あの日
今回は少し短めです
―あの日は、妙に胸騒ぎがした事を覚えている。
俺はいつも通り魔王様の元に大量の書類を持って行っていた。レースティリ王国との同盟が成立した事により、魔王様や俺達『四天王』は人との戦闘が書類との戦闘に変わっていた。その中でも、魔王様にやってもらわなければならない書類が殆どなので、俺はこうして自分の顔が隠れる程の量の書類を、魔王様に届けているのだ。
恐らく今頃は、シーナ様が魔王様とお話しされている時間。そんな時に書類を抱えた俺がお2人の間に入って行くのはとても嫌な事ではあるのだが、これも魔王様の志の為。きっちり働いてもらわなければならない。
そして何時もの通り扉を開けて、魔王様に声をかける。
「魔王様〜!お楽しみのところで悪いのですが、この書類を片付けて下さい!」
何時もならここで、
『あぁ、そこに置いておいてくれ』
と、お返事をなさる。だが、この日はそれが返ってこなかった。
不審に思った私は、書類を床に置き、周りを確認する。そして、俺の目には信じられない光景が広がっていた。
「……魔王…様……?」
そう呟いていた。何故なら、血だらけの魔王様が、目に映ったからだ。壁に横たわる様にして座り込んでおられ、片腕は無くなり、身体中から血が吹き出していた。
俺は無意識に魔王様の元へ駆けつけ、脈の確認をする。今の魔王様の状態をみれば、誰でもそう判断する事ができる。だが、この時の俺はそうせずにはいられなかった。そう、信じたくなかったから。
魔王様は死ぬ訳がない。何故なら、魔王様は誰よりも強く、『人間最強』と呼ばれたから。不可能とされていた人と魔人との和解を志し、遂に『大国』の1つ、レースティリ王国との同盟に成功させたから。
「魔王…様……何故…こんな…」
既に脈は無かった。完全に死んでいた。調べれば調べる程、魔王様の死が確実なものとなっていった。
『私』は涙が止まらなかった。産まれてから約100年。元々泣いた事が殆ど無かった俺は、泣いた時の事を大体覚えている。今回は、今までで1番涙の量が多かった。
そして、俺は初めて叫びをあげて、泣いた。
しばらく経つと、魔王様が死んだ、という事が国中で叫ばれていた。どうやら俺が泣き、気絶してから数10分程経っている様だ。状況を理解した俺は、次にとる行動を理解していた。シーナ様の保護だ。魔王様が殺されたのならば、その犯人がシーナ様を狙うかもしれない。
だが、俺はこの時ある違和感に気づいた。それは、シーナ様が魔王様の元に居なかった事だ。何時もならば、シーナ様は魔王様のそばにいたはず。魔王様が殺される時も。で、あれば考えられる可能性は限られる。
1つ目は、シーナ様が何らかの理由で魔王様の元に居なかった事だ。正直これが最も簡単で、最も良い可能性だろう。
2つ目は、シーナ様が魔王様に保護され、どこかに避難している事だ。恐らく魔王様は殺される前にその犯人と戦闘になっただろう。そして、魔王様であれば戦闘になる前にシーナ様を避難される筈だ。
3つ目は、シーナ様が犯人に攫われた可能性だ。これが最悪の場合だ。シーナ様が攫われているのであれば、それを捜索し、助け出すのは至難の技だ。無論、全力を尽くすが…最悪殺されている可能性も少なくない。
この状況で取るべき行動は、犯人を捕まえる事ではなく、シーナ様を助け出す事だ。魔力感知に長けた者達を招集し、シーナ様の魔力を探させる。これが今打てる、最善の策だ。
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1週間が経った。レースティリ王国との共同捜索を初めて、もう1週間。未だにシーナ様どころか、その痕跡すら見つけられない。その事実に、私は怒りと焦りを感じながら、歩き続けて居た。
一刻も早くシーナ様を助け出さねば、という気持ちが日に日に強まっていく。その感情が、拳から血を滲み出させていた。
そんな生活を続けていた『私』の目に、黒い何かが映った。それを見つけた『私』は全速力で走った。自分が出せる最高のスピードで走った。
近づくにつれて、どんどんそう見えていく。
(いや…)
「間違いない!シーナ様だ!」
(そのはずだ…!)
そう確信した。とても喜び、涙が溢れていたのを覚えている。
だが、それの目の前に来た時、言葉が出なかった。
「…そのはず……なんだ……」
3本の剣が重なり合った紋章。そう、騎士団の紋章だ。それがついた剣が、シーナ様の胸を刺し貫いていた。シーナ様は、仰向けにして倒れられていた。大量の血を流しながら…
「間違い…無い………はず…」
心の中でいくら否定しても、目の前の景色と理性がそう訴かけてくる。
「…ヒト……ガ…」
私は叫んだ。また、涙を流しながら…だが、1つだけ違ったのは、悲しみよりも、怒りが大きかった事だ。
「クソがァァァァァァァァァァァァァ!!」




