してきた。
「【筋力倍加】」
それに加えて、固有魔法で筋力も上げてきた。力の差は歴然なのは分かっているはずだが、それでも勝とうとしている。それだけ強い信念を持っているという事だ。
やり方は汚いし、その志も褒められたものではない。だが、それを目指していく信念だけは、認めても良いと感じた。
「オオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
奴は全速力で、拳を握りしめて向かってくる。その一撃をまともに受けたとしても大したダメージにはならないが、その覚悟を認め、そんな事はしないと決めた。
「じゃあな、皇帝」
その言葉と同時に、『魔滅』でブラートの首を斬り飛ばした。
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扉を開く。そこまで大きい扉じゃないが、そもそも入る人間が少ないのだろう。中は、15歳の少女の部屋にしては質素で、生活に必要な物しか置いていない、という感じだった。
中央には机1つと椅子が向かい合わせにして2つ置いてある。奥の椅子にはこの部屋の家主が座り、その後ろには2人の女性の従者が控えている。
「…終わったぞ。ソフィア」
それを聞いたソフィアはすぐに笑顔になり、近くに駆け寄ってきた。
「ありがとうございます!これで、クーデターは成功ですね!」
そう言いなが俺の手を握ってくる。今までに聞いたことのないような高い声で、その笑顔は誰もが魅了されるほどに光り輝いていた。
瞬間、ソフィアが唇を俺の唇に重ねた。
(これは……)
そのままで数秒経つと、俺の口から薄紫の痣が広がっていった。その痣が首に巻きついた事を確認したソフィアは、俺の唇から離れた。
「…成功ね。いくら貴方でも予想出来なかったでしょう?」
コウヤから答えは返ってこない。ずっと俯いたままで、首に巻きついた痣が薄紫色に光り続けている。
そんな事は御構い無しに話し続ける。
「私の固有魔法は『魅了』。キスした相手を私に惚れさせられる事が出来るの。性別は関係なくね。後ろの2人もそう。私の部下達はみんなそうなの」
話し始めたソフィアは、先程とは別人の様な冷たい表情と暗い声だった。
「そして私の目的って、クーデターじゃないの。まぁ、貴方ならもう理解してるだろうから何も言わないけどね。なら、今からドラス魔国に行ってくれる?もう私の部下達が戦ってるはずだから急いでね」
そして、突然ソフィアの表情は明るくなり、満開の笑顔になった。そしてとても明るい声で言った。
「お願ーい!」




