到着
『黒土の魔人』を救出してから、半日程経った。予想はしていたが、騎士団が追ってくる事はなかった。元々の目的であった物資の調達は完了しているので、そのままドルス魔国に向かう事にした。
「寒っ!」
俺達は今吹雪の中にいる。俺やイリア、それにまだ意識が戻らない『黒土の魔人』ルドーは、きちんと防寒具を着ている。ちなみにルドーは、魔力破壊で作った板を空中に浮かせ、寝かしている。
だが、リュークやシーナは着ていない。リュークは微弱の【火の状態】、シーナは周りに火を出している。シーナのおかげで日本の冬ぐらいの寒さになっているのだが、それでも防寒具無しでキロメートル単位の距離を歩くのは無理だ。
だから俺もイリアも防寒具を着ているのだが、何故かシーナは着ていないし、寒がっている様にも見えない。それを聞いてみた。
「なぁ?お前は何で大丈夫なんだ?」
「え?寒さの事?え、えっと…何でだっけ?」
「はぁ…」
相変わらずのシーナのバカっぷりに呆れていると、
「その質問、お答えしましょうか?」
なんと、イリアがそれを答えると行ってきた。
「ああ…頼む…」
「はい。結論から言えば、魔王の血族だからです。魔王の血族は五感が普通の人間より強力で、視覚、味覚、聴覚、嗅覚は唯感じ取り易くなるだけですが、触覚は高過ぎる熱さ、低過ぎる冷たさ、傷の痛み等は感じにくくなるのです」
(…分かりやすい。本当にこいつが魔王やれば良いのに…)
「なるほど…ありがとう」
「いえ、それ程の事ではありません」
自分の知識を誇らない部下と、自分の事すら分からずに顔を赤く染めている魔王。
「…なぁ、もう1つ聞きたいんだが良いか?」
「はい、なんでしょう?」
「お前もリュークの【火の状態】みたいなのを使えるんだろ?『黒氷の魔人』っていうんだから氷になれるんじゃないか?」
「はい、確かに私は【氷の状態】を使えますが、それが何か?」
「それを使えるんなら、わざわざ防寒具を着なくても、リュークみたいにしてれば良いんじゃないか?」
「私の【氷の状態】は確かに自分を氷に変化させますが、それでも寒さを防ぐ事は出来ません」
「そうなのか?」
「はい。氷になっても寒さは感じますし。リュークの場合も、あれは火になっているから寒くないのでは無くて、身体が火になった事で辺りの空気を暖めているから、寒くないのです」
「なるほどな。ありがとう」
「それ程の事ではありません」
コウヤはイリアが冷静でいると思っているが、イリアの内心は違う。
(あ、ありがとう…そんな風に思ってくれるなんて…)
内心かなり舞い上がってる訳だが、一切表情には出さない。
何故こんな事になっているかというと、簡単に言えばコウヤに救ってもらったからだ。元々先代魔王に対して精一杯の忠義を尽くしてきた。いわゆる、尽くす女というやつだ。更に、そこに無自覚ドMの変態性が合わさり、こんな事になった。
そんな事を除いても、数十年間続いた地獄の様な監獄の中から解き放ってくれた存在に対し、そういった感情を無自覚に抱いてしまうのは、自然の事だろう。
そんな話を数分間続けていると、
「……う…っ…」
「「「「っ!」」」」
その声に、その場に居た全員が反応した。『黒土の魔人』ルドー・トーラーの目が覚めた様だ。
「…ここは…」
「ドルス魔国近郊の豪雪地帯だ。俺の名はコウヤ。一先ず、俺の話を聞いてくれないか?」
「…分かった。聞こう」
イリアと同じ要領で説明すると、命を助けて貰ったという恩を果たしたい、という事で承諾して貰えた。
――――――――――――――――――――
「ここが…」
数時間程経った頃、ドルス魔国に到着した。如何にもな感じの城に、雪が降り積もっている。ドルス魔国には結界が張られている。『感知結界』は勿論、直接触れる事の出来る結界『物理結界』に、各魔法属性の属性魔法を纏わせている。何重にも張られているこの結界は、かつて何人たりとも侵入させる事は許さなかったものだ。
ここまでの結界であれば、確かに侵入は難しいだろう。とは言え、あの天使が使った『穴』を、この結界内に直接発動してしまえば侵入は容易だろう。こう考えていくと、やはり先代魔王を殺したのは『神』に関係する人物であると考えてしまう。
『穴』が使えず、『神』ゆかりの人物の犯行でなければ、一体どうやったのだろうか。『魔力破壊』をもつ俺ならば可能だろうが…。
結界は『人魔大戦』時に破壊され尽くした筈だが、もう一度張り直されているようだ。そのお陰で、ドルス魔国内は雪が外程酷くは無いように見える。
だが、結界が張り直されている。という事は、
「誰かいるようだな。それもかなりの数が…」
「ああ。確実に人数がいる」
「そうだと思うか?」
「そうであって欲しいがな…」
ルドーからの情報で復興し始めているとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。
「わ〜!久しぶりだな〜!!」
「…嬉しそうだな」
「うん!だって100年ぶりだし!」
「そんなに嬉しいものか?」
「そりゃあね!コウヤ君だってたまに懐かしい場所に行ってみたくなったりするでしょ?」
「…そういう……ものか?」
「そういうものでしょ!」
「…そうか。そういうものか…」
「…?」
そんな会話をしていると、いきなり地面に降り積もっていた雪が爆発したかの様に舞い上がった。轟音とともに雪が辺り一体に広がり、視覚と聴覚を同時に奪われる。
「っ!?なに!?」
「これは…」
地面からではない。空から何かが吹っ飛んできたのだ。それも、ドルス魔国内からである。物理結界は内側からは触れる事は出来ないので、結界に損傷は無いだろうが、明らかにおかしい。
「一体何が…」
雪煙が収まってくる。すると、吹っ飛んできた何かが見えてきた。視界が戻るにつれて、その何かは人間、更に女だという事が分かる。緑の長い髪にスタイルの良い身体だが、傷だらけでその服に血が滲んでいる。
俺には唯の女にしか見えなかったが、実力がある事は分かった。だが、
「なっ!?」
「そんな…!」
「バカな…」
「こんなことが…」
それを見た他の4人はかなり驚いた様子だった。シーナ、イリア、そしてルドーまでもが驚き、彼女に駆け寄って行く。
「知り合いか?」
リュークに問いかける。
「…ああ」
その表情と態度を見ていると、おおよその予想がついた。
「…まさか」
「そう、『黒風の魔人』ライア・クローラーだ」
「…そうか。この女が…」
これは異常だと云える。ドルス魔国には既に『黒風の魔人』を含む数人の魔人族がいる事が分かるが、そんな事ではなく、ドルス魔国内から『黒風の魔人』が吹き飛ばされてきた事に、である。かつて『四天王』と呼ばれ、この世界における最強の存在の1人だ。
それを倒し、ここまで吹き飛ばす。それが出来る人間がこんな所に居る可能性は、限りなく低い。
(居るとすれば…)
そう考えた時、遠くに人間が浮いているのが見えた。その人間は少しずつ近づいてくる。歩いて。近づくにつれて、その人間が男で、自分と変わらない歳である事が分かった。
そして吹雪の影響が無くなってきた時、はっきりと顔が見えた。
「っ!!??なに…!!??」
コウヤは驚きを隠せなかった。何故なら、その人間をコウヤは知っていたからだ。黒い髪の一部が青黒く変色しているが、その顔をコウヤは絶対に忘れない。
「久しぶりだね。コウヤ」
「…朝比奈?」




