抵抗
「…えっと…どう云う事だ?」
コウヤの顔を見上げながら、沙霧は声を出した。
「沙霧。お前は周りにいる『聖女』の『人形』共から逃げて国の外に出てろ。情報収集はもういい」
「…分かった。で?コウヤは何をするんだ?」
立ち上がりながらコウヤに疑問を投げかける沙霧。
「俺は今から『神の城』に乗り込む。そして目的を果たしたらこの国を出て、お前の元に行く」
「…1人でか?」
「ああ。今回は1人の方が成功率が高まる」
珍しく真面目な表情で聞いて来た彼女に、俺は思っている事を話した。だが、全てでは無い。1人の方が成功率が高まる。確かにそうだが、これには色々と意味がある。
まず、1人の方が『神の城』に侵入しやすく、バレにくい。そして、今から俺が行うことは、沙霧にバレるわけにはいかない。更に言えば邪魔になる。
こんな事を本人に言うわけにはいかないので、1人の方が成功率が高まる、とだけ言っておいた。
「…分かった…必ず…戻れよ」
渋々だが、受け入れた様だ。
「ああ」
そう言って、あれは『神の城』に向かって、ゆっくりと、歩いて行った。
少しの笑みを浮かべながら。
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その頃、『聖女』マデリン・プロマーは困惑していた。ただひたすらに、困惑していた。
意味が分からなかったからだ。マデリンの『支配』は、今まで解除される事など無かったのだ。睡眠時以外で意識がない場合は解除されるが、それ以外の解除方法はマデリン自身が調べつくし、無いという事を確認したのだ。
だが、コウヤの同行者に自らの全ての感覚器官を移し替える『完全支配』を行い、コウヤに多数の『人形』と共に襲いかかった瞬間、突然『完全支配』と『意思強奪』が解除したのだ。
いや、コウヤ・ハラグチに解除させられたのだ。どうやったかは分からないが、それだけは確実だ。
だが今は、コウヤがどうやって私の『支配』や『意思強奪』を解除したのかではなく、どうやってコウヤを殺すかだ。
私の『支配』や、『意思強奪』を解除させられる以上、もう拘束するのも『人形』とするのも不可能だ。
「…殺すしか無い」
だが、どうすれば殺せるのか?その答えが出なかった。人間ランク金の実力を持つコウヤを殺す方法が、思いつかない。
『人形』全てで殺しにかかる、というのもアリでは無いか?と考えたが、無理だと考えた。
今までコウヤには2度、多人数での一斉攻撃を行なっている。そして2回とも、まるで息でもするように全員を『人形』から解放した。
であれば、これ以上同じ事を続けても無駄に被害を受けるだけだ。運良くコウヤを殺せたとしても、それで国民達の『人形化』がどれだけ解除させられるか分からない。
よって、これは出来ない。
「…どうすれば良い?」
殺せる方法が思いつかない。そして、この瞬間にも『人形』はどんどん少なくなっているだろう。そして、コウヤは自分の元に近づいて来ている。
「…もう、あれしか無い…」
そう呟いたマデリンは、自室を出てある部屋へと向かう。そこは、かつて自分の母親が『神』からの言葉を聞いていた場所。『聖女』以外の立ち入りを決して許されなかった場所。
長い廊下を歩く。そして、『神の城』内にいる『人形』達にこう命令を下す。
「【命令を下す。あれを持ってこい。そして、城に侵入してくるコウヤ・ハラグチを足止めしろ】」
その発言で、城にいた全ての『人形』達は、命令を遂行するために行動し始めた。
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コウヤは、ただ歩いていた。『神の城』を目指して。その間にも沢山の『人形』達が襲いかかって来たが、所詮は戦闘経験の無い一般人。コウヤの進行を止める事など出来ない。
襲いかかって来る者達を一撃で倒しながら、『神の城』へと向かうコウヤ。何故ここまで時間をかけているのか?
それは、相手に時間を与えるためである。絶対に倒せる、そう確信している『聖女』の笑みを叩き潰す。その為だ。
最初は、こんなつもりは無かったのだ。だが、俺を『人形』にしようと企んだ。これを『大国会談』のカードにしようとしていたのは明白だ。流石に、ここまで舐められると腹も立つ。
だから、時間を与えてやるのだ。『聖女』の全てを力で捩じ伏せる。そして目的も達成する。
「さぁ、俺を楽しませてみろ」
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「ハァッ、ハァッ、ハァッ。ここまでくれば、大丈夫、か…」
コウヤの言いつけを守り、クレイム法国を脱出した沙霧。一応3キロメートル程国から離れておいた。
息を切らし、汗をかいているその姿は、言うなればかなり目立つ。
だからかもしれない。出会ってしまったのは。
「ん?」
息を整えた沙霧は、あるものを見つけた。いや、ある少女をだ。
だいたい500メートル程遠くだろうか?何やら全力で走っている少女を見つけた。視界の右から左へと駆け抜けていくその少女。
走っている理由は直ぐに分かった。魔法から逃げているのだ。彼女を追う謎の集団が、様々な魔法を打ち込みながら、彼女を追いかけている。
確認した瞬間、沙霧は飛び出していた。直感的に、走る少女を助けるために飛び出した。
「『魔力状態』」
久しぶりに魔力状態を発動する。と、同時にあの時を思い出す。仲間だと信じていた者達に裏切られた事。いや、裏切られたのではない。最初から仲間では無かったのだ。仲間だと思っていたのは自分だけだったのだ。
頭を振って、過去の嫌なイメージを振り払う。そして、ついに少女と謎の集団との間に入った。
灰色のマントに身を包んだ集団だった。沙霧に気にせず魔法を打ち込んで来るので、沙霧も、久し振りに魔法を使った。
「【火の龍】」
すると、数10メートル程の炎の龍が現れた。
「何っ!?この魔法は、まさか!?」
謎の集団の誰かが叫んだ。だが、次の瞬間には沙霧の炎の龍が吐いた炎で、謎の集団は1人残らず気を失っていた。
「大丈夫か?……え?」
謎の集団を倒したのを確認した沙霧は、振り返って少女に声をかけた。
少女は、金色のロングヘアーで、見たところはまだ14、15歳程、地球でいう中学生程の年齢だと感じた。そして、赤い瞳に白い肌。華奢な身体を見れば、身分が高いお嬢様であることが分かる。
だが、沙霧にとって、そんな事はどうでも良かった。何故なら、その顔を、この少女を、沙霧は知っていたからだ。そして、最も憎んでいる者達の中の1人。
声を震わせながら聞いた。
「何故、帝国皇女である貴女がこんな所におられるのでしょうか?…ソフィア・アルナラ様…」




