クレイム法国
「まずは何をするんだ?」
「今回はレースティリ王国みたいにゆっくりはできない。やるべきことだけをやる。余計な事は一切しない」
「だ〜か〜ら〜、まず何をするんだ?」
「この国のトップ、そいつの弱味を掴む。まずはそれからだ。時間が足りないから二手に分かれる。早朝に此処集合だ」
それだけ言うと、コウヤは真っ直ぐ歩いていった。
「ちょっ!?…まぁ…いいか」
一瞬呼び止めようとしたが、コウヤの邪魔になると思い、沙霧も情報収集の為に歩き出した。
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クレイム法国。世界の南方に存在し、広大な草原に囲まれているが、国土はレースティリ王国の王都程度しかない。国民は『神話』の『神』を崇めており、逆に崇めていないものはいない。『法国』と呼ばれる所以だ。
故にこの国のトップは、崇められる『神』だ。だが、国を成り立たせるには、政治や国を支える人材が必要となる。この国において、その存在は王でも優秀な者でもない。『神』に最も近い者だ。
だから代々この国では、『神』の声を聞ける者、『聖女』が実質的な国のトップだ。『神』の声を聞き取れ、その内容を国民に伝えている。政治や外交も、全て『聖女』が『神』から受け取った言葉の元、行なっている。そして、国民は誰もが『神』を崇めているので、ただ従うのみだ。
簡単に言えば、『神』の声が聞こえるとかほざいている自称『聖女』の女が、国の全てを牛耳ってる、と云う事だ。
俺がこの国のトップ、『聖女』の弱味を掴もうとしているのは、別に国を『聖女』の支配から解放しよう、なんて思ってる訳じゃない。ただ、これが1番手っ取り早いと思ったからだ。
言わば『独裁国家』のこの国を牛耳ってる奴らは、今の国の状況を維持しようとする筈。例えば、それを打ち壊そうとする余所者が居たら、真っ先に排除しようとするだろう。そうして俺達に接触してくる。
こちらから平和的に接触するのは至難の技だし、時間もかかる。だが、そんな事をしている時間は無い。なら、向こうから接触してくる様に仕向ければ良い。
そうすれば、奴らに接触するのは容易になるし、『聖女』に会う事も出来る。勿論、あの伝説の魔力道具も。
ただ1つ予想外だったのは入国時のチェックだ。国民の『神』への忠誠心を乱されない為にも、他国民との接触なんて1番迷惑な事だろうに、チェックが甘すぎる。レースティリ王国ですらもっとちゃんとしていたのに、この国はそれ以下だ。
まぁ、こんなに国を解放しているのなら、その意図は大体わかるが、よもやここまでするとは思わなかった。中々今の『聖女』は非情な奴のようだ。それなら、この国の異様さも理解できる。
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コウヤが情報収集の為に訪れたのは、所謂飲み屋だ。顔をフードで出来るだけ隠し、店の中に入った。
少し、顔を硬ばらせる。
(やはりか…)
コウヤのその表情には理由がある。それは、店に居た人間が、全員無表情だったからだ。それだけじゃなく、一言も喋らずにただ飯を食べている。店の店主も、ただ料理を作り、皿を洗っている。
これは、飲み屋としては余りにも異様だ。飲み屋は、普通はもっと賑やかだ。ご飯は楽しく食べるもの、そう言う人がいるように、楽しみながら食べるものだ。五月蝿すぎるのもあれだし、口に含んだまま喋るのは行儀が悪い。だが、これはご飯を美味しく食べている証拠だ。
しかし、この飲み屋は違う。本当に、ただ飯を喰らい、酒を飲んでいるだけだ。そこに喜びや、楽しいという感情は無い。異様な程静かだ。まるで図書館にでもいるようだ。
が、予想していたことだったので、余り驚きはしなかった。カウンターに足を運び、椅子に座る。
このまま何も食べないもの不自然だし、普通に何か食べたい。メニューにあった1番安いものを頼もうとした。
「…そうだ…」
ここで、ある事を思いついた俺はそれを実行に移す。
「マスター、これを頼む」
俺は、フードをとり、指で頼みたいメニューを指し、しっかりと店主に顔を見せて注文した。
すると、俺の顔を確認した店主は、目を大きく見開いたまま、俺を見つめ続けた。他の客も俺を一斉に見つめた。
(やはり、そういうことか…)
心の中で立てていた仮説が真実になったと理解した時だった。いきなり店主が俺に向けて拳を飛ばしてきた。俺はそれを後ろに飛んで避ける。
数秒も経たないうちに、周りにいた客が飛びかかってきた。俺は飛びかかっていた奴ら全員の腹を蹴り飛ばしてから店を出た。
すると、まるで知っていたかのように通行人達が襲いかかってきた。全員を相手にするのも面倒だと思い、店を出て右方向に走る。
「やはりそうか…『聖女』なんてよく言ったもんだ」
そう呟いくと、前方に沙霧が立っていた。
「…やっぱ案の定」
と気づいた瞬間に沙霧もほかの通行人達同様、襲いかかってきた。
「操られてたか…」




