意思強奪
デスゲーム、とは言ったものの、これは俺以外を対象としたデスゲームだ。だが、『人形』越しに俺を見ている『聖女』には、そうは思えないだろう。
何故なら、彼女は知らない。俺に魔力が無いことを。俺は触れるだけで、『意思強奪』の効果を破壊出来ると云うことを。
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『神の城』におり、自室で腰掛けながら、『聖女』は自分の『人形』達を使ってコウヤの様子をモニタリングしていた。
『聖女』の固有魔法『支配』で全ての『人形』の視覚は、『聖女』の視覚に加算する事が出来る。つまり、今の『聖女』の視覚は、例えるならば、多数の映像が同時に流れるテレビ画面の様な状態だ。
『聖女』の『支配』は、『人形』の全ての感覚器官を自らに加算する事が出来る。だが、加算する感覚器官を増やしすぎると処理しきれなくなるので、『人形』全ての感覚器官を1度に加算する事は出来ない。
しかし、視覚だけならば多少数を増やしても問題は無い。だから、『聖女』はコウヤが入国してからの行動を確認する事が出来た。
『聖女』の名は、マデリン・プロマー。赤いロングヘアーに、美しい美貌を持つ女性だ。年齢は22歳と言うには、余りにも大人びている。
彼女の母親は『聖女』だった。肩書きだけでは無い、正真正銘の『聖女』であった。そしてマデリンは、生まれた時から『聖女』になる事を宿命づけられていた。
そうした周囲からの重圧に、マデリンは苦しんでいた。周囲から己と母親を比べられ、努力してやっと出来る様になったことも、次期『聖女』なんだから当然だろうと褒められることもなく、些細な失敗であっても、次期『聖女』のくせにと嫌味を吐かれる。
そして本来それを励まさなければならない母親は、『聖女』としての仕事に精一杯で、マデリンの苦しみに気付く事が出来なかった。
いや、マデリンが気づかせなかった。母親に心配させまいと、母親の前でだけは笑顔を見せた。
だから、マデリンは誰にも甘える事が出来なかった。父親はマデリンが生まれる前に病気で亡くなっている。兄弟はおろか、親戚すらいなかった。これには深い理由があったのだが、当時幼かったマデリンには気づけなかった。
そして、日に日にマデリンの心は壊れていった。周囲からの過剰な重圧に耐えながら、母親の前でだけは笑顔を作り続ける日々。
そんな生活を物心ついてからずっと送ってきたマデリンだったが、22歳となった日に、遂に完全に破壊された。
心配させまいと、母親に向け続けてきた愛情は全て憎しみへと変わった。全ての元凶は母親だと。自分がこんな状況になっているのは全て、母親が『聖女』だったからだと。
そう割り切った『聖女』の行動は早かった。元凶である『聖女』を買収した部下に暗殺させ、その部下の首を晒す事で、自他共に認める『聖女』となった。
周囲からの過剰な重圧に耐えながら得た『聖女』としてのスキルを使い、国民からの自分の好感度を上げた。
城の地下深くに封印してあった、『意思強奪』を使い、自分以外の国民全てを自分の『人形』に変えた。入国して来た者達を『人形』にする政策も始めた。
そんな時に届いた、『大国会談』の開催と、コウヤ・ハラグチと云う強者の絵。
そこで『聖女』はこう考えた。この国にある伝説の魔力道具と、『人形』にしたコウヤ・ハラグチを『大国会談』の交渉のカードとすれば、確実に他の大国より優位に立てる。
そしていずれは再興したと云うドルス魔国も、レースティリ王国もスレイル帝国も、自分の支配下に置く。全ての人間達を自分の『人形』にする。
それが、マデリンの今の夢だ。
それを叶えるためにも、コウヤ・ハラグチは捕らえる。それが出来ないのなら、殺す。その2択だ。
コウヤは強い。そんな事は分かっている。なら、その強さを出し切れない様な状況を作り出せば良い。
確か、コウヤには仲間がいた筈。そいつを使ってコウヤの相手をさせる。幾ら強くても、仲間に攻撃する事は出来ない。
そう考え、マデリンは自分の感覚器官全てを沙霧の感覚器官に置き換えた。これをしてしまうと、他の『人形』の感覚器官を使う事も出来ないし、自分の感覚器官は全て無くなる。
だが、こうすることによって魔法や魔力を使用する事が出来、身体を自分の身体と同じ様に扱う方が出来る。
そして、コウヤを目で捉えた。すぐさまコウヤに近づく。あらかじめ命令を与えていた、周囲に居た『人形』達と一斉にコウヤに襲いかかった。
終わった、と思った。コウヤが力を出し切れない以上、これだけの人数で一斉に襲いかかれば確実にコウヤを『人形』に出来ると確信していた。
だが、結果は違った。コウヤの同行者に自分の感覚器官を全て置き換えた筈なのに、いつの間にか自分の感覚器官に戻っている。
「こ…れは…」
ただひたすらに困惑した。そして、一瞬で理解した。コウヤがやったのだと。
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襲いかかって来た『聖女』の『人形』達を、回し蹴りでまとめて蹴り飛ばした。沙霧もいたが、手加減はしなかった。操られたあいつが悪い。
そして、蹴り飛ばした『人形』達は、もう『人形』ではなくなった。何故なら、俺が奴らの身体に触れたからだ。
何故そうなるかと言うと、魔力道具は魔力道具と人の身体。いや、人の身体の中にある魔導管と、魔力を通じて接触する事で特定の効果を発揮する道具だ。
この『意思強奪』は、『意思強奪』に触れた人間の魔導管の中の魔力の流れを特定のものに変化させる。次に、『意思強奪』に触れたものが他の人間に触れられると、特定のものに変化させられていた魔導管内の魔力の流れが、触れた人間に合わせて魔力の流れが完全に書き換えられる。
魔導管内の魔力の流れが書き換えられる事により、その人間は意思を失い、魔導管内の魔力の流れを書き換えた人間の命令にただ従うだけの『人形』に成り果てる。
魔導管内の魔力の流れ。これは遺伝子と共に、人間のあらゆる事を決定するものの1つだ。
迷宮から出た時は出来なかったが、今の俺は自分の掌を相手の地肌に触る事で、魔導管内の魔力すら破壊できる。
そして布越しで触れても、魔力道具の効果を破壊することぐらいは出来る。
つまり店の中で襲いかかって来た奴らも、今襲いかかって来た奴らも、既に『聖女』の『人形』では無い。今は、ただ気絶しているだけだ。
「…取り敢えず起こしとくか…」
他の『人形』だったもの達同様に気絶している沙霧に近づき、おでこにデコピンした。
(…これで、『聖女』は思い知っただろう…俺を『人形』にする事など不可能だと云う事を。そして…)
「ん〜〜…コウヤ?」
蹴伸びをしながらそう呟く沙霧。それを確認した俺は、立ち上がって『神の城』を見て、こう呟いた。
「…思い知る事になるだろう。俺にケンカを売れば、どうなるかを…」




