皇子の死
『死神』は止まらない。既に皇帝城の4階までに居た人間は、全て息絶えている。
皇帝城は全5階。残るは最上階のみである。最上階には、皇帝の間以外には皇帝、皇子、皇女の部屋しか存在しない。
まず狙うのは、皇子ブライト・アルナラ。奴は、俺を自分の部屋に呼び寄せている。遅くなれば疑問に思うだろう。
だから疑問を持つ前に殺す。と言っても、疑問を持ってはいないだろう。なぜなら、まだ俺が『奴隷部屋』から出てから5分も経過していない。
『次なる境地』『暗殺の斬撃』を併用すれば、俺の存在がバレる事はまず無い。
死体を見たところで、見た目はただ倒れているだけ。常人には死体を『死体』と認識することすら出来ない。
今回の暗殺はかなり楽だ。ただ殺せば良いだけ。人数も場所も限られている。実力者も居ない。
ただ、油断はしない。暗殺の例外として、門番がいる。彼らを殺せば外部からの侵入と思われる。それはダメだ。飽くまで、ソフィアがやったと思わせる必要がある。だから、門番は殺せない。
だが、これはリスクでもある。門番は交代制だ。24時間警護をしているが、当然ずっと1人がやるわけでは無い。ここの門番は3時間毎に交代している。当然、その3時間がくれば今の門番は城に戻ってくる。そうすれば、他の門番が全員死んでいることを知るだろう。
そうなる前に、全てを終わらせておきたい。門番が戻ってきたら、全員死んでた。これが理想だ。因みに、門番が最後に交代したのは約1時間前。あと2時間程ある。
正直余裕だ。まぁ、最後は少し時間をかけるつもりだが。
そして、今は5階にいる。重ねて言うが、下の階にいる人間は全員殺した。当然、何も知らない人間や、何の罪も無い人間達も殺している。必要な犠牲というやつだ。
だが、これは別に命を軽んじていると云う事では無い。命は最も尊いものだし、何にも変え難いものだ。 それは、俺が最もよく知っている。
だが、ここで止まるわけにはいかない。人間を殺すことによる恐怖や悲しみを感じる事が出来る程、今の俺は普通じゃない。
だが、当然覚悟は出来ている。人間が人間に害を与えれば、その害を返される事を覚悟しておかなければならない。
その覚悟は持っているが、その罪が消えるという事では無い。その罪が消える事は、一生無い。その罪を、一生背負っていく覚悟も持たなければならない。
そして、その罪を受け入れきれないものは、『罪人』となる。
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歩いて行く。ゆっくりと、歩いて行く。向かうはブライトの自室。
入室を許可されるのは、表向きには父親の皇帝と妹の皇女のみ。だがその裏では、自分の玩具となる存在は簡単に許可を出す。
ブライトは、言って仕舞えばクズだ。あの勇者よりはマシだが、十分なクズだ。
皇子と云う絶対的な力を振りかざし、どんな横暴も許されるクズだ。国の事は何1つ考えておらず、毎日が楽しければそれで良いと思っているクズだ。
別に、購入した奴隷をどんな風に扱おうがどうでもいい。そんな事で一々怒りは湧かない。
ただ、報いを受けたと思えば良い。自分の娯楽の為に、あらゆる存在に迷惑をかけた。玩具にしたい存在がいれば、あらゆる手を使ってその存在を奴隷にして、奴隷として扱う。
そしてその存在を使い捨ての玩具としか思わない。それに怒りを持つわけでは無いが、理解はして欲しい。
自分の今までの行いがクーデターと云う事態を引き起こし、自らの首を刈り取られるという事を。
そして扉の前に来た。ブライトの自室の扉の前。普通に開けて入っても良いが、奴に考える猶予を与えてしまう。そんなものを奴にくれてやる必要はない。
奴に必要なのは、恐怖までの一瞬の動揺ではなく、突如現れる恐怖だ。
故に、俺は『魔滅』で『暗殺の斬撃』を使用し、扉を幾多もの正方形に切断し、バラバラにした。
そして、その音が響く前に扉の上部から部屋に侵入。と同時に部屋にいたブライトのボディーガードを全員殺した。首を引きちぎり、死んだ事を分かりやすくした。当然、返り血は付いていない。
そしてブライトの目の前に移動し、そこで止まった。
「なっ!!……ハァァ?!」
一瞬、俺が目の前にいる事に驚いた様だが、ボディーガードの血飛沫を目にして尻餅をついた。まるで、信じられない、と言った様子で俺を見ていた。目と口を大きく開けて。
「…な……何だお前はぁっ!!!」
どうやら、俺には気づいていないらしい。フードを被っているだけだからバレても仕方ないと思っていたが、恐怖でそれどころじゃない様だ。
仕方ないから、フードを取ってやった。
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(やはり、俺の予感は正しかった…)
それを、目の前にいる女は体現してみせた。凄腕の俺のボディーガードを皆殺しにし、いつの間にか俺の前に立っていた、この女だ。
元々、感じていた。奴隷市場で見つけた時から、幸福感と一緒に恐怖があった。あれ程の存在はそうは居ないが、俺以上の存在なのではないかと。
だが、その考えは直ぐに捨てた。それ程までに、あの時の俺は幸福感に酔っていた。あの底知れなさを、知るのが楽しみだった。そして、全てを壊してやりたかった。
例え自分より上の存在でも、『奴隷の首輪』と『魔封じの腕輪』があれば、逆らえる訳が無いと。
だが、それは違った。目の前の女はその2つを既につけていない。自分が手を出して良い様な存在ではなかったのだ。
女の事は何1つ分からないが、1つ知ったことがある。
自らの死は免れないと。
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俺は、こいつの問いに答えてやる事にした。
「…死神だ」
「…?」
知らない様だ。まぁ、知る訳ないか。世界のことなど、この男にとってはどうでも良いのだろう。ただ楽しければ良いという男だ。世界を脅かす存在の事など知るはずがない。
ゆっくりと、一歩踏み出した。その一歩は、ブライトにとって、死へのカウントダウンそのものとなる。
「う、うあああああっ!くっ、来るなぁぁぁぁ!!」
叫び声は無視し、歩む。
『魔滅』を振りかざした。
「アアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!」
そして、首を斬った。首と共に赤い液体が周囲に散らされ、部屋の景観を損なう。
いや、部屋の景観は元から損なわれていた。大きな部屋で、中央には巨大なベットがある。
その上には、ブライトに壊されたと思わしき少女達。虚な目をする少女達に意識は無さそうだった。血に塗れ、奴隷服は殆どその原型を残していない。それに例外は無く、酷い匂いがする。
ベットに横たわる者、十字架に磔にされる者、床に転がっている者や、壁にもたれかかっているものなど、様々だ。
何があったのかは分からないが、相当な事をされたのだという事は分かる。
ザッと部屋を見渡して部屋を出ようとすると、か細い声が聞こえて来た。
「……たす…………け………て……」
振り返ると、うつ伏せとなっているその黒髪の少女は、しっかりとこちらを見つめ、手を伸ばして来ている。
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(…助かる…の……?)
か細い意識の中で、そう疑問に思った。何時間もの時間に感じられた地獄は、突如終わりを迎えた。
ブライトの首が切断されたのだ。やったのは、黒い衣に身を包んだ女の人?と、一瞬思ったが、直ぐに思い出した。
彼女だ。共に、ブライトに奴隷として購入されながらも、ずっとその目を変えなかった彼女だ。
驚いた。そして、助かると思った。
助かりたい、逃げたい。その一心で、声を出して、精一杯手を伸ばした。
助かると思った。終わると思っていた自分の人生は、まだ終わらない。そう確信して、自然と笑顔になった。
だけど、彼女が差し出したのは自分の手を握ってくれる救いの手では無く、自分に死を与える刃だった。




