ソフィア・アルナラ
「さて、一体どこまで逃げたのやら…」
『聖女』から伝説の魔力道具を回収し、『大国会談』でのクレイム法国の発言を全て掌握した。『聖女』に俺の恐怖も植え付ける事が出来たので、結果は上々だ。実践は出来なかったが。
この国でやる事は終わったので、俺は国を出た。今は国の入り口にいるが、沙霧がいない。少なくとも、俺の目が届く範囲にはいない。
国の外に出てろとは言ったが、こんなに離れろとは言ってない。
「ハァ…」
思わず溜息が出た。これから沙霧を見つけ、その場所まで行かなきゃならない。
「…見つける側にもなって欲しいな」
愚痴を言ったが、見つけるしか無い。魔力破壊の魔力感知があれば、見つけるのはそこまで難しく無いだろう。
「見つけたらあいつの顔、引っ叩いてやる」
こうして、俺は沙霧探索に動き出した。
そしてしばらく歩いていると、魔力を感知できた。沙霧のかは分からないし、複数感知出来たので正直可能性は薄いだろう。だが、沙霧の事を見たかもしれない。
とにかく、その集団の元まで行く事にした。1キロメートル程先なので、そこまで時間はかからないだろう。だが、あまりスピードを出し過ぎて、集団に不審がられても困る。
早歩き程度で進む事にした。少し進めば見えてくるだろう。
進んでいくにつれ、その集団が目視出来るようになってきた。だが、少し妙だった。集団の殆どは寝ていて、いや、気絶している。立っているのは女2人。1人は沙霧で、もう1人は金髪の少女。
顔は背を向いていて見えないが、着ている服から、身分が高い事が分かる。何やら楽しそうに話しているが。
それに、妙なのはその集団だけじゃない。周りの景色もだ。気絶している集団の後ろの土が焦げていたりなど、魔法の痕跡が見て取れる。
どう見ても、何かあった。というか、恐らく沙霧が勝手に首を突っ込んだ。
「…ったく、何考えてんだあの女…」
内心かなりイラっとしながら歩いていったが、その気持ちは直ぐに消え去る事になる。なぜなら、利用しようとしていた存在が、自分の目の前に来ていたからだ。
「あ!あの人じゃないですか?」
「え?…あっ!」
俺に気づいた様だ。何故かこちらを向いていなかった少女の方が先に気づいた様だが。顔をこちらに向けてきた。
「なっ…」
流石に驚いた。あの顔は、良く知っている。いや、知っている者はかなり多いだろう。
何故ならその少女は、大国のトップの血を引いているからだ。名は、ソフィア・アルナラ。スレイル帝国皇帝、ブラート・アルナラの長女だ。
そして、沙霧を嵌めた者達の1人であり、俺が次に利用しようとしている人間だ。
そういう意味もあって、驚いた。表情には出していない。何故なら、後ろに倒れている集団と、この女を見て直ぐに悟れたからだ。この女の心中を。
そんな事を考えていると、大きく手を振りながら沙霧が近づいて来た。
「おーーい!コウヤー!」
近づいて来たところで一発、脳天を引っ叩いた。
「痛い…」
「自業自得だ」
頭を抱えながら、痛がっている沙霧を諭す。だが、正直今は沙霧なんてどうでもいい。
今、用があるのは目の前にいる女だ。
「で?なんでこんなところに帝国の皇女がいる?」
「…迷ったんです。国の皆と観光してたら。そしたら、あの人達に襲われて…」
嘘だ。今はどの大国も『大国会談』の為に大忙しだ。そんな状況で、観光なんて出来るわけがない。大体、『大国会談』前に大切な皇女を攫われる可能性がある観光なんて、一国の王がさせるわけがない。
「嘘を吐くってんなら、ここで殺すが…それでも良いか?」
驚いていた。2人ともが。沙霧の方は、俺の発言だけじゃなく、ソフィアが嘘を吐いていた事にも驚いている様だ。
「…分かりました。本当の事を話します…」
その場が静まる。俺も沙霧も、ソフィアの声に耳を傾ける。
「私は、コウヤ・ハラグチと云う者を探すという名目で国を出ました。そして、護衛の者達から離れて、協力してくれる者達を探していました」
「何の?」
「クーデターの協力者です」
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ースレイル帝国 皇帝の間ー
その玉座に座る大男、皇帝ブラート・アルナラは、ある報告を待っていた。
娘のソフィアに調べさせている男、コウヤ・ハラグチの情報の報告だ。
ブラートの勘が言っていた。あの男は危険だと。
だからソフィアを行かせた。我が娘であれば、どんな事でも調べ上げる。
そんな事を考えていると、扉が開いた。入って来たのは、体格の良い金髪の男。息子のブライト・アルナラだ。その手には、鎖が握られている。
その鎖は、『奴隷の首輪』に繋がっていた。『奴隷の首輪』をつけられているのは、黒いロングヘアーの女。『魔封じの腕輪』もつけられている。着ているのは、汚い布一枚。体のあちこちが傷ついている。
クールな顔をしているが、その顔は恍惚としている。息を切らし、体が震えている。
しかしそんな『奴隷』を見ても、ブラートは何の反応も示さない。
「…何の用だ?ブライト」
「それがさぁ…」
軽快な口調で、明るい声色で話すブライト。まるで、何かをねだる子供の様だ。
そう言うと、ブライトは『奴隷』の背中を思い切り踏みつける。その勢いに耐えられず、うつ伏せになる『奴隷』。
「…うっ」
「これがもう使い物になんなくなっちゃってさぁ…だから、新しいの欲しいんだけど…」
苦しむ『奴隷』は気にも留めず、そのままの明るい声色で話すブライト。
「ハァ…分かった。許可しよう……」
「ありがとうございます。父上」
先程迄とはうって変わって、真面目な声で、敬語を使って礼を言うブライト。
「おい、そこの使用人!」
後ろに振り向き、扉の入り口に立っていた使用人に声をかける。
「はい」
「『奴隷』、捨てといて」
「受け賜わりました。ブライト様」
そう言うと、ブライトは鎖を手放し、廊下を歩いていった。
「『大国会談』か…面白くなりそうだ…」
そのブライトの呟きは、誰にも聞かれる事はなかった。
扉が閉まり、皇帝の間に静寂が訪れる。
「早く帰れ、ソフィア。そして、私に情報を齎せ。世界を支配する、この私の為に…」




