恐怖
結論を言えば、期待外れもいいとこだった。余りにも弱すぎた。2体とも、一撃で破壊してしまった。
実は、今回はある新技を試そうと思っていたのだが、最初のかかと落としで青を簡単に破壊できてしまった。その時点で、新技を試すのは諦めた。
正直、もう少し強いと思っていたが、全然だった。確かに前に会った騎士団団長に匹敵する程度の力は持っていたが、所詮その程度だ。
今回俺は何の能力も使っていない。
弱すぎる。この2体が、この次元においてトップクラスの実力を持つのならば、余りにも弱すぎる。いや、この2体だけじゃ無い。『人間最強』と呼ばれた先代魔王の力はどの程度か分からないが、この次元での実力者達、『四天王』『騎士団団長』『人間ランク金』など。数々の実力者達と戦ってきたが、弱すぎる。
ちゃんとした戦闘をしたのは朝比奈ぐらいだ。俺もあいつも、お互いの首と両腕をわざと吹き飛ばさせたが、ある程度の実力が分かった。そして、奴も俺の実力をある程度知っただろう。そして、それは『神』や天使達に伝わっている筈。
と、あれば、今の実力では『神』を倒すのは厳しい。朝比奈の実力は、俺と同等だ。戦闘技術や頭脳であれば、俺は奴に劣る部分は無い。だが、魔力殺しの能力のコントロールでは奴の方が上だ。俺が魔力破壊に目覚めて、まだ1ヶ月も経っていない。だが、奴が目覚めたのは恐らくもっと前。なら、コントロールに差が出てしまうのは仕方が無い。
だが、魔力破壊を完璧にコントロールしなければ、『神』に勝ち目は無いだろう。そして、既に完璧に近いコントロールは出来ている。あと必要なのは、実践。
完璧に近いを完璧にする為には、互いの命を掛け合う様な実践が必要だ。
世界を平和にしつつ、『神』に勝つ為の実力をつける。それを同時進行していかなければならない。前者は順調だ。だが、問題は後者だ。恐らくこの次元に、俺が本気で相手をしなければならない様な奴はいない。今まででの旅でそれは理解できた。
だから、実践を体験する機会があるとすれば、『神』の刺客達だ。正直、それは避けたい。仮に、『神』の部下の中で朝比奈が最強クラスだとしたらそこまで問題にならないが、そうでなければ?
だから、この次元でのトップクラスの実力を持つ戦闘道具達との戦いに期待していた。多少は戦闘が出来ると思っていたが、がっかりだ。
それもあって、俺は少しイラついている。それが、少し態度や声に出てしまった様だ。『聖女』がすっかり萎縮してしまっている。正直、これから取引をしようと思っているので、この状態は困る。
だが、この女には俺の性格をある程度知ってもらわなければならない。既に俺の実力は知っているはずなので、あとは真なる恐怖と俺の性格を知ってもらえれば、こいつは取引に応じるだろう。いや、応じざるを得なくなる。
その為に、俺は『聖女』を威圧する様に声をかけようとしたが、先に声をかけられた。
「…降伏…します……ですので…命は…!」
掠れた声で、涙ぐみながら言ってきた。その態度に、正直本気で怒りを覚えた。だから、少し声が荒っぽくなってしまった。
「……調子にのるなよ」
その俺の声に、体を震わせる『聖女』。てっきり許されるとでも思っていたのだろう。その態度に、俺の怒りは更に大きくなった。
『聖女』の首に添えていた『魔滅』を鞘に収め、その長い髪を左手で掴み、持ち上げて俺の顔に引き寄せる。
「…うっ……」
「これは、お前が俺に売った喧嘩だ。そして、俺はそれを買った。この喧嘩の終わりは、喧嘩を買った俺が決める」
体を震わせ、涙を流し、床を濡らすその姿は、多くの人間が怒りを躊躇するだろう。だが、俺にそこまでの感情は無い。
だが、これは良い機会かもしれない。この勢いのまま、恐怖を与えることにしよう。
『聖女』の潤んだ瞳を睨み、僅かな殺気を与える。そのまま…
「…お前の行為に文句をつける気は無い。ただな、それをするならそれ相応の覚悟をしろ。他人の命を命と思わないのなら、いつでも自分の命を刈り取られる覚悟を持て」
そう発言し、空いている右手で首を掴み、持ち上げる。
「…あ…っ……ぐ…」
俺の右手を掴んだりしてもがいている。そのまま、『聖女』を投げた。
その勢いが強かったのか、少し吐血している。何度も咳き込んでいる。
『聖女』に近づき、その頭を踏みつける。
「痛い……痛い痛い痛い!!」
「…少しは淑女らしく、静かにしたらどうだ?」
うるさかったので、足をどかし、もう一度首を掴み、壁に押し付ける。
「1つ言っておく。俺はこの国を潰す気は無い。このままこの国の支配を続けて欲しいと思っている」
その俺の声に驚いたのか、『聖女』は大きく目を開いた。
「…え?」
「だがタダとはいかない。それなりに代償は支払ってもらう」
そう言って、『聖女』の首から手を離した。
勢いよく地面に落ちた『聖女』は、呻き声を漏らす。
「伝説の魔力道具を引き渡せ。そして『大国会談』の発言において、俺の命令に従え。それで良いな?」
「…分かり…ました…」
そこで、俺は久しぶりに笑みをこぼした。
「それで良い…」
(これで、ピースは3つ。あとは…)
俺は、最後のピースを集める為のアイデアを考え始めた。




