雨露 沙霧
奴隷売買が行われているこの場所は、一般的には『奴隷市場』と呼ばれ、多種多様な奴隷達が売買されている。
どんな風に使われているかというと、それは個人の自由、というか個人の趣味だ。言い方は悪いが、奴隷に人権は無く、何をしようと咎められる事は無いので、本当の意味での道具扱いになる。それを咎める者はおらず、咎めた者は逆に咎められるのだ。
俺は近くに居た係の人間に話しかける事にした。筋肉質の身体に高い身長。いざとなれば力尽くで、という店側のやり方を象徴している様な人間だ。
「済まないが、奴隷のカタログを見せてくれないか?」
奴隷のカタログと云うのは、その名の通りの物だ。名前や性別などの基本情報が記載されている。無料で配布されているのは知っていたので、貰うことにした。
「…別に良いが、ちゃんと買えるだけの金があるんだろうな?」
まぁ、疑うのも分かる。奴隷を買うにはそれなりの金が必要であり、俺の服装からはとても裕福な者とは思えないのも分かる。
「あるよ。これくらいはな」
そう言いながら、俺は金貨が大量に入っているのが分かる程、パンパンに膨らんだ袋を見せつけた。
「…まぁ、それだけあるなら大丈夫だろうな」
渋々納得したようで、奴隷のカタログを渡して貰った。それを眺めながら廊下を歩いていると、カタログにあり得ない人物の名前が記載されていた。
「なっ!?」
意表を突かれ、うっかり声を出してしまった。周りからの、うるせぇ、と云う心の声が分かるような目での睨みをさらっと受け流し、俺は、カタログに載っていたある人物のいる場所に向かって歩いて行く。
(そういえば、最近周りが煩かったからな…こう云う感じも久しぶりか)
こんな事を考えていると、不意に昔の事を思い出す。そこまで昔と云う訳でも無いが、この次元に来てから、地球にいた頃の事が遥か昔の事の様に思えてくる。
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太陽が空に昇り、教室を明るく照らしている。春も過ぎ、気温が高くなってくるこの季節。辺りの生徒達がうたた寝してしまうのも当然と言えるだろう。
椅子に座り、本を開いて読むフリをする。転入当時はかなり騒がれたし、今も騒がれていない訳じゃ無いが、今の俺の状況は、簡単に言えば虐められている。暴力や嫌がらせをされる程では無いが、俺に話しかける人間は皆無だし、だいたい俺の周りには一定のスペースがある。つまり、近づいてくる事すら無いと云う事だ。
まぁ、自分で望んだ事で、そこまで辛くは無いので別に気にはしていない。だが、あの女には俺が相当思い込んでいると思っているらしい。多分もう少ししたら…。
「原口コウヤ!」
いつも通りの声を聞き、目線を上げる。こいつがただの生徒だったなら無視している所だが、こいつの場合そうはいかない。なぜなら、こいつは生徒会長だからだ。そんな事バレたら、学生生活に支障が出る程の虐めになるかもしれない。それは避けなければならない。
「今日も1人でいるのか?誰でも良いから話しかけてみろと言ったろう。それが出来れば、お前の望んでる友達なんて直ぐに出来る!」
(望んでる?俺が今望んでるのは、お前が俺に話しかけてこない事だ)
なんて事を口に出す訳にもいかず、何か返す言葉を探していると、
「それより、ここでご飯を食べても良いか?お腹が空いていてな。いいだろう?」
なんて事を言ってくるのは、この学校の生徒会長であり、俺とは違うクラスの女子生徒だ。学年は同じだが、俺とは違って学年ヒエラルキーの頂点に立つ存在だ。容姿端麗、頭脳明晰。黒髪のショートヘアーで、かなりのルックスの持ち主だ。
「…いい加減にしてくれませんか?雨露沙霧生徒会長」




