夜営
『奴隷』というのは、ブライトに指名された奴隷を意味します。分かりにくいと思ったので。
全然意味分かんないストーリーだと思われるかもしれませんが、今回は重要な情報がでてきます
「オラァ!早く入れ!」
ブライトは『奴隷』の首に付けられている『奴隷の首輪』を掴み、馬車の中に勢い良く投げ込む。
その後に、ブライトの家来達が他に奴隷とした者達を同じ様に次々と投げ込んでいった。投げ込まれる奴隷達はやはり全員が女で、その殆どが黒髪だ。泣き噦る者が居れば、表情を一切変えない者。様々だ。
そして当然、全員が『奴隷の首輪』と『魔封じの腕輪』を付けられている。と、同時に全員が傷だらけである。
ブライトが引き連れてきた馬車は6乗。1乗は自らが乗る為のもの。1乗は奴隷達を乗せる為のもの。残り4乗は護衛達が乗る。護衛は全員が、最低でも人間ランク赤以上の実力者達だ。
その全員が乗り込んだのを確認すると、
「国に帰還する!走らせろ!」
そう叫んだ。その言葉通りに、6乗の馬車は煙を立たせながら一斉に走り始めた。スレイル帝国を目指して。
その選択が、彼の全てを奪う行為だと知らずに。
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この世界は1つの大きな大陸である。有明月に似た形になっている事が分かっており、その周りには塩水が広がっている。この世界にある塩が全てそこから取られている事を考えると、かなりの体積があると考えられている。
更に近年の研究では、この世界は大きな球体である可能性が高いと云う事が判明した。これまでは、この世界は平面であると考えられてきたが、『予知』と呼ばれるミア・ナーマメントがその可能性がある事を発表した。
彼女は星の見え方などからそれを考え出したのだと言う。世界的にも有名な人間の言葉なので、信じる者も多かった。
「となっておりますが、私は…」
「もう良い!さっぱり分からん!俺はもう寝る!朝になれば起こせ!」
「…かしこまりました」
ブライト達が奴隷市場を出発してから、既に数時間。辺りは暗くなっていた。
奴隷市場からスレイル帝国は、他の大国と比べれば最も近い。が、馬を休みなく走らせても数日はかかる。こればかりは仕方のない事だった。
その為夜営をする必要がある。だからこそ、ブライトは毎度護衛を多く付ける。食糧も十分に持ってきている。これほど安全な夜営はこの世界には殆ど無いのだが、そのためにブライトはとても暇だったのだ。
この集団に襲いかかってくる盗賊などいるはずもなく、魔獣が地上に出てくる事など滅多に無い。故に暇なのだ。奴隷で遊ぶと云う手も有るが、ブライトはつまみ食いはしない。つまり、自分の家でゆっくりとしたいのだ。こんな場所で行うのは自分のポリシーに反する。
だが、暇なのだ。辺りが暗いといっても何時もならまだまだ起きている時間。簡単には眠れない。だからどうにか暇を潰そうと、護衛の1人に話を聞いていたのだ。
全く理解できずに寝る事になったが、数日後にあの女と遊んでいる事を想像し、ブライトは楽しみで眠れなかった。
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静かだった。これがここの感想だ。ここ、というのは私達奴隷が入れられている馬車の中のことだ。
最初こそ泣き叫ぶ者がいたりして騒がしかったが、今は静かだ。皆、理解しているからだと思う。これからの事を。そして、受け入れたのだと思う。
私達を買ったのは、スレイル帝国皇子のブライト・アルナラだ。彼の事は奴隷になる前から知っていた。
彼は奴隷を良く買う。勿論女の人だ。そして、大抵が黒髪ロングの女の人。特にクールな雰囲気の人が好きらしく、そのクールな雰囲気を自分の手で捻じ曲げるのが好みらしい。
この話はとても有名だったので、私は自分の黒髪がとても迷惑に思えた。話は戻るが、この話は私の村の人間は全員が知っていた。何故なら、私の村は帝国の支配下にあったからだ。そして、数ヶ月に1度の感覚で村人の誰かが奴隷市場に売られる。それも、女の人だけ。
いつかその時が来るというのは分かっていた。けど、村には帝国の見張りがいて、逃げ出す事は出来なかった。
だから受け入れていた。自分には未来が無いことを。だけど、絶対に生きてやる。その思いだけは、胸にずっと抱いていよう。そう思った。どんなに苦しくても、死にたいと思っても、懸命に生きていこうと思った。
奴隷市場で見世物にされている間も、それは変わらなかった。だけど運が悪かった。私は、帝国皇子のブライトに買われた。
彼は必ず奴隷を廃人にした後、ゴミの様に捨てるのだという。そして、捨てられた奴隷はその日のうちに灰にされるという事も知っている。
これでは、自分の死は免れない。既に『奴隷の首輪』に彼の魔力を流された。もう逃げ出す事は出来ない。いや、どんな時もそんな隙は無かった。
だけど彼女は、私よりも運が悪いと言えるだろう。そう、ブライトに指名を受けて奴隷になった彼女だ。私は黒髪なだけで、ロングでは無かったし、クール系でも無いので指名は受けなかった。
だけど彼女は、黒髪は勿論、ロングでしかもクールな顔立ち。そして何よりも全てを見透かしたかの様なあの鋭い目。あの美しさにブライトが黙っているわけは無かった。
私は彼女のオマケで指名された様なもの。良い事なのか悪い事なのかは分からないが、とにかく、彼女以上の事はされないという事だ。
だけど、恐怖が消えるわけでは無い。だから泣き叫ぶ者がいたりするのだ。だがその者も諦め、自分の運命を受け入れたのだと思う。勿論私も。
だから静かになった時に、全員が運命を受け入れたのだと思った。だけど、違った。彼女だけは違った。ブライトに直接指名された彼女だけが。
奴隷市場で見た、あの鋭い目はあの時のままだった。一切変わる事なく、その黒い瞳は輝き続けていた。これからどうなるかは分かっている筈なのに。
ずっと見ていると、彼女の表情は少し、笑っている様に見えた。




