迷宮へ
コウヤの『異常性』が分かる回です。
迷宮の入り口には大きさな門と受付があり、受付で通行許可証を発行しなければならない。その為には、受付係に自分が人間ランク青以上である事と金貨1枚を支払わなければならない。
何故なら、迷宮に入るにはいくつか条件を満たさなければならない。
1つは人間ランクが青以上である事である。これは迷宮で死者を出来るだけ減らす為である。
人間ランク青を持つのは強者か、迷宮に対しての最低限の知識を有している者達だけだ。強者ならば、早々簡単には死なないし、その知識を知っていれば、意味も無く『死に場所』とまで呼ばれる程恐れられている迷宮に入る事は無い。
もう一つの条件は、金貨1枚を払う事である。何故かというと、迷宮に入るのを躊躇させる為である。人間ランク青以上とはいえ、S級の以上の魔獣と対峙した冒険者(迷宮攻略に挑む者達の総称)の生存率は半分以下だ。
迷宮は年間で何万という命を奪っている。だが、門を閉める訳にもいかない。だから、迷宮に入るのを躊躇わせる事で、出来るだけ死者を減らそうという、大国の意向らしい。
(という2つの条件を満たしているから、俺は迷宮の門の前に来ている)
迷宮に入るのには、門の前にある受付で通行許可証を貰わなければならない。
早速受付に行き、受付係の人に話しかける。
「迷宮に入りたい。通行許可証を発行してくれ」
「はい。なら、迷宮入場についての規則なので、人間ランクが青以上である事を証明する何かと、金貨1枚の支払いをお願い致します」
俺は指示された通りに、クリスタルと金貨1枚を受付係に渡した。
「はい。確かに金貨1枚と人間ランク青以上である事を確認しまし……え?」
すると受付係の人はとても驚いた表情をして、
「失礼ですが、このクリスタルは本物でしょうか?その、魔力レベルと魔法属性が…」
まぁ、当然とも言える。村長が言っていた様に、魔力ゼロで属性魔法を持たないなんて人間は、俺以外に見た事が無いと彼も言っていた。ちなみに属性魔法の属性を魔法属性と言う事もある。
「本物だ。少し珍しいとは思うが」
「す、少しお待ち下さい」
と、言うと、係の人は小走りに奥へと走っていった。恐らく俺のクリスタルが魔力ゼロを表していたので、どうするべきか上に確認しにいったのだろう。
などと考えていると、係の人とその上司らしき男が俺の前にやって来た。
「君がこのクリスタルの持ち主だね」
その上司らしき男は俺のクリスタルを見せつけながら聞いてきた。
「ああ。俺のだ」
「そうか。この魔力レベルと魔法属性は少々『異常』なのでね、少し面倒な事になっているのだよ」
と、言いながらまだ何者のものでも無い、変化する前のクリスタルを取り出し、
「このクリスタルに触れて貰う。触れて君のクリスタルと同じ反応を起こせば、通行許可証を出そう。ただ、1つでも違う反応が起きれば、それ相応の罰を受けて貰う。いいかね?」
(魔力レベル0や魔法属性が無い人間は今までに前例が無い。故に、クリスタルを偽装して迷宮に入ろうとしていると、勘違いされている、か。まぁ分からない訳じゃ無いが…)
「分かった。触れれば良いんだな」
コウヤはそう言うと躊躇する事無く差し出されたクリスタルに触れた。すると、赤い光を発しながら透明な0の字が浮かび上がった。
「同じ反応が起きた。通行許可証を渡せ」
すると、2人共とても驚いた表情をみせた。数秒の沈黙があり、
「は、はい。確かに同じ反応を起こしましたので、通行許可証を…」
「待ちなさい」
上司らしき男はコウヤの手に通行許可証が渡るというところで、コウヤの手を掴んだ。
「…クリスタルが本物である事は示した。金貨も既に払った。通行許可証発行の為の条件は満たしている。まだ俺に用があるのか?」
「あぁ。俺はこのままお前を迷宮に入らせる訳にはいかん」
「何故だ?」
「魔力を持たない人間を『死に場所』と呼ばれる迷宮に行かせる訳にはいかん!」
「俺は人間ランク赤だが?」
「変装しても俺を騙す事は出来ん。お前は貴族なのだろう?でなければ魔力が無い人間が、人間ランク赤になれる訳がない!」
「俺は貴族じゃない」
「嘘を付くな!それにこれはお前の為でもあるのだぞ!魔力が無い人間が迷宮に入れば死ぬだけだ!」
確かにそうだ。魔力の無い人間が、『死に場所』と呼ばれる迷宮に行こうとは思わない。行くとすれば自殺志願者ぐらいのものだろう。
この男は、その自殺志願者の自殺を止めようとしている。この感じだと、何を言っても通さないだろう。ならば、やる事はただ1つ。
「…大丈夫だ」
言葉と共に上司らしき男にだけ殺気を放つ。その殺気を受けた上司らしき男は先程までの怒りの表情が一変、体中から汗を流し、恐怖の表情へと変わる。
「分かるな?」
この上司らしき男は俺に実力が無いからと、魔力が無いからと、自殺志願者だと思っていた。なら、実力を示せば良い。だが、こんなところで騒ぎを起こす訳にもいかないので、殺気で実力を分からせた、という訳だ。
「あ、あぁ、分かった…」
そう言うと上司らしき男は俺の手を離した。
「初めからそうしてろ」
そう言うと、コウヤは迷宮に向けて歩み始めた。
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知っての通り、迷宮は地下にある。だが、ゲームとかでよくある二層はない。つまり、迷宮の更に下に行く事は出来ない。
迷宮へと続く階段を下り終えると、沢山の人がいた。十中八九迷宮攻略に来た冒険者達だろう。殆どがパーティー、つまり何人かのチームで攻略しようとしている。これが普通で、俺の様に単独で挑む者の方が『異常』なのだろう。
迷宮内はぼんやりと明るい。理由は迷宮の壁や天井にある。これらは、常に弱い光を放っていて、これが迷宮一帯に広がっている。
「…行くか……」
そう言うとコウヤは迷宮の奥へと進み始めた。
次回から戦闘が始まります。