炎
時は少し遡り、イリアと不死鳥の戦闘に戻る。
イリアは不死鳥の実力を冷静に分析していたが、内心は焦っていた。
『黒・氷の矢』を核に直接突き刺したと云うのに、殺しきれなかった。
つまり、これ以上の破壊をしなければ奴を殺す事は出来ない。しかし、それ自体はさして問題では無い。
問題なのは、タイムリミットがあると云う事だ。『魔力状態』『黒・氷の状態』を併用している今の状態は長続きしない。
なんとしても、今の状態で奴を殺さなければならない。そうしなければ、既に展開している魔法は全て消滅してしまう。
そうなる前に奴の核を完全に破壊しなければ、確実に敗北する。
だから、それまでに…。
「…殺す!」
イリアは両手を大きく開き、自分の背後に10本の氷の矢を展開した。
「【黒・氷の矢:Ⅹ】」
そしてそれを、不死鳥に向けて放った。だが、それをいとも容易く回避した不死鳥は、再びイリアに向かって豪炎を吐く。
イリアは上空へ飛び上がり、その炎を避けて剣で再び攻撃を仕掛ける。不死鳥もそれを読んでおり、再び爪による攻撃で応戦する。
だが、その結果は前回とは違っていた。不死鳥の爪はイリアの剣を破壊し、イリアの身体を斬り裂いたのだ。
だが、血は一滴も流れる事はなかった。何故なら、『黒・氷の状態』を発動しているイリアにどんな攻撃をしようとも、その身体は黒い氷に変化するのみだからだ。
だから、イリアは不死鳥の意表をつく為に、態と攻撃を受けたのだ。そして、その策は上手くいき、不死鳥の身体は一瞬硬直した。
そして、その瞬間を見逃すイリアでは無い。黒氷に変化したイリアの身体から、大量の氷の矢が放たれた。
「【黒・氷の矢:L】」
当然不死鳥はその攻撃を避けられず、その全ての矢が不死鳥の核を突き刺した。そして、不死鳥の核はジリジリと黒氷に覆われてゆく。
(やった…!)
シーナも、そしてイリアもこれで倒したと確信した。誰が見ても、それは明らかだった。
だが、それ以上核が凍っていく事は無かった。
「っ!」
不死鳥の核の周りの炎が、赤からオレンジに変わっていた。
炎は、赤いものより青いものの方が温度が高くなる。故に、赤よりもオレンジの方が温度が高い。
つまり、不死鳥の核のあたりの炎だけが、温度が高くなっている。それにより、核を凍らせているイリアの黒氷が、それ以上不死鳥の核を凍らせる事は出来なかった。
そして、それだけでは終わらなかった。その現象を見て、今度は自分が身体を硬直させてしまったのだ。そしてイリア同様、それを見逃す不死鳥ではない。
核周辺の炎同様、オレンジの色をした炎をイリアに向けて放った。不死鳥同様、イリアもその攻撃を回避できず、そのオレンジの炎の攻撃を受け、地面まで吹き飛ばされてしまう。
「くっ…」
そしてそれだけでは終わらなかった。イリアが併用していた『魔力状態』と『黒・氷の状態』が解除されたのだ。
それにより、不死鳥の核に突き刺さっていた大量の黒氷の矢が全て消滅した。
(マズイ…)
既に身体は動かない。魔力も尽きた。これ以上の戦闘は不可能に近い。
懸命に身体を動かそうとするが、無情にもその体は、動かそうとすればする程動かなくなっていった。
「ぐぅ…」
その一部始終を見ていたシーナも、懸命に体を動かそうとしていた。だが、不死鳥への恐怖はその努力を無にするかのように、シーナの動きを封じ込めた。
(なんで…なんで体が動かない!なんで!)
拳を握りしめ、そこから血が流れても止める事はなかった。
(私は魔王なのに!みんなを守らなくちゃいけないのに!どうして!?私を助けてくれたイーちゃんを助ける為にすら!体が動かないの?!)
「…どうして……!?」
その瞼から、涙が流れた。その涙が地面に落ち、その滴が飛び散った。
(助けて…父様…母様…)
「…コウヤ君……!」
その瞬間、シーナの脳裏にある出来事が蘇った。幼少期の、父親と母親との出来事が。




