真の絶望
なんとも懐かしい光景だ。視界いっぱいに人が倒れている。ただ、今まで見てきた光景と違うのは、倒れている人間が老若男女を問わない事と、まだ生きていると云う点だ。
国との戦いは久し振りだ。違うのは、襲いかかって来る人間が国民全員である事と、その全てが操られていると云う事だ。
何より、弱すぎる。操られているからなのかは知らないが、全員子供程の運動力しか持たない。国民全員でかかってきていると云うのに、ただ歩いているのとあまり移動スピードは変わらない。
襲いかかって来る奴らの攻撃を最小の体重移動でかわし、素肌のどこかを指で触れる。これだけで戦闘不能に出来るのだから、戦闘に手応えが無いのも仕方がない部分もあるのだが。
そんな事をしながら歩き続けて30分程が経った。もう襲いかかって来る『聖女』の『人形』達はいない。恐らく、全国民を倒したのだろう。事実、この国から『神の城』以外の場所に人間の気配は無い。
となると、もうわざわざ歩いてやってやる必要は無い。そう判断し、最高スピードで『神の城』に向かう。
『神の城』に到着し、1度足を止める。そこには、気を失っていない『聖女』以外の全国民が待ち構えていた。恐らく『神の城』にいた者達だろう。
「不可解だな…」
そう呟き、数秒で全員倒した。
が、やはり不可解な事には変わらない。『聖女』は俺の実力を知っている筈。そして、自分以外の全国民が俺に倒された事も知っている筈だ。だが、奴は何故か自分の戦力を無駄に減らす様な事をした。
今までの奴の行動から、奴は自分の戦力を無駄に減らす様な事をする女じゃない。なら、奴は何故こんな事をしたか?
簡単だ。俺を殺す方法があるからだ。戦力を減らしたのも、無駄じゃないのだろう。俺を殺す方法を実行するには、それなりの時間がかかる筈。
だから、全国民を使って時間稼ぎをした。
「面白い…」
弱体化しているとはいえ、自分の国にいる全ての人間を使っても止められなかった男を止められる手段がある、と云う事だからだ。
そして、俺は『神の城』へと足を進めた。
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「ここだな…」
『神の城』に唯一存在する人間の気配がある部屋に、数分かけて移動したが、何の罠も無かった。ここまでで何もないと云うことは、この部屋の中に俺を殺せる手段がある。
そして、その正体はだいたい予想がつく。この国が伝説の魔力道具を保有し続けていたのならば、あの魔力道具があってもおかしくない。
そう考えながら、部屋のドアを開けた。
中には中央に『聖女』、そして左右に人型のロボット型の魔力道具が、一体ずつ立っていた。
右に赤、左に青。この2つの魔力道具の名は、戦闘道具。青が男型で近距離、赤が女型で遠距離での攻撃を行う。
その実力は、片方だけで歴代の騎士団団長と同等のものであり、かつては赤と青の2体が協力すれば誰にも止める事は出来ない、とまで言われた程のものだ。
その戦闘能力の高さから、かつて厳重に封印されたが、今では何処にあるかも分からなくなっていた。
兼ねてから感じていたが、この国は魔力道具を豊富に保持している様だ。
この戦闘道具は、使用する魔力量に応じて活動時間が変化する。とても燃費が悪く、魔力レベル1の人間の全ての魔力を使用しても、5分しか活動出来ない。魔力レベル5でも10分しか活動しない。だが、その分戦闘能力はずば抜けているので、大した問題ではない。
そして、その2体が俺の前に揃っている。『聖女』は魔力レベル5だが、奴1人の魔力では、2体の活動時間は長くとも5分。その時間をただ逃げ回れば俺の勝ちだが、それは絶対にしたくない。
俺の前に現れた者達の中でもトップクラスの戦闘能力を持っている。自分が何処まで余裕を持ってこいつらを倒せるのか、試したくなった。
そして、あの女の薄ら笑いを真の絶望で染め上げる為に。
「行けっ!」
『聖女』が俺を指差し、そう声をあげた。その声と共に、青の戦闘道具が飛び出してきた。赤の戦闘道具は両腕をかざし、その中心に魔力を集中させて無数の魔力の塊を俺に向けて飛ばしてきた。
それにしても、流石は『聖女』と呼ばれるだけあって容姿は綺麗だ。男並みの身長に細い体つき、本当の『聖女』であると信じる者も少なくないだろう。
まず飛んできた魔力の塊を、向かってきていた青の頭上にジャンプして避ける。俺の動きに反応できていない様なので、そのまま魔力破壊を足場にして青に急接近し、体を半回転させ、かかと落としで青を破壊し、そのまま赤まで急スピードで移動する。
「『破壊・波動』」
ゼロ距離で発動し、赤を木っ端微塵に破壊する。
そして、少し離れた所にいる『聖女』の顔を見る。
「どうだ?『聖女』」
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「どうだ?『聖女』」
分からなかった。一瞬でこの国の最高戦力を潰した。いや、それ以前にこの男に全てを狂わされた。
最初は『大国会談』のカードぐらいにしか考えていなかった。
だが、今は後悔している。この男を国の中に引き入れたことを後悔していた。
分からない。この恐怖が、何処からきているのか。
分からなかった。自分が何処から間違えていたのか。
そして、首に剣を添えられ、こう言われた。
「真の絶望の味は」




