選択
「クーデター!?」
沙霧が、間の抜けた大きな声を出した。
「ちょっ!大きな声で言わないでくださいっ!誰かに聞かれるかもしれないじゃないですかっ!」
「ご、ごめん…」
ごもっともな意見だ。クーデターを起こすというのに、それが露見でもしてしまったら確実に失敗する。まあ、今この辺りに人はいないが。
「で、それは本気か?」
俺は、真面目に聞いた。この返答次第で、俺の今後の行動が色々と変わってくるからだ。
「…はい。本気です」
真っ直ぐな目で、俺の目を見てきた。その目を見れば、クーデターを起こす事は本気だと云う事が分かった。
「…分かった、信じよう。だが、ここまでの経緯を教えてくれるか?どうやら、沙霧には嘘を吐いていた様だしな」
ソフィアは、暗い表情を見せ、少しの間俯いていたが、数秒後、顔を上げて話し始めた。
「…私は、ずっと帝国のやり方を正したいと思っていました」
「…と言うと?」
「大国と呼ばれる前は、皆が協力し合っていたとても良い国だったそうです。苦難も多かった様ですが、それ以上に笑顔が絶えなかった、と…」
最初は明るい声色だったが、話し続けるに連れて、どんどん声が暗くなっていく。
「でも、今の帝国は違います。大国と呼ばれて付け上がっています。近くにある小国を、保護と云う名目で貿易や国の取り決めを支配し、金銭を巻き上げ、更には女子供を攫って、彼らを売ってお金に変えたり、奴隷にして過酷な労働を強いたり…。
国内でもその格差は激しく、毎日飢え死ぬ人が後を絶たない一方で、何人もの奴隷を弄ぶ者もいます。裕福になるには悪事に手を染めるしか無く、正義を貫こうとした者から死んでいく。
それでいて、他国からの人間には手厚いサービスをして、上部だけは整えてる。そのサービスが悪いとは言わないけど、そのサービスは、何人もの奴隷や子供達が犠牲になって成り立っている。
正直、無くなってしまった方が良いと思えるレベルです」
沙霧が涙を流し始めた。無理もないだろう。何故なら、彼女は生活の拠点を帝国に置いていた。それが、多くの人間の命によって賄われていたと知れば、こうなっても仕方がない。
ソフィアも涙を流し始めた。だが、それでも話すのを辞めなかった。嗚咽を吐きながら、それでも話すのを辞めなかった。だが、俺には分かってしまった。この涙の正体が。
「私はずっと国を変える為に動いてきました。けど、それを全て父と兄に阻止されました。私の権力では、父達には抗えない。何をやっても、全て揉み消されました。
父や兄に抗議したこともあります。ですが、父は、世界を支配する為には多少の犠牲はやむを得ない、と。兄は、俺の奴隷遊びを邪魔するな、と云う返事が返ってきました。何度抗議をしても、結果は同じでした。
そして、思い至りました。この国を私の力で変えることは不可能だと。でも、この国の現状を放っておくことはできない。
そして、決めたんです」
ソフィアは一度俯くと、顔を上げて、覚悟を示す表情で発言した。
「国を変えることは出来ない。なら、一度壊すしかない。その後、また新たな国を作る…クーデターしか、道はありませんでした。その為に、私は国を出ました。協力してくれる者達を探して…。
丁度、『大国会談』が開かれるんです。だから、それまでにクーデターを起こして新しい国を作る。そう考えていたんですけど…」
「自分の正体に気づいた奴らに目をつけられ、追いかけられていた、と…」
「…はい。恥ずかしながら…沙霧さんに嘘を吐いたのは、巻き込みたくなかったからです。タダでさえ帝国に心を傷つけられたのに、これ以上迷惑はかけられません。それに、そもそも無理だったんです。こんな何の力も持ってない子供が、国を作り変えるなんて…」
これには、沙霧も黙るしかなかった。何かを言ったとしても、目の前の女の子を傷つけるだけだと知っているからだ。そして、この件に関しては、自分は何も出来ないと理解しているからだ。
涙を拭いて、ソフィアは立ち上がった。
「このまま、国に帰る事にします…ここにいても、さっきの様な人達に襲われるのが関の山ですし…国に戻って、何とか今の状況を少しでも良く…」
「…それで良いのか?」
ソフィアが言い終わる前に、俺は発言した。決めたからだ。今後の行動方針を。
「…え?」
「それで良いのかと聞いている」
「…はい。もう、私にはそれくらいの事ぐらいしか…」
「違う…!俺は、お前の本心を聞いてる。本当はどうしたい!?」
キツイ口調で言った。次の瞬間、ソフィアから涙が溢れた。
「…だって!しょうがないじゃないですか!私じゃ何も出来ない…私には、国を守る作り変えるなんて事は出来ない!それは、自分が1番良く分かってる…」
「俺ならやれる」
「…え?」
俺は立ち上がった。ソフィアの顔を見つめ、手を差し出した。
「選択しろ。このまま国に戻って泣き続けるか、俺達と一緒に来て、国を作り変えるのか……選べ。選択するのはお前だ。どちらが良い?」
「…」
少し、呆然としているソフィア。だが、覚悟は直ぐに決まった様だ。涙を手で拭い、俺の目を真っ直ぐ見て、俺の手を握った。
「当然、国を作り変える!」
この瞬間、彼女の運命が決まった。




