破壊の装甲
「…す、凄いですね…」
周りの景色を見て、本心からそう思った。あれだけいた伝説級の魔獣が一掃されたばかりか、辺りの景色がまるっきり変わっていた。
黒炎が大地に燃え盛り、黒氷が大地に突き刺さり、黒土が大地を変え、黒風が大地を抉り、黒雷が大地を壊していた。結果、地形が変わっていた。
これを創り出す存在は、先代やコウヤさんと同等の実力だという事が分かる。
(いや、コウヤさんは違うか…)
彼の実力は、『人間最強』とまで呼ばれた先代の実力を遥かに上回っている。それに先代を殺し、『黒風』ライアさんを優に倒した『脅威』朝比奈 裕翔の実力も、相当なものだろう。
この大地の惨状を見て、自分の護るべき対象だった少女が、もう、自分達を護る存在になった、という事を実感した。
だが、彼女は気づいていなかった。『脅威』と『異常者』の間には、圧倒的な力の溝が存在する事を。
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「リュークさんっ!」
「…沙霧!無事だったか」
空中から地上に着地し、リュークに向かって歩む。いや、正確にはリュークの後ろで横になっている多くの負傷者達へ。
「彼らは大丈夫なんですか?」
「ああ。怪我人は多いが、命に関わる程の傷を負った者はいない。運良くだがな…」
「…そう、ですね…」
この惨状を見れば、それが分からない者はいないだろう。地は裂け、建物は崩れ、魔獣が溢れかえっている。いや、魔獣は既に掃討したのだが、それでも怪我人は多い。
決して楽観視出来る状況ではない。それに加えて、先程から南の方で起こっている天変地異。未だ、何も解決してなどいない。
「リュークさん。あそこの中心では、恐らくコウヤが戦ってます」
「っ!あの天変地異を引き起こす魔法を行使する存在がいると言うのか!?」
「はい。恐らく…」
「…『神』か、もしくは…」
そこまでで2人の会話は終わり、天変地異をただ眺めていた。
『魔王』そして『魔人族』。避難中の『大国会談』参加者。そして、この世界に生きる殆どの人間がその光景を見ていた。
巨大な竜巻が次々に発生し、大地から火が吹き、蠢く。山が砕かれ湖が干上がる。そこは正に『天変地異』。
そんな戦いが発生したのは、『神』とそれに連なる者達の意思であり、世界を救う為だった。
また、『約束』を護るために自らの全てを賭け、『異常』である事を受け入れ、『普通』を捨てたからだった。
その戦いは、最早人が起こして良いものではなく、1つ上のステージの戦いであった。そして、それを理解出来たのは同じステージに立つ者と、更に上に立つ者だけだった。
「1つ上?」
「ああ。文字通り、強さのステージだよ。
一般人を1とするならば、『魔力状態』を使えれば2。『四天王』や『魔王』、『騎士団』なんかの実力者と呼ばれる者達が3。
そして、僕やコウヤは5」
「5?4じゃなくて?」
「4は君達『天使』、それに『四獣』達。まぁ、『四獣』達の方が5に近いけどね」
裕翔の口から飛び出したその言葉に、ソレイは少し顔を険しくした。
「私が貴方より下だと?」
「ああ。それはこの戦いを見ていれば分かるさ」
「…」
それ言われて、ソレイはその戦いを黙って見ることにした。少なくとも、今の戦いを見ている限りでは、自分がそこまで劣っているとは思えない。
だから、見るとしよう。
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『朱雀』と『玄武』の合成魔法で放たれた、火山の噴火による攻撃はなんとか『空間直結輪』で回避したが、それからも災害級の魔法が飛んできた。
その攻撃を対処するには、自由に飛行する能力が必要だ。そうしなければ避けきれない。足の裏に『魔力破壊』を展開しては間に合わない。
故に、『黒の状態』を発動していた。魔法を試してみたが一切当たらず、効かなかった。効果があったのは、せいぜい『魔滅』に魔法を纏わせるものくらいだ。
だが、それも限界だった。既に『黒の状態』は切れ、体力も限界に近い。こんなのは、本当に久しぶりだ。
「キャァァァァァァァ!!!」
「グォォォォォォォォ!!!」
「ブォォォォォォォォ!!!」
3体の咆哮と共に、各々が最高の威力を持った魔法を展開していた。絶対絶命。そう見られてもおかしくない状況だった。
そして、その3つの攻撃が同時に飛んできた。いずれも、災害を引き起こすレベルのもの。『大国』1つ程度なら、簡単に消し飛ばす程の威力を秘めていた。それらを一斉に放たれた。
だが、負ける気はしなかった。
直撃。あり得ない程の暴音が鳴り響き、大きな黒煙が発生した。辺り一帯がそれに覆われた。と同時に、暴風が吹き荒れ、超広範囲に広がる。それは国境を超え、多くの被害が出た。
家の瓦礫が、木々が、吹き飛んだ。
それを阻もうと、『栄光』が『勇者』が『魔王』が、各々護るべき対象を保護した。各々の方法で。
「くっ!」
「んぐっ!」
「ぐぅ…」
そして、それをソレイは確認した。
「終わりね。やっぱり、私の言った通りだったでしょ」
あの『異常性』には驚いたが、やはり全力を無理矢理引き出された3体の『四獣』には勝てないのだ。
「あぁ。やっぱり、僕の言った通りになった」
「え?」
そう言った裕翔は、かつてないほどに、笑顔だった。
「…ここからが見ものだよ」
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『四獣』達は、そして彼らの目を介して様子を見ていた『神』は、黒炎の中を凝視していた。
まだ、彼の命の火が残っているのが分かっていたから。
そして黒煙が晴れ、その姿を確認出来た。だが、その姿は今までに見たことが無いものだった。
全身が赤黒い鎧に覆われていたのだ。その鳥を象られた鎧は、爪先から首までの全てを覆っていた。首から上は、額に鳥の顔が象られたものが付いている。そして背中からは、赤黒く光る大きな羽が生えていた。
何よりも、その鎧には傷が無かった。
「『破壊の装甲』」




