異様さ
「キャアアアアアアアアアア!!!!!!」
俺は今、地上50メートルぐらいを全速力で走っている。別に初めてやったことじゃないから俺は慣れている。
だが、俺に抱きかかえられている女にとっては、慣れないことの様だ。まぁ、ここまでの高さで人が目視できない様なスピードで走っているので、これが普通の反応なのかもしれない。
それにしてもうるさい。JK特有の高音の叫び声を、至近距離で喰らい続けている。気絶しないだけマシだと思うが、もう少し静かにして欲しい。
進むにつれて、どんどん景色が変わっていく。最初は平野に居たが、山脈や湖、いくつかの村を超えて、今はだだっ広い草原だ。クレイム法国は広大な草原に囲まれている。つまりもう直ぐ到着、と云う事だ。
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それから数十秒走り続け、遂にクレイム法国の入り口まで1キロメートルぐらいになった。近づき過ぎると見張りの人間に気づかれる可能性があるので、この辺りで地上に降りた。
叫び続けていた沙霧だが、今は気絶している。髪はボサボサ、涎を垂らし白目をむいているその姿は、地球に居た雨露沙霧を知る者にとっては、直ぐには信じられない程にだらしがない。
そっと沙霧を地面に寝かせる様に置く。ついでに髪を整え、瞼を閉じさせ、涎を拭いておいた。
起きるまで時間が掛かるかと思ったが、思ったより少し早く起きた。起きた時は、辺りを見回して、こう聞いて来た。
「何で、いきなり急ぎ始めたんだ?そ、それも、私をお姫様抱っこして…」
生憎、おれは耳が遠いラブコメの鈍感主人公じゃない。俺の聴覚は一般人の比じゃない。どんな声も聞き逃すことは無く、人の心音なんかも聞き取れる。だから、最後のボソボソ声も聞き取っている。
「お姫様抱っこしたのは早くクレイム法国に到着する為。予定を変更して急いだのは、魔王との約束を思い出したからだ」
「約束?」
「1週間後に帰る、と云う約束だ。もうドルス魔国を出て6日。1週間後にドルス魔国に到着する為には、今日中にクレイム法国に到着してやるべき事をする。で、明日にドルス魔国に帰る」
「何でそこまで、約束を守ろうとするんだ?」
「…誓ったからだ。2度と約束は違わないって…」
この時の俺の表情を見て、何か感じる事があったんだろう。彼女の表情が少し曇った。
「…そうか…」
小さく、彼女はそう呟いた。
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「これがクレイム法国か…」
「…ああ。レースティリ王国とは、また違うな…」
数分後、俺達はクレイム法国に入った。入国審査は驚く程簡単だった。名前も聞かれず、クリスタルを見せることもなく入る事ができた。
ただ、灰色の板を触った。
触れた時、この板が魔力道具だと云うことは分かったが、どんな能力を持っているかは分からなかった。恐らく、この国独自のものだろう。この世界の殆どの情報を仕入れることが出来るレースティリ王国の図書館の情報を記憶した俺に分からないと云うことは、殆どの人間が知らないと云うこと。そして、入国審査に使われる物の情報が広がっていないと云うことは…
この時、大体の事が分かったが、あえて何も行動を起こさなかった。ここはこの国の方針に従うことにした。
この国は、レースティリ王国の様な活気のある感じじゃなく、かなり静かだった。人は歩いているが、全員が無表情だ。この国は、まだ断片的にしか見ていないが、かなり異様だ。
地球の国々の様子のビデオや、この次元の国や村を見て来たが、この国は違う。何かが他の国とは違う。そしてそれは、これからこの国を見ていけば分かることだ。
この国にある、あの魔力道具や、この国の異様さも、その全てを見極める。ここからドルス魔国へは、俺がどれだけ急いでもそれなりの時間がかかる。つまり、タイムリミットは僅かだ。
「…面白い」
(この国の全て、俺が調べつくしてやる。そして、手に入れる。あの、伝説の魔力道具を)




