魔王
(マズイ…)
本当にマズい。『黒・氷の状態』『魔力状態』が切れ、身体も満足に動かせない。
既に目の前では、不死鳥が今にも炎を吐き出しかけている。防ぐ手立ても、避ける方法も無い。
万事休す。ただただ、自分の死の瞬間を噛みしむ事しか出来ない。
ここで死ぬ。
それを悟って、目を瞑った。いや、炎が自分の目の前に来るのが恐ろしかったのかもしれない。気がつけば、目を瞑っていた。
その時、強力な光が瞼を照らした。思わず目を開けると、そこには放たれていた筈の炎は無く、黒い雷が落ちていた。
そして、その黒い雷はとても見覚えがあった。だが、何が起こったのか瞬時には理解出来ない。
――いったい誰が――
そう考えた矢先に、背中が目の前に飛び込んできた。その背中はとても小さい。だが、それ以上に存在感を放つ、覚悟を決めた存在の背中だった。
これにも、見覚えがあった。自分が護ろうとした存在の背中だった。だが、どこから懐かしさを感じた。そして、その背中は似ていた。非常に。
そう、デスト・ロードの背中に似ていたのだ。あの、重い覚悟を決めた存在に。そして、その瞬間に悟った。彼女が、自分が護ろうとした存在が、覚悟を決めた事を。
それを理解すると、必然的に彼女の纏う黒いオーラに考えが移る。あのオーラが何なのか、イリアには分かっていた。魔人族の黒い『魔力状態』とは違う。
黒いドレスを纏い、その目からは黒い光が放たれている。
「『魔王』様の…【黒の状態】…?」
そう。その力は、ドレスであるという事を除けば、かつてデスト・ロードが纏ったものと同じであった。
不完全なコウヤの『黒の状態』とは違い、その力はデストの力そのものだった。
シーナがこの力を持っていると云うことは、即ち、属性魔法を覚醒させた、と云う事だ。この黒いオーラはその証で、今シーナは属性魔法を覚醒させている状態である。
それはつまり、5つの属性魔法全てを、黒の覚醒をした状態で発動出来ると云う事だ。イリアの黒氷も、リュークの黒炎も同時に発動出来る。
コウヤの『黒の状態』は、自らの体力を大幅に消費して発動・継続するが、シーナの場合消費するのは魔力。しかし無限の魔力を持つので、永遠に発動し続けられる。
これが本当の『黒の状態』なのだ。黒に覚醒した属性魔法全てを無制限に操る。それは、覚悟をした者にしか辿り着けない力の境地だった。
「私は『魔王』シーナ・ロード!皆の命は、私が死んでも守る!かかってこい不死鳥!」
その宣言に答えるように、不死鳥は高らかに声を上げた後、再びあのオレンジの炎を放ってきた。
だが、シーナは微動だにしなかった。先程までは動かせなかったが、今は、動かさない。
何故なら、その必要が無かったから。その炎に向かって手をかざし、放った。
「【黒・炎の波動】」
黒炎はオレンジの炎を焼き尽くしながら進んで行く。不死鳥がそれに気づいた時には、既に全身は黒炎で覆われていた。
体の表面からどんどん燃えていく。そして核だけとなった。イリアの黒氷ではトドメを刺せなかったが、黒炎なら出来る。
不死鳥の核の再生は火属性魔法を使用した複合魔法だ。つまり、その火属性魔法ごと燃やし尽くしてしまえば、問題無く倒す事が出来る。
結果として、不死鳥は跡形もなく消滅した。
それを見届けたイリアは、それを成し遂げ空を見るシーナに声をかけた。
「やりましたね。シーナ様…いえ、『魔王様』」
だがそう言った瞬間、あちこちの地面から何かが飛び出してきた。それを見たイリアは、驚愕の表情を隠せなかった。
「不死鳥…?」
飛び出してきた何かは、全て不死鳥だった。それだけではない。いつの間にか辺りには、伝説とよばれる強力な魔獣達が、数百体はいた。
この状況を打破する方法は、イリアには全く分からなかった。だが、そんな事を考える暇も、周りの魔獣達は与えてくれない。
四方八方から、様々な魔法が放たれて来る。だが、
「【黒・全属性の竜巻】」
シーナがイリア達を囲うようにして発動した魔法によって、魔獣達の魔法は全て防がれる。そして、
「【黒・火・氷・土・風・雷波動】」
今度はシーナが、四方八方に魔法を放つ。その正確無比な攻撃によって、辺りの魔獣達は一掃されてしまった。




