死神
今回、少し多いです。
その現場は、悲惨なものだった。騎士団であろう人間の死体が転がっている。それも少なくない。『黒土の魔人』と戦闘したであろう彼らは、恐らく数十人は居たはずだ。『黒土の魔人』をそう簡単に仕留められるとは思わないだろう。
生き残っている者も、片腕が捥がれていたり、目が潰れていたりと、重症だ。致命傷となる傷を受け、今この瞬間にも死んでいっている者達が多い。どんな者も多少なりの傷を負っている。
その中でも生きている者の中で1番傷ついているのは『黒土の魔人』だ。四肢などが捥がれているわけでは無いが、剣で攻撃を受けたであろう傷は、騎士団達の比では無い。恐らく意識を失うのも時間の問題だろう。
この現場は、地形が異常だ。と、いうより、戦闘によって荒らされた、と考えるべきだろう。明らかに魔法によって操作されたであろう大地や、戦闘の衝撃で抉られたであろう地形など、この景色を見れば、地形が変わる程の戦闘であった事が分かる。
この惨状を見てしまったのが一般的な学生であれば、いや、一般的な日本人であれば、冷静ではいられない。ゲームや漫画などの創作物でこういった物を見た事がある者は少なくないだろう。
だが、それが現実で、いや、目の前にあれば話は変わる。しかし、コウヤは冷静に思考を巡らせた。それどころか、こうなった経緯を全て理解した。コウヤにとっては見慣れた光景だ。
何故なら、それを見ても何も思わない程の経験を星の数程積んできたからだ。
今、『黒土の魔人』は大岩にもたれかかっている状態だ。騎士団団長ヘルト・レスターによって、彼の持つ剣を首筋にあてられている。『黒土の魔人』はもう身体を動かせない様なので、『大監獄・デスタード』に連行するのだろう。
だが、それはダメだ。コウヤの策は『四天王』を揃えなければ成功しない。だから、ここで『黒土の魔人』を捕らえられる訳にはいかないのだ。助けなくてはならない。
だが、手負いとはいえ、騎士団相手に顔を見られず『黒土の魔人』を救出するのは難しい。自分の顔を見られても作戦は成功しない。
そして、一つ手も考えた。と、なればとる行動はただ一つ。
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「終わりだ。『黒土の魔人』」
ヘルトは、剣を『黒土の魔人』の首筋に当てながら、そう言った。それを合図にまだ動くのに余裕がある団員達が近づいてくる。
『黒土の魔人』を拘束する為だ。一般的な犯罪者は奴隷にされるかその場で殺されるが、人間ランクが黒である場合は『大監獄・デスタード』に収監させる事が義務付けられている。人間ランクが黒レベルの犯罪者を奴隷にすると逃げられる可能性が高い。また、直ぐに殺してしまっては罪を償わせることが出来ない、という事で寿命まで『大監獄・デスタード』に収監させる、という事になっている。
もう動けないだろうとは思うが、油断は出来ない。相手はあの『四天王』の1人『黒土の魔人』だ。かつて騎士団をもってしても劣勢に立たされたと云われる伝説の犯罪者達の1人だ。この戦闘においても、数十人いた団員達が8割以上殺されたし、残り2割も重軽傷を負っている。自分の傷は『魔力状態』で再生したが、既に魔力は2割程しか残っていない。
覚悟はしていたが、此処までの被害が出るとは思わなかった。いや、この程度の被害で『黒土の魔人』を捕縛出来た、と言うべきだろう。だからこそ、拘束は慎重にならなければならない。
2人の団員が『黒土の魔人』を拘束しようと、その身体に触れようとした時、突然『黒土の魔人』が消えた。
「っ!?何処にっ!?」
そう言いながら、身体全体を動かして『黒土の魔人』を捜す。他の団員達も『黒土の魔人』が消えた事に気付き、捜している。絶対に逃がす訳にはいかない。
単に奴が『四天王』だからではない。今回の戦闘では何十人もの仲間達が死んでいる。死にかけた者も大勢いる。その結果が、逃げられた、では散っていった命が、仲間達の覚悟が無駄になる。
そんな事には絶対にさせまいと、辺りを必死に見回す。
「いた…!」
見つけたのは戦闘によって出来た大岩の上。その上で『黒土の魔人』は横たわったいた。既に意識はない様で、ぐったりしている。だが、それよりも確認すべき存在がいる。
そいつは黒いロングコートを羽織り、その下に着ている服まで黒いという見るからに不審な輩だった。不審なのはフードで顔が見えないのもそうだが、状況から考えるに奴が『黒土の魔人』を移動させたと考えられる。それも、消耗していたとはいえ騎士団団員が誰1人視認する事が出来ないスピードであの巨体を移動させたのだ。
かなりの実力者だろう。少なくとも自分と同じぐらいには。他の団員達はもう戦える状態ではない。それに、自分も魔力が残り少ないので奴に勝てる確率はかなり低いが、そもそも選択肢は無い。仲間達の覚悟を護る。
それが今、ヘルトが果たさなければならない事だと、ヘルトは信じているからだ。
そう心を決め、剣を構えた時だった。強い風が吹き、奴のフードがめくれる。その下にあったのは、骸骨の仮面だった。
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コウヤがこの様な行動を起こしたのは理由がある。騎士団達の体力が残り少ない事を確認出来たコウヤは、1つのアイディアを考え付き、実行する事にしたのだ。しかし、このアイディアを実行してしまうと、自分の顔が見られてしまう。
どうするか?と考えた時に、シーナにお面を買った時に、自分も骸骨のお面を買っていた事を思い出した。
と、いう事で骸骨のお面を被って『黒土の魔人』を救出した、という訳だ。すると、騎士団団長のヘルト・レスターが言葉を投げかけてきた。
「何者だ!!」
やや怒気が入った声なのは、仲間を殺された奴を逃したくない、という焦りと怒りからだろう。そして、予想していた問いだった。ので、予め決めていた名を口にする。ちゃんと声も変えて。
「我が名は……死神」
側から見たらかなり痛い発言だが、コウヤは気にしない。というか気づかない。
「…死神?」
疑問を持っている様なので正直に答える。アイディア通りに。
「…そうだ!」
そして、少し間を置いて…
「…よく聞け!再び魔王は復活した!そして、ここにいる『黒土の魔人』で、『四天王』も集結した!そして我は死神!魔王に使えし者!そして、」
『四天王』が集結した、というのは嘘だ。こう言った方がインパクトが強い、と考えたからだ。
その発言に、その場に居た人間が全員聞き入っていた。
「ドルス魔国は再興される!!」
「………」
文字通りの絶句だった。その場に居た誰もが口を開けなかった。だが、唯一ヘルトだけは口を開いた。
「ふざけるなっ!」
その叫びは、騎士団団長としてではなく、1人の人間としての、怒りだった。
「貴様等がどう生き残ったかは知らん!国も好きにすれば良い!だが、再びあの悲劇を引き起こすのなら………いや、私はそこにいる男を捕まえなければならない!素直に引き渡せ!」
ヘルトは、自分がズレた発言をしている事は分かっていた。だが、仲間達の覚悟を護る。そう決めた以上、絶対に果たす。たとえ勝率が低くても、絶対に勝つ。それだけだ。
「断る!」
そして、分かっていた言葉が返ってきた。そして、自分が分かっていた通り、戦闘態勢をとった。
「『魔力状態』【雷の状態】」
今の自分の最強状態になった。残り少ない魔力で、この状態は長く続けられない。だが、十分だ。奴を、死神を倒す。今は、それだけで良い。
自分の最速スピードで死神に迫る。『光速』の二つ名に恥じないスピードだ。人間では感じ取れないスピードだ。そう、人間では感じ取れないスピードの筈だ。
「これで『光速』?笑わせてくれるな。俺に見えるぞ」
かなり痛い発言を連発していたコウヤですが、本人に自覚はありません。




