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第18話 感情 オレの身体が女になる?   初出08.7.15

 オレはいつの間にか家に帰っていた。家までどうして帰ったのか憶えてないくらい気が動転していたのだろうか。オレは二階の自分の部屋に入ると鍵をかけた。誰かが入ってくることは無いと思ったが、とにかく閉じこもりたい気分だった。


 制服を着たままベッドに倒れ込む。もうこのまま男に戻れないのだと思うと自然に涙が出てきた。正確には体は男に戻るかもしれないが、もうオレの身体には男としての機能が戻ってくる保証はない。


 薬を止めれば、身体はまた男に戻るかもしれない。とはいえ身体だけ男に戻って何になるというのだろうか? こんな身体では彼女も出来ないだろうし、結婚も出来ない。たとえ出来たとしても、子供を作ることは出来ないかも・・


 オレはいつしか泣きじゃくっていた。枕が涙で濡れていく。オレはいったい何を考えていたのだろうか?男が女子校に入って女の子として生活するなんて、冷静に考えれば有り得ない話ではないか。第一、女として卒業しても、それはあくまで女のオレであり、大学に行くにしても、就職するにしても、男のオレはあくまで中卒ではないのか? なぜ今までそんなことにも気付かなかったのだろうか? オレは自分のあまりの馬鹿さに悲しくなってしまった。



 オレはベッドから起き上がると鏡の前に立ってみた。女になってから置いた全身が映る縦長の大きな鏡だ。原因がわかって見てみれば、鏡に映ったオレは確かに以前のオレとは違っている気がした。髪が伸びただけではない。制服を着ていてもオレの身体が女らしい凹凸を帯びているのがなんとなくわかる。そういえば、以前は苦労していたスカートの腰の位置も最近はあまり気にならなくなっていた。


 オレは今日はじめて着た夏服のセーラー服を脱いでベッドに置いた。スリップを脱ぎ、ブラジャーを外す。そして胸に貼りついたヌーブラをゆっくり剥がした。そこにはまだ幼い小さくとがった乳房があった。乳輪のまわりが少しとがっているだけだったが、それは太ったとかいうのとは明らかに違う、思春期の膨らみ始めた少女の乳房のようだった。


 女の子のパンツをはいた腰つきも男のそれとは違っている。以前は裸で女性モノのパンツをはくと、なんだか海パンのようでとても見られたものではなかったが、今では腰のあたりについた脂肪がオレの身体を女性らしく見せている。お尻も少し大きくなっているみたいだ。そういえば最近イスにすわると、なんだかお尻がグニャグニャするのを不思議に思っていた。それもお尻についた脂肪のせいだったのだ。


 なぜこんなに変わっているのに、オレは気付かなかったのだろうか?


たしかに裸で鏡に全身を映したことはほとんどなかった。鏡に映して見るのは、服や髪型だけで、自分の全身をしげしげと見ることなどなかった。女になった自分の姿などそんなに見たいものではなかった・・・きっとそのせいで今まで自分の身体の変化に気付くことがなかったのだろう・・・


 いや、それは違うかも知れない。気付く機会は何度もあったはずだ。女らしくなっただの、可愛くなっただの、いったい何人に言われたと思う・・・長谷川にも言われたではないか。それをオレは考えまいと無視し続けていたのだ。オレはどこかで女っぽくなるのを恐れていたのかもしれない。



 オレは胸の小さな膨らみをそっと触ってみた。それは確かに男のころのオレには無かった突起だった。乳輪のあたりは少し固くしこりのようになっていて・・良く見ると突起の裾野にもなだらかな膨らみが続いている。乳腺というものが広がっているのだろうか・・・このまま薬を続けていれば、乳腺は発達し続け、女の子のように胸が大きくなっていくのだろうか?


 前の部分に可愛いリボンが付いた女の子のパンツをはいた股間に手を伸ばすと、そこには小さく萎んでしまったオチンチンが付いている。もう随分長い間勃起することもなく、射精もしていない。そもそもしたいという気持ちにもならなかった。


パンツを降ろしてみると・・一糸まとわぬ裸になったオレの姿は、まるでこれから大人の女になろうとする思春期の少女のようだった。その中で股間にあるものだけが、逆にオレの身体にそぐわないような気さえしてくる。


 オレはいったいどうすれば良いのだろうか? 今のオレに与えられた選択はそんなに多くないように思える。


 薬を止め男に戻ったうえで、なお女子高生を続けるか。本当に男に戻って、来年男として受験し直すか。それともこのまま薬を続けて女の子の身体になるか・・・・


 男に戻ったとして、子供が出来ない身体になるかも知れないのにやっていけるのだろうか? もちろん結婚したからといって必ず子供が出来るわけじゃない。子供が出来ない男の人もいるだろう。自分に問題がなくても奥さんの方が出来ない可能性もある。そもそも結婚するのかどうかもわからない。


 このまま薬を使い続けて、仮に完全に女に見える身体になったとしても、どっちみち男のオレに子供を産むことなど出来るハズがない。そもそも子供が出来るか出来ないかがどれほど重要かなど、高校生になったばかりのオレにわかるハズもない・・・



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 オレは普段着のサマードレスに着替えてリビングにおりるとソファーにグッタリと座り込んだ。


ふと見ると、スカートの中で足が開いてだらしない感じがしたが、今のオレには関係ないように思える。なんだか一気に疲れてしまったようだ。それにどうせ見ている人もいないのに、女のふりをするのもバカバカしい気がしてしまう。


 「おや?有希、帰ってたのか?」

オレはその声にハッとして、慌てて居住まいを正した。三吉先生に厳しく躾けられた身体が勝手に反応してしまう。オレはどれだけ真面目な性格なんだ・・・

「とうさん、いたの・・・」

「いや、さっき書斎から出てきたところだけど。有希、どうかしたのか?」

「とうさん・・・とうさんはオレが女になったらどう思う?」

父はヨッコラショとばかりに向側のソファーに腰掛けた。

「女になるって、今のままってことか?」

「いや・・・そうじゃなくて・・・

オレはなんて説明すればいいのかわからなかった。


 オレは立ち上がり腕を後ろにまわすと、サマードレスの腰のリボンをほどいた。両手を首の後ろに回し背中のファスナーを降ろす。

「とうさん・・・オレの身体・・・見て・・・」

オレはそのままサマードレスを脱いで、パンツだけの姿になった。

父は驚いて目を見開いた。

「どうしたんだ? その身体は・・・」

「オレ・・・もう・・・女の子になりかけてるんだ・・・」

オレは父にこれまでのいきさつを全て話した。



「なるほどな・・・それで? 有希、おまえはどうしたいんだ?」

「オレ?」

「おれは、おまえが好きなようにすれば、それでいいと思っている。おまえの人生だからな。」

「そんな・・オレまだ高校生になったばかりだよ・・・これから先のことなんて・・・まだわからないよ・・・」

父はしばらく考えてからこう言った。

「お前は子供が出来ないかも知れないことを気にしているが、それは悩んでどうこうなることじゃないんだろう?」

「・・うん・・・」

確かにその通りだ・・・いま悩んでみても機能は戻ってくるかどうかはわからない・・・


「それじゃ、男に戻って勉強し直して来年別の高校を受験するか? 良く考えてみるんだ。」

オレは来年受験し直して、男として他の学校に行くというのは、あまりイメージできなかった。なんだか男としてのオレがイメージしにくい。女に慣れすぎてしまったのだろうか?


・・それに・・今から男に戻って・・普通の男子高校生になったとしても・・・脇毛も無いし・・身体中ツルツルの女の子っぽい男になってしまう・・・


1歳年上なだけでも変は目で見られそうなのに・・それが女の子みたいだったら・・どう思われるだろう・・・


「・・男として入学しなおすのは・・ちょっと・・・」

「それじゃ、このまま白鴻女学園に通うとしたら、身体を男に戻すのと、女になるのとどっちがいい?」

そう言われると、女子校に通い続けるのに、いまさら男に戻っても意味が無い気がしてくる。ずっとブラジャーの中にヌーブラを忍ばせて・・いつバレるかハラハラしているよりは、女の身体になれるのならその方が良いのではないのだろうか?

「でも・・・卒業したら男に戻らなきゃいけないんじゃないの?」

「別にそう決めてかかる必要もないだろう。有希が女として生きたいのならそうすればいいとおれは思うけどな。」

「オレが女として生きる? ずっと? そんなことできるの?」

「それはおまえの努力次第だろう。まあ、男が男として生きるよりは、女として生きる方が努力は必要かもしれないな。だが、どんな人生でも人間が生きていくには努力は必要だ。ただ、同じ努力でもやり甲斐があるかどうかで大きく違うだろうな。」


 やり甲斐?オレはその言葉に引っかかった。オレにはこれまで男として生きてきてやり甲斐など感じたことはなかった。しかし女の子になる努力には・・やり甲斐ともいえるようなものを感じてはいなかっただろうか? なぜ勉強も出来なかったオレが女になることには、こんなに一生懸命になれたのだろうか? 女子校にしか行くところが無かったから? 本当にそれだけなのだろうか?


「とうさん・・・オレ・・・ほんとに女になれると思う・・・?」

「有希は今でも十分女らしいぞ。」

「オレ・・・女になってもいいの?」

「そうだな、おまえの人生だ。おれにとってはおまえが男でも女でも、大切な子供であることに変わりはない。」

オレはいつの間にか涙ぐんでいた。

「と・・とうさん・・・」

オレが抱きつこうとすると父は慌ててオレを制止した。

「有希、とにかく服を着なさい。」

「あっ!」

オレは自分が裸なのを忘れていた。

「ヘヘッ・・・ごめん・・・わたしったら・・・なんかはしたないね・・・」

オレは照れながら急いでサマードレスを着なおした。



 オレは自分でも何でこんな考えに至ったのかは良くわからなかった。ただ、父に言われて思ったのは、今さら男に戻ることにはあまり意味を見出せないということだった。もっとも女になることに意味があるかどうかは良くわからない・・ただ、なぜか今やめてしまってはいけないような気がした。そんなことを思うのはオレには初めての経験だった。


 高校に入学してからこれまで女の子として過ごしてきたなかで、今まで男として生きてきて感じたことがなかった何かを感じ始めていた・・それが何なのかオレは確かめてみたかったのかも知れない。









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