解放
今章は、奴隷と云う表現が多く出てきますが、それを思わせる様な描写はできるだけ書かない様にしています。
その俺の問いを聞いた事で、ようやく俺がクラスメイトの原口コウヤだと気付いたようだ。
目を大きく見開き、驚いた表情を見せる。
「原口…コウヤ…?…何故君が…こんな所に…?」
弱々しい声で、そう答えた。彼女の身体や、今の声などから、劣悪な環境に居たことが分かる。地球で、しかも日本という平和な国で生まれ育った彼女には、奴隷と云う環境は辛かっただろう。もっとも、それは彼女に限った話では無いのだろうが。
「…取り敢えず、この『奴隷の首輪』を付けてくれ」
「…何故だ?」
弱々しくも、芯の通った声だった。其処には怒りは無かったが、疑念の声があった。
「周りを見てみろ。買われた『奴隷』は皆、此処で首輪をつけられ、各々が自分の主人について行ってる。頭の良いお前なら分かるだろうが…」
「…つまり、此処でこの腕輪を付けられている者が首輪をつけられずに此処を離れるのは不自然だ、と云う事だな?」
「理解が速くて助かる」
そう。この場所は、購入された奴隷達が『奴隷の首輪』を付けられる場所。中には従順な者も居るが、大半は泣いたり叫んだりして抵抗している。だが、抵抗している全ての者達が殴られ、蹴られて無理やり『奴隷の首輪』を付けられている。
それがあって周りは煩く、俺達の会話は聞かれていないのだが、美人の彼女の姿と、いつまでも首輪をつけようとしない男に、少しだが視線が集まっている。俺はいずれ指名手配される身。顔はバレていないだろうが、できるだけ顔を晒すのは避けたい。
だから、一刻も早く此処から離れたい。だから、彼女に奴隷のふりをして貰おうと思ったのだ。
「…分かったよ。だが、」
「安心しろ。ちゃんと後で外す。それに、俺じゃ『奴隷の首輪』は使えないからな」
渋々受け入れてくれた様で、安心した。そして、俺は『奴隷の首輪』を掌に掴んで彼女に近づく。
「や、優しく付けてくれよ…」
「あぁ」
そう言った彼女の顔は、心なしか少し赤らんでおり、彼女の心音が高まっているのが分かる。まぁ、自分の首に首輪をつけられるのに、喜ぶ奴は居ないだろうが。
首輪を付け終えると、俺達は誰にも見られない岩陰に移動していた。既に『奴隷の首輪』と『魔封じの腕輪』は外している。彼女にも食事を摂らせて、最低限の体力は回復させた。
「なら、聞かせてもらうぞ」
「…何が聞きたい?」
「『神のゲーム』に参加した経緯とその理由。そして、何故奴隷になったかだ」
それを聞いた彼女は、視線をこちらに向け、真剣な表情をして話し始めた。
「私は7月15日、下校途中に天使と出会い、『神のゲーム』に誘われた。そのまま私は『神のゲーム』に参加し、この次元に来た。そして、」
――――――――――――――――――――
「此処が別の次元か!」
「…はい」
彼女、雨露沙霧は『神のゲーム』に参加し、別次元に来ていた。
「で、貴方の名前、なんだっけ?」
「…ナートラ」
「そうそう、ナートラちゃん!天使なんだってね!」
「…はい」
それから、天使ナートラと話し始め、この次元の事などを聞いた。明るい性格で、バカっぽいが、彼女はコウヤ程ではないにしろ、同年代での学生達では足元にも及ばない程の学力と運動能力を持つ。
ナートラが言っている程度の内容は、簡単に理解できた。しかし、不安が無いとは言い切れない。
一応、情報の確認はしておく。
「それで、その『神のゲーム』ってのは、悪い奴らから人間を守れば良いんだな?」
「はい。正確には『魔人族』、ですが」
「どうすれば優勝になるんだった?」
「『人魔大戦』という災厄を引き起こした『魔王』デスト・ロード。そしてその子、シーナ・ロード。既にこの両名は死んでいますが、その側近であった『四天王』や『幻影』など、世界を脅かす『魔人族』は多く生き残っています。未だ多くの国ではかつての戦いでの傷が癒えておらず、このままでは彼ら『魔人族』に人間達は滅ぼされてしまいます。
そこで、」
「この世界を救う為に、『神』が強力な力を持つ私たち地球人をこの世界に呼んだ。故に、『魔人族』から世界を救い終わった後に、その貢献度から優勝者を『神』が決定する、か」
「分かっているのならいちいち喋らせないで下さい」
「はは!悪い悪い!」
「…では、私は戻ります」
ナートラは空中に不思議な『穴』を開ける。
「ああ!神様によろしくな!」
「では…」
ナートラが『穴』の中に入ると、たちまち『穴』は消滅した。
「さて!行くか!」
――――――――――――――――――――
「始めは順調だった。迷宮にも入ったし、金銭的にも問題は無かった。きちんと魔法も使えたし、実力も問題は無かった。けど、」
「けど?」
すると、彼女は少し顔をしかめた。
「別に話して良いけど…私だけ話すってのは、なんか嫌だ…」
「は?」
「だ、だから、お前の話を聞かせろ!」
「…変わらないんだな。人の話を聞かないところは…」
彼女に聞こえない程度の大きさで呟いた。幸い聞こえなかった様だ。
「良いだろ!」
「…分かった。話してやる」
「あ、ちょっと待って!」
「…なんだよ?」
「先に、奴隷についての説明お願い。私、なにがなんだか分からなくて…」
まぁ、気持ちが分からないわけじゃ無いが。それにしても、もうちょっと人の話を聞いてほしい。
「分かった。そっちの説明を先にする。基本的には、地球にあった奴隷制と同じだ。ただ違うのは、魔力が関与している、と云う点だ」
「…どう云う事?」
「『奴隷の首輪』や『魔封じの腕輪』という『魔力道具』を使用する、と云う事だ」




