帰国
『奴隷』は何者なのか?
「皇子。見えてきました」
「…そうか。分かった」
ブライト一行は、数日をかけて何とかスレイル帝国に到着した。その間ブライトが何をしていたかと言うと、何もしていなかった。いや、睡眠はとっていたが、それ以外は何もしていなかった。
そして先程までずっと寝ていたのだが、家来の1人から国が見えてきたと言われ、やっと起きたのだ。
流石に外出中に皇子がずっと寝ていたなんて知られたら、かなり恥ずかしい。だから、民衆の前では立派な皇子を演じる必要があるのだ。
起きると直ぐに、寝巻きから皇子の衣装に着替え始めた。
着替え終わり、進行方向を見たブライトは、かなり国に近づいてきたと感じた。国の門が見えてきていたからだ。
「…ん?」
見つめていると、門の前にいくつか馬車が止まっている事に気付いた。最初は遠くて良く見えなかったが、近づいて行くにつれ、その馬車が見覚えのある馬車だと言うことが分かった。
「…あれは、ソフィアの馬車か?」
間違いない。妹、ソフィア・アルナラの馬車だ。確かソフィアは、コウヤと云う人間の調査の為に国外に出ていた筈だ。つまり、その調査が終わったから帰って来たのだろう。
「って事は、親父に呼び出されそうだな…」
ソフィアの調査は『大国会談』の為のものだ。その調査が終わったと言う事は、父親と妹と自分とで『大国会談』についての話し合いが行われるだろう。その調査の結果も踏まえて。
「楽しみは御預けか…」
と言っても、長時間になる事は無いだろう。楽しみが少し遅れるだけだ。そう考えると、そこまで苦にはならなかった。
それを考えているブライトは誰よりも気持ち悪い笑みを浮かべた。
(ククッ…本当に楽しみだ。あの全てを見透かしている様な女が、どんな声で喘ぐ様になるのか…)
「…本当に……楽しみだ…」
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「…戻ったかソフィア」
「はい、お父様」
ここは、スレイル帝国の中心に存在する皇帝城。その最上階にある皇帝の間。中央にある、金などの豪華な装飾を施された椅子に腰掛けるのは、スレイル帝国皇帝ブラート・アルナラ。
そこから少し離れた所で跪くのは、帝国皇女ソフィア・アルナラ。
この広い『皇帝の間』は、数メートルはある大きな扉から鮮やかに刺繍された絨毯。ブラートの背後は全面がガラス張りになっている。壁には、歴代の帝王の肖像画が立てかけられている。
「…報告を聞こうか」
「はい。ご報告します」
帝国皇女であるソフィアが何故、こんな諜報活動をするのか。それは、ソフィア自らが志願していたからである。
国の為なら何でもする。その心意気を、皇帝であるブラートは十二分に利用しているのだ。勿論、ソフィアの能力が高いというのが、1番の理由なのだが。
ソフィアは顔を上げ、ブラートの目をしっかりと見て発言した。
「コウヤ・ハラグチは、レースティリ王国が齎した情報通り、人間ランク金。その中でも、実力がかなり高いそうです。先に開催された『勇者×剣術祭』ではかすり傷一つつけられることも無く優勝したとか。
そして既にレースティリ王国には居ない様です。居場所は分かりませんでした。
ただ…」
「…ただ、何だ?」
「お父様が以前に利用し、奴隷にした女。覚えておりますか?『三槍』を使ってまで利用したと聞いています」
『三槍』とは、ブラート直轄の部下の中でも実力の高い3人の事だ。オリバー・アルナラ、ノア・アルナラ、カティ・アルナラの3人だ。名前から分かる通り、彼らはブラートの子だ。
だが、正室との子ではなかったので世間には隠している。その代わりに直轄の部下とした。『三槍』と呼ばれるのは単純に彼らの実力が高いと云う事だ。
だが、それはブラートの血がそうさせたと考えられる。ブラートはこの国で最も強い。その実力は、騎士団を超えるとも言われる程だ。
「雨露 沙霧か…確かに覚えているが、あの女が何だと言うのだ?実力は高かったが、『奴隷の首輪』を付けられては実力など関係ないだろう?」
「確かにそうです。彼女は奴隷となりました。しかし、その先に問題があったのです」
「その先?」
「雨露沙霧を購入した者です。何の因果か、彼女を購入したのはコウヤ・ハラグチだったのです」
「っ!何故そうだと分かった!?」
「情報を集めていたところ、コウヤ・ハラグチには共に行動している者がいると。更にその者の特徴が雨露沙霧に酷似していたので、奴隷市場に行って聞き込みをしました。そうすると…」
「…成る程」
「私は危険だと考えています。ただでさえ、コウヤ・ハラグチは実力者。更にそこに雨露沙霧が加わるとなると、かなり厄介な事になるかと…」
ブラートは少し考えると、こう結論付けた。
「だが、居場所が分からないことには対処の仕様が無い。奴がこの国を狙う理由も無いだろうし、今は放っておいて問題無いだろう。それより、今は『大国会談』だ」
「はい。分かっております」
「ブライトはまだか…」
少し、怒りを含んだその言葉を否定するかの様に、扉が強く開いた。
「到着、遅れたことをお詫び申し上げます。帝国皇子ブライト・アルナラ!ただいま参上仕りました。お父様」
右手を左胸に当て、頭を少し下げた。そこに反省の色は一切無かった。だが、それに怒る人間はこの場にはいない。彼のこう云う性格を知っているからだ。
「…まぁ、良い。お前にはあまり関係の無い話だったしな。それよりも、今回はどれだけ買ったんだ?」
半端呆れながらそう聞いたブラートに、待っていましたとばかりに大きな声でブライトは答えた。
「はい!今回は11人です!ですが、その中の1人は、かなり好みでしたね。かなりもつかと…」
「…」
「ほう、珍しいな。そこまでの奴がいたのか?」
いつも数日で奴隷を遊び潰すブライトがかなり好みだと言っているのだ。少しではなく、かなり意外だった。
「はい!この私をもってしても、堕とすのにはかなりの時間を有する事になるかと…」
これにも驚いた。それほどの精神力を持つものが居たとは。
「…まぁ良い。それより、これから『大国会談』についての話し合いを始める。分かっているな?今回の『大国会談』は、『世界支配』の為の第一歩だ」
「「はい」」
だが彼は、いや、彼らは知らない。自らの望みが叶う事は、決してあり得ないと云う事を。




