裕翔の謎
『穴』が消滅し地に降り立つコウヤ。
そこから数秒間、その場に沈黙が訪れた。それを最初に破ったのは、コウヤだった。
「シーナ。『黒風の魔人』の容体はどうだ?」
「え?えっと、大丈夫。ちゃんと息もしてるし、心臓も動いてるから、気を失ってるだけだと思う」
「…そうか。なら、城の中で寝かしておかなきゃな」
「それよりも…!」
激しい口調でリュークが、そう発言した。
「話して貰うぞ。あの男の事を…」
「…」
また、数秒の沈黙が訪れた。そして、またしてもそれを破ったのはコウヤだった。
「奴の名は朝比奈裕翔…俺にとっての友だった男であり、俺と同じ地球で育った男だ」
――――――――――――――――――――
それから、コウヤはリューク達に隠していた『神のゲーム』と、自分の出身が違う次元であること。つまり迷宮でシーナに話した内容を全て話した。
それに加えて、現時点で予想できるこの次元での裕翔の行動を全て話した。
恐らく、朝比奈は約1年前のあの事件で『神』となんらかの形で接触し、そのまま『神』の下についた、と考えられる。これは更に可能性の低い話だが、朝比奈は100年前に行き、先代魔王を殺し、シーナの死体偽装をしたと考えられる。
根拠は、シーナが感じた、魔王殺しの黒ローブと朝比奈が似ている、と言うのと、奴が自らそう話した事だ。もしかしたら、奴が俺達にそう思わせようとしているのかもしれないが、生憎、奴は嘘を言っていない。
ともかく、これが真実であれば朝比奈は、いや、『神』は時を超える事が可能という事になる。確かに『神』であれば可能なのかもしれないが、不可解なのはそこじゃない。何故わざわざ朝比奈を自分の下に引き入れたか、だ。その中でも1番可能性が高いのは、朝比奈の『魔力封印』だ。
俺の考えが正しければ、俺の『魔力破壊』や朝比奈の『魔力封印』のような力は他にも存在している。俺に魔力についての説明をした天使、ソレイはこう言った。一部の例外がいると。そして、それは俺や朝比奈の事だ。更に、あの口調だと他にもいる可能性は低くない。
そして、魔力を持たない代わりに、俺や朝比奈は魔力に絶対の優位を持つ能力を得た。仮にその能力を『魔力殺し』とするならば、『神』は俺たち『魔力殺しを』恐れている、という事だ。恐らく、朝比奈を自分の下にしているのも同じ理由だろう。
俺達の力が『神』の魔力すら上回るのだとしたら、殺せる可能性があるのだとしたら、その可能性を排除しようとしているのだろう。
『神』は『魔力殺し』を殺すか、自分の支配下にしておきたいのだろう。支配下にした『魔力殺し』に、自分はお前の力も持っている、などという事を信じ込ませれば、その力を利用出来るし、殺す事も容易になる。
だから『神』は朝比奈を支配下においたのだ。自分の死のリスクを下げ、かつその力を利用する為に。だが、そんなことを朝比奈が理解していない訳がない。奴はバカじゃない。確実に理解している筈だ。それを知っていてわざと『神』に従っているのだとしたら、何か奴には狙いがあるのかもしれない。
メッセージも受け取れた事だしな。
この話をしている最中は、誰1人口を挟む奴は居なかった。そして、俺の話が終わって数秒が経った頃に、リュークが発言した。明らかに怒りの感情を持って。
「つまり、お前は自分の願いの為に魔人族を絶滅させようとしたという事だな。そして、魔王様を殺した朝比奈という男はお前の友であったと?」
「昔の事だがな」
「…何故隠していた?」
「言えばお前は俺を殺そうとするだろ?それは俺もシーナも望んでいない」
「…そうか。分かった。つまりお前は俺達を信用していなかった、という事だな?」
「そうだ。少なくとも、刺客の1人が来るまでは黙っておくつもりだった」
そこで、会話は一度途切れた。この後の展開が、俺には簡単に予想出来た。シーナ達も薄々感づいたようだ。
―――残念だったなぁ、コウヤ?―――
この声が聞こえたとき、俺の意識は真っ黒な空間に移動していた。と、言っても初めて来た場所ではない。
此処は俺のイメージの中、深層心理の空間。この白と黒だけで彩られた空間に存在するのは俺だけだ。
「…またか」
その俺の呟きが聞こえたのか、先程の声の主は大きな足音を鳴らしながら、俺の背後から歩いて来た。
「…何の用だ?」
いつもの問いを、いつも通りに投げかける。
「なぁに、こっちに来てからあってなかったろ?色々話したいな〜と、思ってな」
「お前と話す事など無い」
「まぁ、そう言うなよ。お前がイラついてんのは分かるぜ。なんでも願いを一つ叶えるって言ってたからこんなとこまで来たのに、その願いが叶えられない上に、面倒な事に巻き込まれたんだからな」
本当にウザイ。俺の本心をわざわざ声に出して来やがる。
「何が言いたい?」
「俺なら朝比奈も、『神』も殺せるぞって事を伝えとこうと思ってな。流石に今すぐって訳にはいかないが、あの『穴』が開いたら、」
「その中に飛び込むと?」
「あぁ。それなら『神』もぶっ殺せるし、朝比奈も殺せる。地球にだって帰れる。だからさぁ…」
「お前に言っておく。俺はお前と交代する気は無い」
「けどぉ、それでいいのかぁ?」
「…何がだ?」
「お前は『神』に勝てんのか?いくらお前でもキツイだろ。それに朝比奈も…」
長々と話しているが、全く根幹を言おうとしない。それにイラついた俺は、直接問い正す事にした。
「もう一度言う。何が言いたい?」
「…あの女との約束を果たしたいのなら、俺と変わった方が確実だって事だ。その方が、」
「ふざけるな。あれは、俺がやるからこそ意味がある。お前がやっては何の価値も無い」
「…そうか。まぁ、答えは薄々分かってたが…変わりたかったらいつでも呼べよな」
そう言って、もう1人の俺が姿を消すと共に、この空間から俺の意識が解き放たれた。
一瞬意識が飛んだが、ふたたび俺は現実世界に意識を戻していた。
「原口コウヤ。貴様を…」
そして、リュークは俺が予想していた言葉と共に魔法で創った炎の剣を俺に向け、
「殺す」
そう、言い放った。




