開催理由
朝となった。と、言ってもまだ外は暗い。日本時間で言うところの4時くらいだ。言うまでもなく、殆どの人間はまだ寝ている時間帯だ。
何故俺がこんな時間に起きているのか?答えは簡単だ。それは、大会の集合時刻が5時だからだ。
何故5時なのか?目立つのを避ける為だろう。参加者を募る時は大々的にやっていたが、余り目立たせたくないらしい。それに、集合時刻、開催場所、集合場所などはの大会の詳細は参加者にしか明かされていない。
これは無駄な情報漏洩を防ぐ為だ。そして参加者を王都に移送する際に、これに乗じて王都侵入を図る輩がいるかもしれない。それを防ぐ為だろう。
更にこの大会、唯の剣術大会などではない。それは、優勝者が多大なる報酬をもらえる事でも、勇者と戦える、と云う意味でもない。この大会は、デスマッチだ。つまり、この大会の勝利条件は、対戦相手を殺す事だ。
この大会はトーナメント制。1度負ければそれで終わりの大会だ。まぁ、勝利条件が対戦相手の殺害の時点で、1度負ければ終わりなんだが。
因みに勝利条件が明かされた時、大会の内容を明かさない代わりに、大会を辞退する事が出来た。無理やり殺人をやらせる気も、人を死に追いやる事もしなかった。あくまでやりたい人間だけ、と云う事だった。
そして半分以上が辞退し、残ったのは8人。どの参加者も人間ランクが金であり、名のある者達だ。
と、云う様な事は沙霧には伝えていない。それが大会のルールだし、伝える必要も無いと判断したからだ。とは言え、流石に黙って行くわけにもいかない。取り敢えず、沙霧の部屋の机に置き手紙をして来た。
そして、俺は今その集合場所に向かっている。集合場所はとある民家。そこから馬車に乗って王都に入る。因みに民家は大会の係の人間の所有する空き家で、最もバレにくいから、と云う理由で決まった。
俺は今、今までと同じ様な服装をしている。死神とバレるのでは?と云う心配は無用だ。こんな服装をしている人間は結構多い。だからこの服装をしているから死神、と云う事にはならない。当然仮面は被っていないが、フードで顔が見られにくくはしている。
――――――――――――――――――――
到着した。民家ではなく、大会の開催場所に到着した。小一時間ほどかかったが、何事も無く到着した。
今俺は、参加者用の控え室にいる。俺の試合は第3試合。今、第1試合が始まったところなので、まだゆっくり出来る。大会の参加者は誰もが人間ランク金。つまり力が拮抗している、と云う事だ。当然、1試合毎の時間が長くなる。だからこそ、こうしてゆっくり出来る。
俺の対戦相手は『豪腕』の二つ名を持つパワータイプだ。因みにこの大会、魔法の使用は禁止となる。あくまで剣術大会なので、と云う理由らしい。
ただし、このルールには穴がある。それは、魔力そのものは使用可能、と云う事だ。つまり、『魔力状態』が使えるのだ。そして、この大会の参加者は、俺を除いた全ての人間が『魔力状態』を使える、と云う事になる。
そして、『豪腕』のパワーは『魔力状態』を発動する事で更に上がる。豪剣の使い手である事も有名な『豪腕』の一振りは、魔力無しで大岩を切断するとまで言われている。つまり、一撃で致命傷を負わされる可能性がある。死ぬ事も、負ける事も無い。だが、俺の力を知られるわけにはいかない。
それに、俺の『自動再生』は、はたから見たら魔法を使っている様に見えるかもしれない。それは、この大会の敗退を意味する。この大会、負けは許されない。負ければ、なんのために此処までのリスクを冒してまで参加したのか、分からなくなる。
(それに…)
「約束を違う気は無い」
――――――――――――――――――――
「始まったな…」
「はい…」
『勇者×剣術祭』の第1試合を見ながら、そう発言したのはレースティリ王国の国王ヘイズ・レイリ。その隣に居るのは、この大会の考案者であり『栄光』の二つ名を持つオリビア・ユーティリティだ。
「これで彼の刺激となる者が現れれば良いのだが…」
「いずれも人間ランク金。現れる確率は十分にあります」
国王の言う刺激とは、勇者にとっての戦闘経験だ。勇者、斎藤康太は強い。かつて『人間最強』と呼ばれ、恐れられた魔王に勝てると言っても、過言にはならないだろう。それだけ、彼は強い。
だが、戦闘経験が無さすぎる。あの圧倒的な力をどう手に入れたかは分からないが、少なくとも彼の鍛錬や努力で手に入れた力ではない。
それでは、彼と同等の力を持つと思われる『四天王』や、来たるべき『脅威』には勝てない。自分と同等の力を持つ者との戦いで勝つ為には、相手以上の戦闘技術が必要だ。
勇者にはそれを何度も伝えているが、自分に勝てる存在は居ないと、一向に修行をする様子が見られない。そこで、彼と同等の力を持つ者を見つけ彼と戦わせようと、この大会を開いた。
勝利条件が相手を殺す、と云うのはオリビアの提案だ。なんでも、人間の本当の力は生死を賭けた時でなければ現れない、と云う事らしい。正直、気は乗らないが…。
そして魔法を使ってはならない、と云うこのルール。このルールがあれば、『魔力状態』が使えない者は大会には参加しない。これで、参加者の実力は高いものとなる。
そして、彼は『魔力状態』を使えない。これで少なくとも『魔力状態』になる為の修行はしてくれるだろう。
そして、第3試合が始まろうとしていた。
「次の試合の参加者は?」
「次は、『豪腕』の二つ名を持つチャールズ・サーマ。もう1人は、無名ですが、人間ランク金の保持者、コウヤ・ハラグチです」
「無名、か…つまり、他の金より実力が劣るか、力を隠してきたかのどちらかだな」
「はい。それに、『豪腕』は強いです。試合は長引くか、一瞬で片がつくかのどちらかだと思います」
「…注目だな」
――――――――――――――――――――
「では、これより第3試合を始める。両者、入場!」
試合場所の中心付近に居るレフェリーが叫んだ。この試合場所は、半径100メートル程の円の形になっており、地面には芝が敷かれている。先程行われた2試合でかなり壊れたが、今はきちんと修復されている。
周りには高い塀、その上に客席があるが、居るのは国王などの国の重要人物と、その護衛しか居ない。
レフェリーの声で試合場所に入って来たのは、第3試合参加者『豪腕』と呼ばれるチャールズ・サーマ。もう1人は、黒いローブを纏い、フードで顔を隠す無名の者、コウヤ・ハラグチ。
両者は向かい合い、10メートル程離れた位置で立つ。
「両者、構えてっ!」
その声で、チャールズは『魔力状態』を発動する。その鎧のような筋肉は、『魔力状態』により、更に厚みが増す。剣を抜き、構えるチャールズ。
そんなチャールズとは違い、コウヤは『魔力状態』を発動しないばかりか、剣の持ち手をただ握っただけ。体勢を変えることもなく、ただ剣を握っているだけだ。
「始めっ!」
試合開始の声が響いた。
「「「…」」」
だが、両者共一切動かない。と、観戦していた誰もが思った時、コウヤは剣を握っていた手を離し、チャールズに背を向け、試合場所から出て行こうと、出口へ歩いて行った。
たまらず、レフェリーが声をかける。
「ど、何処へ行くのだコウヤ・ハラグチ!」
すると、コウヤは足を止めてこう言った。
「控え室だ」
「そ、それは棄権する、と云うことか?」
すると、コウヤはまた足を動かし始めた。そして、歩みながらこう言った。
「いや、既に試合は終わっている」
「ど、どう云う…」
レフェリーが再び声をかけた瞬間、ずっと立ち尽くしていたチャールズが倒れた。そして、倒れたチャールズの首から上だけが、その場で胴体と分かれ、数メートル転がった後、静止した。
「見れば分かるだろ」




