第26話 天神 県で一番の繁華街(改) 初出08.9.17
日曜日の天神〈てんじん〉は思ったとおりのすごい人出だった。
しかしそれ以前に、天神に近づくにつれて多くなっていく電車の乗客に、すでにオレは参っていた。情けないことにオレは横に座ったレナに手を握っててもらわなければ逃げ出してしまったかも知れない。汗でビッショリになったオレの手をレナはずっと握っていてくれた。
途中、向かいの席に座った中学生くらいの男のコ数人にじっと見られているような気がして焦った。横のコとコソコソ話をするたびに、オレは男とバレているのではないかとビクビクしていた。こんな電車の中でオレのことを男だと言いだされたらたまったものではない・・・
電車を降りるとレナは、まるで足にクサリにつながった鉄球でも引きずっているように、重い足どりのオレの手を引いて歩いてくれた。オレは女の子の手をこんなに頼もしく感じたことは今まで一度もなかった。
長いコンコースを歩き人でいっぱいの自動改札を抜ける。
レナに手を引かれオレは小股で一生懸命ついていく・・・今日の靴は少しかかとが高くて歩きにくい・・・
「ねぇ・・・レナ・・・怖いよ・・・」
オレが思わず、つないだレナの手を強く握ると、レナも握り返してきた。
「ユウ、気がついた?」
「え?・・・なにを?」
「さっき電車の中で前の席に中学生くらいの男のコが何人かいたじゃない?」
「・う・うん・・・」
「あのコたちユウがあんまり可愛いからずっと見てたのよ!」
・・・まさか・・・
「・・そ・そんなハズないよ・・きっとわたしのこと男じゃないかって話てたのよ・・・そうに決まってる・・・」
それにもしレナの言うようにウワサをしていたのなら、それはきっとレナが可愛いからだろう・・・
「ふふっ・・ユウっておもしろいね。そんなふうに思ってるんだ?」
レナは可笑しそうに笑ってつないだ手をブンブン振った。
「ちょっと・・・やめてよ・・・恥ずかしいよ・・・」
「あははっ・・・」
恥ずかしがるオレを意にも介さず、レナは両手を振って歩いていく。オレは引きずられるようについて行くしかなかった。
レナはオレを連れてイムズに向かう。イムズといえば天神にいくつもあるファッションビルのうちのひとつ、その中でもオシャレな店が入っている。レナはいったい何処に向かっているのだろうか・・・オレは怖さと同時に少しの興味も混じって心臓がドキドキしていた。
しかし、こともあろうにレナがオレの手を引いて入ろうとしたのは女性物の下着の店だった。
「ちょ・・ちょっと・・・」
オレはレナの手を引っ張って店に入るのを拒んだが、そのままズルズルと引きずり込まれてしまった。いくら歩きにくい靴だといっても、オレってこんなに力がなかったのだろうか・・・これではとても本気で拒んでいるようには見えない・・・
店には色とりどりのブラやパンツがたくさん陳列されている。男のオレが入るにはあまりに場違いな所だ。
「ユウのサイズは?」
「え・・ええと・・・Aカップ・・・Aの70・・・」
「そうなの?どうせパット入れるんならもう少し大きいカップの着ければいいのに。」
レナはオレの胸が膨らみ始めていることを知らない。ただパットで膨らませているだけだと思っているのだろう。
「いいの・・・パットであまり大きくしたらバレちゃうから・・・」
「そうかなぁ。でもBくらい買おうよ!ね?!」
「う・・うん・・・まあ・・・」
たしかにオレも少し大きなカップのブラもしてみたい気持ちはある・・・しかしこれまで恥ずかしくて母に買ってほしいとは言えないでいた。そんなわけでオレは嫌々ながら買うのに同意するふりをした。
いざ自分で自分が着ける下着を買うとなるとドキドキをとおり越してバクバクだ・・・こういうのを心臓が口から飛び出しそうというのかも知れない。オレがおそるおそる手にとったのはお揃いのピンクのブラとパンツだった。
「ユウってそういう可愛いのが好きなんだ!」
急にレナに言われてビックリした。
「そ・・そういうわけでも・・ないけど・・・」
「いいじゃない、ユウに似合ってると思うよ。」
レナがブラをいきなりオレの胸にあてたから、オレは飛び上がりそうに驚いた。
「や・・や・・やめてよ・・・は・・恥ずかしいじゃない・・・」
「なんで? 似合うかどうか見てるだけよ。」
すると店員がオレたちの様子を見ていたのか声をかけてきた。
「お客様、よろしかったら試着してみませんか?」
こんなところで下着を試着するなんてとんでもない!
「い・・いえ・・いいです・・・これ買います・・・」
オレは慌てて言った。
オレは持っていたブラとパンティーを店員に押しつけた。店員が不必要に思えるほど時間をかけて袋に入れてくれるあいだ、挙動不信にならないように必死で普通を装って、やっとのことでレジを済ませた。お金を渡す時、異常に手が震えていたから変に思われたかも知れない・・・
ふと気がつくとレナの姿がない!オレはまるで迷子の子供のように、泣きそうになりながら店の外をキョロキョロ探していると、吹き抜けになった中央の待ち合い所で手を振っているレナを発見した。オレはチョコチョコとレナに駆け寄った。今日の靴は少しかかとが少し高いうえ、床が石畳になっていて歩きにくかったのだ。ともすると転びそうになる・・・なんだか女の子みたいな走り方になってしまう・・・
「もう・・なんで待っててくれないの?」
「ユウ自分で下着買えたじゃない。えらいえらい!」
レナはオレの質問には答えず、オレの頭をなでなでした。
「うぅぅ・・・」
オレは緊張と恥ずかしさで泣きそうだ・・・パニックで頭がクラクラする・・・オレは待ち合い所のベンチへとへたり込んだ。
「ヒ・・ヒドイよ・・待っててくれてると・・思ったのに・・・」
「ごめんごめん、ユウに初めての買い物は一人でしてほしかったのよ。」
「はぁ・・・もう・・緊張したぁ・・・」
オレはぐったりとベンチに背をあずけようとしたが・・・
「きゃぁっ!」
オレはそのまま後ろの植え込みにひっくり返ってしまった。ベンチに背もたれがなかったのに気づかなかったのだ。
「ユウ!大丈夫?!」
「う・・うん・・なんとか・・・」
後ろが植え込みで良かった。そうでなかったら頭から床に落ちていたかも知れない。しかし自分の姿を見てみると、それほど良くもない状態だった。オレは大きく足を開いてスカートはめくれあがりパンツが丸見えになっていたからだ。
「うわっ!」
オレは急いでスカートでパンツを隠そうとしたが、そのまま床にずり落ちてしまった。
オレはもう本当に泣いていた。きっとものすごく情けない女の子に見えているに違いない。みんなこんなオレを嘲笑しているに決まってるからまわりを見ることも出来なかった。
「レ・・レナぁ・・・」
手を引っ張って起こしてくれたレナに、オレは思わず抱きついてしまった。
「ユウ、だいじょう、だいじょうぶ・・・泣かないの!」
レナはそう言ってオレをなぐさめながら、オレの服の汚れをパンパンとはたいてくれた。
「あ〜ぁ・・・汚れちゃったね。」
手の甲で涙を拭いながら見てみると、床に落ちた腰の部分が植え込みの土で汚れてしまっていた。
「うぐっ・・・ど・・どうしよう・・・」
オレが途方にくれているとレナが
「そうだ!このままじゃどうしようもないから、これから買いに行こうよ。そのまま着替えちゃえばいいのよ!」
「えぇ!」
「だって、このままじゃ嫌でしょう?」
「・・・う・・うん・・・」
「ほら、涙ふいて。こんなところで泣いてたら目立っちゃうよ。」
レナがハンカチで涙をふいてくれた。
「ううっ・・・」
オレは必死で泣きやもうとした。こんなところで目立ちたくない・・・もし女の子の服を着て泣いているのが男だとバレたら、それこそみっともないなんてもんじゃない!
レナはとなりのビルへと通じる通路へ、なんとか泣きやんだオレを引っぱっていった。
ここは天神コアといって、どちらかといえば若い女の子の服を売っているところ・・・奥のほうに本屋さんがあったし、他のビルへの通路にもなっていたから、オレも男の頃に通ったことはあるものの、もちろん女性服のお店には入ったことはない。どちらかといえば足早に通り過ぎるといった感じだった。
レナはそのうちのひとつの店に入っていく。オレはたくさんの女の子の服にかこまれて、逃げ出したい気持ちになるのを必死で押さえていた。
「ユウはどんなのが好きなのかなぁ?」
レナはオレの恰好を頭から足まで見ながら言った。
「この服はユウが選んだの?」
「・・ううん・・・かあさんが・・・」
「へ〜、ユウ自身はどんな服が着たい?」
「・・わ・・わからない・・・」
「なんで?」
「だって・・わたし・・女の子になったばかりだし・・女の子の服のこと・・まだ良くわからないから・・・」
「そうなの? それじゃ、今日はユウが自分で着たいのを選んでみようよ!」
「・・そ・・そんなの・・無理だよ・・・」
オレはレナの積極的な態度に思わず尻込みしてしまう。
「そうかぁ・・・じゃぁ、わたしが選んであげる!」
オレはそれを聞いてホッとした。
「そのかわり、ユウはわたしのを選んでよ!」
「え?!」
「お互いに、相手に似合いそうな服を選ぶの。それなら出来るでしょう?」
「・・・う・・うん・・・」
なんだか妙なことになってしまった・・・オレがレナの服を選ぶなんて・・・しかし、少なくとも自分のよりは選びやすそうだ。だって、オレは自分がどんな服が似合うかなんて、さっぱりわからないのだから。
店内にはところ狭しと女の子の服がかかっている。オレは依然としていたたまれない気持ちだったが、レナに似合う服を探すと思うと、少しワクワクしないでもない。
レナはどんな服が似合うだろうか・・・レナはそんなに女女した感じではないから、少し男の子っぽい恰好も似合いそうだ。
「いろんな服があるんだなぁ・・・」
オレはいろいろ手にとってみながら、店内を物色していった。この店はコギャルみたいなコが着るようなハデな服が多いようだ。
「あ、これなんか良いんじゃないかなぁ・・・」
それはビニールっぽい素材で出来た白い上着と、股上が短い同じ素材のパンツがセットになっている。上着は袖ナシのジャケットで両胸のポケットがポイントになっている。しかし良く見るとポケットに見えた部分はただの飾りで本当のポケットではなかった。女の子の服って変わってる・・・パンツにはカッコいい大きめのバックルが付いたベルトがセットになっていて、お尻の両脇にもポケットが付いている。こっちは本物のポケットだった。裾は大きめに折り返しになっていて、裏地がグレーのチェックなのが可愛い。
「ユウ、選んだ?」
「・・・う・・うん・・・」
そう言われると、急にこれで良かったのか?という気持ちになってきて、思わず後ろに隠した。
「あっ!良いじゃない! ユウけっこうセンスあるね。」
「・・そ・・そうかな・・・」
なんだか照れくさい・・・
「わたしが選んだのはこれ!」
そう言って見せたのはショッキングピンクでエリが胸から肩まで大きく開き、エリの部分にクチャクチャした同色の飾りが付いている。スカートは黒いミニスカートでたくさんヒラヒラが付いて大きく膨らんでいる・・・
「そ・・そんなの着れないよ!」
オレは目の前が真っ暗になりそうだった。そんな服を着たら今着けているブラじゃ肩ヒモが見えてしまうし、そんなミニスカートじゃ、いつパンツが見えてしまうかわかったもんじゃない!だいたい男のオレにそんなセクシーな服が着れるわけないじゃないか?!
きっとレナはオレが男だということを忘れているに違いない!オレはレナの耳元で小声で言った。
「レナ・・わたし男なんだよ・・・こんなの着れるわけないじゃない・・・」
「大丈夫よ。これはユウが自分に自信ができた時に着ればいいの!」
「え?・・・で・・でも・・この服・・着替えなきゃ・・・」
オレは汚れたワンピースの裾を少し持ち上げて見せた。
「大丈夫だって言ってるでしょう? これからユウが着るのはこっちなんだから!」
レナがそう言ってオレに突き付けたのは、オレがレナのために選んだ服だった。
「ま・・待ってよ・・・これはレナに似合いそうなのを・・・だましたのね・・・」
「いいの!ユウにも似合うって!」
「で・・でも・・わたしこんな髪型だし・・・」
「もう!髪なんかどうにでもなるの!さっさと着替えてらっしゃい!」
オレはレナに更衣室へ押し込まれてしまった。
どうすればいいのだろう・・・オレはパニックになりそうだ。着て来た服は汚れてしまってるから、このままという訳にもいかない・・・レナに頼んで他のにしてもらおうかとも思ったが、考えてみればこの店にはおとなしい服は無かったような気がする・・・レナはきっと最初からこうするつもりだったのだろう・・・他のを頼んでもっとセクシーな服を選ばれてはかなわない・・・
これをオレが・・・?
狭い更衣室の中で、オレはその服を前に立ちつくしていた。
「ど・・どうすればいいの・・・」
オレはこんなに短いパンツは男のころだって穿いたことがない。これはストッキングをはいたままで良いのだろうか?オレは服を着たままパンツだけ穿いてみた。スカートはこういうことが出来るのが便利だ。しかし、穿いてみるとストッキングは脱ぐしかないとわかった。パンティーストッキングのパンティーの重なった部分がパンツの裾から出てしまうのだ。
オレは仕方なくストッキングを脱いでからパンツを穿いた。短いパンツから伸びる生足が恥ずかしい・・・レナは、もしオレがスネ毛の処理をしてなかったらどうするつもりだったのだろう・・・それともオレがムダ毛を処理してるのを知っているのだろうか?考えてみれば、エステを紹介してくれたのがレナの母親なのだから知っていたっておかしくない・・・?・・・そういえばエステのお姉さんはオレの身体が女性化してきてることを知っている・・・だとすれば二光さんも知っているかもしれないし、二光さんと知り合いのおばちゃんが知っている可能性だってあるじゃないか!いや、そんな回り道をしなくたって、かあさんが言ったかも知れない・・・
「ユウ、まだ?」
オレが悩んでいる間にけっこう時間が経っていたようだ。
「ごめん・・・もうちょっと・・・」
もう悩んでいるヒマはない・・・意を決してオレは短いボレロを脱ぎ、下のワンピースを頭から脱いだ。そしてスリップも脱ぐと上はブラだけになった。更衣室の鏡に、ブラジャーをして下には短いビニ−ル素材のパンツを穿いたオレが映る・・・清楚な髪型がよけいエッチな感じだ・・・オレはいたたまれず、急いでパンツと同じビニール素材の上着を着た。
「ユウ、もう開けていい?」
「・・う・・ううっ・・・」
焦ったオレは良いと言ったつもりは無かったが、レナはカーテンを開けてしまった。
「あ、いいじゃない!」
「・・い・・いや・・・だけど・・・」
オレはどうすればいいのかわからず言葉につまった。何しろ着てみてはじめてわかったが、上着は短かめでちょっと油断するとお腹が見えてしまうし、袖ナシのワキがけっこう開いているからブラの横の部分が見えてしまう・・・
「・・ブラ・・・見えちゃうし・・・お腹も・・・」
「いいのよ、見えても。そういうデザインなんだから。」
「・・そ・・そんなぁ・・・」
女の子ならブラが見えるのも可愛いかもしれないが、オレは男なんだぞ・・・男が見せブラするなんて・・・
「いいから、いいから。」
レナはそう言ってオレを更衣室から引きずり出す。するとそこにはショップの店員さんがいて、オレが着た服のタグを切ってくれた。そしてオレが脱いだ服を袋に入れるために持っていく。とりあえずいつものクセでたたんでおいて助かった・・・店員さんがオレの服と、レナが選んだ服をそれぞれ別の袋に入れ、手提げの袋に入れてくれた。
「レジはもう済ませたから。」
オレはレナに連れられて店を出た。こんなに足を出して歩くなんて・・・恥ずかしさになかなか足を大きく踏み出せない・・・
「レ・・レナ・・・ダメだよ・・・こんなの着て歩けない・・・」
「ユウ、もっと自信もって!ちゃんと背筋伸ばさないと、そんな猫背になってたら背中が出ちゃうわよ。」
「・・・ううっ・・・」
「堂々としてないと、よけい目立っちゃうじゃない!」
「・・・う・・うん・・・」
オレはもうレナの言いなりだった。完全に主導権を握られている。
「ねえ・・どこ行くの・・・?」
オレが聞いても、レナは答えずズンズン歩いていく・・・
「ねえ・・レナぁ・・・」
オレは不安でたまらなかった。レナはオレのことを守ってくれるって言わなかったっけ?
次にレナが連れてきたのは女の子が身に着ける小物ばかりを売っている店だった。どれも手頃な値段のものばかりだ。でもこんなのを身に着けるのはコギャルくらいのものではないのだろうか?
「ユウ、ちょっと付けてみて。」
そう言ってレナはキラキラした黒とピンクの細いカチューシャをオレの頭につけた。
「・・・ふたつも?」
「そうよ・・こういうのが流行ってるの。ほら可愛いでしょう?」
レナはオレを鏡のところに連れていった。
「・・う〜ん・・・」
オレには良くわからない・・・ふたつもつけるなんてヘンじゃないのだろうか?
しかしオレはレナの言うままに買わされて、その場で頭につけられてしまった。
「可愛いよ、ユウ。」
そんなこと言われてもオレは嬉しくなんかない・・・
「アイス食べて行こうよ。」
レナはオレの手を引っぱって、すぐ近くの店に入っていく。そこはコーンをその場で焼くことで有名な店だった。いつも前を通るとワッフル生地を焼く美味しそうな甘い匂いがしている。しかし、さすがに男が入るのは勇気がいるから、オレはこれまで入ったことがなかった。
「ユウは何がいい?」
「わ・・わたし・・バニラ・・・」
「じゃぁ、バニラとチョコね。」
なんかレナといるとオレの方が女の子みたいだ・・・
「はい。」
オレにバニラの方を渡して、椅子へと連れて行く。オレは情けないことに言われるままに着いて行くだけだ・・・
アイスは思った以上に美味しかった。女の子っていろいろ美味しいものを食べているんだなぁと思う。オレも食べすぎて太らないように注意しなきゃ・・・男が女の子になるだけでもヘンなのに、そのうえデブではあまりに情けない・・・
「でもユウって変わらないね。」
「え?」
「だって昔からユウって優柔不断だったじゃない。」
「そ・・そうかな・・・」
「そうよ。」
レナはオレの昔のことをどれくらい知っているのだろう?
「ユウは女の子になったってことは、今でもお嫁さんになりたいとか思ってるの?」
「えぇ?!」
オレは驚いてアイスを落としそうになった。
「だってユウ昔言ってたじゃない。大きくなったらお嫁さんになりたいって。」
「そ・・そんなこと・・言わないよ・・・」
「ユウほんとに憶えてないの? いつから憶えてないの?」
「たぶん・・・引っ越す前のことは・・・ほとんど憶えてないみたい・・・」
「え〜?! それじゃわたしのことも憶えてないの?」
「レ・・レナのことは・・憶えてるけど・・・でも・・・・」
「でも?」
「ほとんど憶えてないのかも・・・だって自分では忘れてるなんて思ってなかったし・・・なにを忘れてるのかも正直わからないし・・・」
「そうなの・・・じゃぁ、わたしが思い出させてあげるよ。」
「え?!」
それはある意味ありがたい気もするが、怖い気もする・・・だってレナが言ってることが本当だという保証はどこにもないのだ。
「い・・いいよ・・・今は・・まだいい・・・そのうち思い出すかも知れないし・・・」
「まあ、ユウがそういうならいいけど。」
レナはちょっと不満そうだ。
アイスを食べ終り、街を歩く・・・最初は恥ずかしかったが、だんだん慣れてきた。考えてみればボーイッシュともいえる服を選んだのだから、最初着ていた服よりもしかしたらマシかもしれない。女の子になってパンツ姿で外を歩くのは初めてだ。ワキからブラがチラチラ見えてしまうのは、さすがに恥ずかしかったが・・・ワキ毛を処理していたのがせめてもの救いだ・・・
「ねえ、ゲームセンターに寄って行こうよ。」
「え?ゲーム・・・?」
そういえばゲームセンターなんかずいぶん行ってない・・・
「別にイヤならいいんだけど。」
「ううん、行く!」
オレたちはゲームセンターで遊びまくった。なんだか久々に楽しくて男に戻ったみたいだ。パンツスタイルなのもスカートに気を使う必要がなくて良かった。オレが男だったらこういうのもデートになるのだろうか? 結局オレは男としてデートしたことは一度もなかった・・・これから女の子としてデートすることなんかあるのだろうか? 女の子として・・・それはオレが男とデートすることを意味しているのか?・・・オレはそんな考えを頭から振り払おうと、さらにゲームに熱中した。
「クレーンゲーム?」
実はオレはクレーンゲームはやったことがなかった。ぬいぐるみにまったく興味がなかったからかもしれない。というよりオレはぬいぐるみという物があまり好きではなかった。なぜかわからないけど出来ればさわりたくない・・・でも今日は楽しさも手伝ってやってみようかという気になった。それにレナも一緒だし、レナが欲しいのかも知れない。
「やってみる!」
オレは挑戦してみたものの、初めてでは取れるハズもない・・・キてぃちゃんのぬいぐるみを持ち上げることも出来なかった。
「ユウったらヘタだなぁ。」
レナは「こういうのが取りやすいの。」と言いながらボタンを操作する・・・キてぃちゃんが吊り上げられ・・・あっという間に取ってしまった。
「はい、ユウにあげる。」
オレは急にキてぃちゃんのぬいぐるみを渡されてドキッとした。
「・・い・・いいよ・・レナが取ったんだから・・・」
そう言ってオレはぬいぐるみをレナに返そうとした。ぬいぐるみなんかさわりたくもない・・?・・あれ?・・なんかフワフワして気持ちいい・・・
「わたし得意だからいっぱいあるの。だからユウにあげる。」
「・・ほ・・ほんと? もらっていいの?」
オレの? 自分のぬいぐるみを持つなんて初めてだ。なぜかわからないけどすごく嬉しい・・・こんなに・・・こんなにキてィちゃんって可愛いものだったのか? ぬいぐるみを見つめるオレにレナが言う。
「ユウは昔から可愛いものが好きだったもんね。」
レナは事も無げに言うが、オレにとっては初めて知ることばかりだ。
「わたし・・ぬいぐるみとか・・好きだったの?」
「うん、いっぱい持ってたよ。」
「そ・・そう・・・」
オレにはそんな記憶はまったくない。いや・・・かすかにあるのは頑にぬいぐるみが嫌いな記憶・・・
もしレナが言うことが本当なら、オレは自分の女の子っぽい趣味を否定するために、わざと可愛いものを遠ざけていたのかも知れない。そうでなければこんなに・・・こんなに心がときめくハズがない!
「ユウ、プリクラ撮ろうよ!」
「う・・うん。」
オレはプリクラも初めてだ。彼女でもいれば撮ることもあるのだろうが、男だけでは撮ることなどないし・・・中に入るとレナが慣れた手つきで次々に操作する、フレームを変えたり、何か書込んだり、なんだかオレまで心がワクワクする・・・オレとレナは何枚も写した。いつしかオレもすっかり女の子のような気持ちになっていたようだ。その時は自分でも気づかなかったが、後で出来たプリクラを見て思った。プリクラの中のオレとレナは、まるで仲の良い女の子どうしのようだった。
「・・・う〜ん・・・・」
帰る前にレナとゲームセンターの女性トイレに入ったオレは便器を前に戸惑った・・・和式だ・・・
オレはもともと男のころから自宅の洋式トイレではオシッコを座ってしていたから、これまではオシッコを座ってすることには何の戸惑いもなかった・・・しかし和式は別だ・・・オレはこれまで和式トイレでオシッコをするためだけに座ったことなどない・・・
オレは観念してビニ−ル素材のパンツと下着をヒザまで下ろして便器へと座り込む・・・別にウンコをする時は男でも座るのだから同じことなのだが、オシッコをするためだけに座るとなると何か変な感じだ・・・不思議に自分が女の子なのだと思い知らされてしまう。
なんかあまりに情けないので、いっそのことウンコもしようかとも考えたが、今は出たくなかっし、レナの方まで臭ってしまったら恥ずかしい。仕方なくオレはそのまま始めた・・・オレの今ではしょぼくれてしまったところからショボシヨボとオシッコが出てくる・・・なんだかチンコが萎びてしまってから、オシッコの出方も勢いがない気がする・・・
終ったオレは男のころの名残りで小さなものプルプル振ってから、トイレットペーパーで拭いた。オレは女になってから終った後は拭くようになっていた。だって女の子がパンツに染みをつくるなんて、なんかイヤだった。男はなにかのはずみにパンツが見えてしまうなんてことはないけど、女の子のスカートはいつ捲れてしまうか何とも心もとない気分なのだ。そんな時、もしパンツに黄色い染みがあるのを見られたりしたら、いくらなんでも恥ずかしすぎる・・・
トイレが終って個室の中で服をチェックしたオレは個室のドアを開けた。するとそこにはすでに待っている女の人がいた。オレは男だとバレてしまわないかと心配で、急ぎすぎないことを心がけながら手を洗い、髪を気にするふりをしてから、そそくさとトイレを出た。女の子は男のようにチャッチャと手を洗えないのがめんどうだが、最近はそういうことにもだいぶ慣れてきた。
レナはまだのようだった。トイレから少し離れたところでひとりで待っているとオレは急に不安になってきた。ここはゲームセンター、ちょっと不良っぽい男の子もけっこういる・・・もしこんなところで男だとバレてしまったらと思うと、いたたまれずに体が縮こまってしまう・・・
ふと気づくと、ちょっと離れたところにいる二人組の男の子がオレのことを見ているような気がする・・・オレがうつむいて知らないふりをしていると、二人がオレの方へ歩いてくる!
だんだん近づいてくる二人の目的がトイレであることを願っていたが、オレの願いは叶えられなかった。
「ねえ、君可愛いね、ひとり? 誰かまってるの?」
「・・・あ・・い・・いえ・・・」
オレは何て言ったらいいのかわからず適当に答えた。男だとバレたらどうしよう・・・オレの心臓が早鐘を打つ・・・
「ねえ、これからカラオケ行かない?」
「・・・い・・いや・・・」
オレはどうしたらいいのだろう・・・女子校に通いだしてからは男と話をすることもほとんどなかったから、男の子にこんなに近くで話かけられるだけでも緊張するのに・・・これは・・・これはナンパではないのか?
オレはパニックをおこしそうだった。足がガクガク震えて逃げることも出来ない・・・ど・・どうしよう・・どうしよう・・・怖い・・・・・
「ちょっと!あんたたちユウに何してんのよ!」
急にレナの声がした。
「あ、君このコの友達? いまカラオケ行こうって話してたんだよ!」
「イヤよ! わたしたちもう帰るんだから。」
レナはオレの肩を抱いて二人の男から連れ出してくれた。怖くて足が震えてうまく歩けない・・・
「ねえ、ちょっと待ってよ!」
「きゃっ!」
オレは男に腕をつかまれ悲鳴をあげた。
「もう! しつこいなあ!」
レナはオレの腕をつかんだ男の手を引き離すと、オレの背中を抱いて走って店を出た。オレはガクガクする足で必死についていくだけだった。
「・・あ・・ありが・・とう・・レナ・・・」
オレは怖くて震える声でレナにお礼を言った。レナは本当にオレを守ってくれたのだ。やっと安心したら涙が出てきた・・・
「もう、泣かないの! ユウはもう女の子なんだから、あれくらいのナンパうまく断らなきゃダメじゃない!」
「・・う・・うん・・・でも・・怖くて・・・」
「ユウは可愛いんだから、これからもいっぱいナンパされると思うよ。」
「・・そ・・そんなぁ・・・」
それじゃひとりで街になんか来られないじゃないか・・・
「ちゃんと自分で断れるように強くならなきゃ!」
「・・・う・・うん・・・」
オレはそんなに強くなれるだろうか・・・レナにしっかりと肩を抱かれて歩きながらオレは思う・・・オレは女の子になってすごく弱くなってしまった・・・それともオレはもともと弱い人間だったのだろうか・・・?
「・・レ・・レナ・・・わたし・・強くなれる・・・?」
「なれるよ! ユウが自分は女の子だって自信を持てばね。女の子ならもっと自分の可愛さに自信持たなきゃ! ね?」
「・・・う・・うん・・・」
オレは自分に自信を持ちたい・・・そして可愛い女の子になりたい・・・・・でも・・どうすればそうなれるのか・・・オレにはさっぱりわからなかった。




