魔人
「えっと、つまり…僕には…魔力が無いと…」
「残念な事にな…」
「他の人間はみんな持ってるのに、僕だけ持ってないって事ですか?」
「そう…じゃな」
絶句。文字通り言葉が出なかった。科学より魔力が発展した次元であると、あの天使は言っていた。つまり魔力が無い人間なんて、この次元ではゴミに等しい。
「そ、そうですか…。あの、魔法についてで、他に何かありますか?」
魔力が無いのだったら誰よりも魔力についてを知っておく必要がある、という考えからの質問だった。
魔力が無い、ならば魔力を持つ者を魔力無しでどう倒すか、どう殺すかを考えておかなければならない。
「そうじゃ!まだあの事を言っとらんかった」
(あの事?)
その言葉に眉がピクリと動く。
「ズバリ、『魔力状態』についてじゃ」
(…『魔力状態』…?)
「人間の体の表面には魔力を体外に放出する為の小さな穴が空いとる事は言ったな。その穴から常に一定量の魔力を放出し続ける事で、『魔力状態』を発動することが出来る。
発動すると体の周りが目に見える程の濃い魔力で覆われるから、すぐに分かる。
効果としては、身体能力が跳ね上がり、魔法の威力、効果が爆発的に上がり、傷が瞬時に再生され、空を飛ぶことも出来る。
少しの間発動するだけでかなりの魔力を消費するが、断言出来るのは 『魔力状態』を使えぬ者は『魔力状態』が使える者に勝つことは出来ない、という事じゃな」
「…」
村長はこの事実について、可能性を指摘したのでは無い。出来ない、と断言したのだ。
「もう魔力についての説明はいいです。それよりもこの、村の人達から聞いた『迷宮』について説明して貰ってもよろしいでしょうか?」
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結果としては、焦るほどのことではない、と判断した。
だが、警戒はしておくべき、という考えも浮かんだ。
(…まずは情報の整理から始める。村長の話によると、『迷宮』は地下にあり、複数の場所に入り口が存在し、その入り口は各国が管理していて勝手に入ることは出来ない)
『迷宮』の入り口は世界中にあるが、全て繋がっていて、階層などはない。言うなれば、この星の地下一面に広がっている、という事になる。
また、とても複雑な迷路の様な構造になっており、全てを把握出来てはいないらしい。壁に傷が付けば直ぐに再生するし、その異常な硬さで破壊しながら進むのは不可能。
何よりも危惧すべきは『魔獣』の存在である。魔獣とは、簡単に説明すれば魔力を持った猛獣である。魔獣は身体のどこかに『核』を持っていて、その核を破壊しない限りは傷が再生し続ける。
また、核の活動を止めるには最低でも半分以下の大きさにしなければならない。更に核自体も再生し、鉄程の硬さを持つので破壊するのはかなり難しい。
『魔獣』はこの再生能力だけではなく、人間と同じく魔力を持つので魔法を使ってくる個体もいる。
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SSS級:伝説
SS級:厄災
S級:脅威
A級:上級
B級:中級
C級:初級
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魔獣の危険度は上の様になる。C級の魔獣は再生するだけの猛獣程度の力しか持たないが、SSS級となると、属性魔法や固有魔法、魔力状態を扱う魔獣もいる。
そして『迷宮』とは関係ないが、魔人族の話も聞けた。魔人族は固有魔法を持たない代わりに、殆どの個体がレベル5の魔力量を誇り、魔人族の長『魔王』に至っては、人には誰1人として存在しないレベル6、無限の魔力を持つ。
魔人族は約100年前に人との全面戦争を起こしており、その戦争の敗戦により、魔人族の数は激減。形だけの国が残されているが、基本的に魔人族は散り散りになっているので、その全てを見つけ出して殺すのは不可能に近い。
だが、『異常者』たるコウヤであれば、対処の方法は無数に湧く。
そして、コウヤは1時間考え続け、こう結論を出した。
「まず、この村もある大国、レースティリ王国の王都周辺の街に行き、情報を集め、装備を整える。その後、迷路に潜る」
コウヤは立ち上がり、空を見上げた。
「このゲーム、確実に優勝する」
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雨が降っていた。その雨と同じ様に身体から赤い液体が流れ出る少女と、その少女を抱き抱える、その雨と同じ様に目から液体を出し続ける傷ついた白髪の少年がいた。
辺りは炎が包み、降り続ける雨に負けじと、その火を燃やし続けている。
「もう…二度と……負けない………で…ね……」
紅く染まったその掌が、少年の頬に触れる。
そんな手を掴み、少年は言葉を紡ぐ。
「あぁ……約束だ!…俺は…もう…」
そして、少年は決意した。
「誰にも負けない!」
無敗で居続ける事を―
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「俺はもう、負けられないんだ…」