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第17話 異変 オレの身体に何が?   初出08.7.13

 オレはこの日、初めての夏服に袖を通す。真新しい白いセーラー服は清楚でおとなしい印象だが、少し大人っぽい感じもして男のオレが着るにはちょっと勇気がいる。スカーフは真っ黒だが、そこがまたこの制服を上品な感じにしていた。


 いつものようにパジャマを脱ぎ、裸になってヌーブラを胸に貼り付ける。


ヌーブラというものは、普通は両胸に貼り付けたうえで真ん中で留め、胸に谷間を作るようにするものらしいが、オレの場合は無い胸をかさ上げするだけのものだから、必要ないプラスチックの留め具は切り取っている。


ヌーブラを反対に凹ませて、出っ張った方をオレの平たい胸に押し当て、空気が入らないように引っ付けていくと吸盤のように貼り付く・・・


 しかし、このところ困ったことが起こっていた。

「痛っ!」

ヌーブラを胸に貼り付けようとすると、なんだか乳首のあたりが痛むようになってきた。最初はそれほどでもなかったが、だんだん痛みは増していた。


 そして今日はとうとう両方とも赤く腫れてしまった。オレの乳首は乳輪のあたりから腫れてしまい少し触れただけでヒリヒリする。ずっとヌ−ブラを付けていたせいだろうか? それともバイ菌でも入ってしまったのかも知れない。仕方なくブラだけ着けてみたが、かえって擦れて痛かったので、我慢してまたヌーブラを付けてブラをした。着けてしまえばこの方が楽だった。


 オレはせっかくの夏服最初の日にこんなことになってブルーな気分になってしまった。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 そういえばこんなことがあった。


「いらっしゃい戸田さん。」

オレが家庭科室に行くと松本たか子先生が待っていた。オレは夏服の採寸をするために松本先生に呼ばれていたのだ。

「さあ、服を脱いで。」

家庭科室に鍵をかけて松本先生はオレに言った。


オレはセーラー服の上着を脱いで、スカートも脱ぐと、ブラとパンツの上にスリップだけを着た姿になった。

「戸田さんもすっかり女の子になったわねぇ。前に採寸した時はまだ男の子っぽいと思ったけど、今はこうして下着だけになっても女の子にしか見えないわ。」

「せ、先生・・そんなに見ないでください・・恥ずかしいです・・・」

「あ、ごめんなさい!なんかあんまり可愛いからつい・・・ね!」

先生は慌てて採寸に取りかかった。

「あら? やっぱりすこしサイズが変わってるわね。計り直して良かったわ。」

「・・少し太ったみたいなんです・・」

オレは照れくさかった。なんだか最近、身体に脂肪がついてしまったのかムチムチしてきたのだ。女子校に来てあまり激しいスポーツをしなくなったからだろうか?


「そうねえ・・太ったって感じでもないけど・・・」

先生は採寸を終えるとオレに言った。

「やっぱり戸田さん、少し女の子っぽい体型になってるわね。」

「え?」

「このところ見てて思ってたのよ。最近の戸田さんは少し体つきが変わってる気がするなって。だから改めて採寸した方がいいと思ったんだけど・・たしかにヒップは少し大きくなってるけど、ウエストは以前よりほんの少しだけど細くなってるくらい・・」

「え?!・・なんでですか?」

「そうねぇ・・・女の子ばかりの中にいたから、戸田さんも女性ホルモンが多く出るようになったのかも・・・」


オレは驚いた。女の子ばかりの中にいたら女性ホルモンが多く出るようになるなんて! そんな話聞いたことがない。

「そんなことってあるんですか?」

「さあ? 先生もそういうことは良くわからないけど・・・」

なんだ・・・先生も知らずに言っていると知ってオレは少し安心したのだった。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 「こんにちは先生。」

オレは保健室に白石先生をたずねた。先生には薬も貰わなきゃいけないから、おりにふれてオレの身体を看てもらっている。

「どうしたの?お薬もうなくなった?」

「いえ、そうじゃないんですけど、ちょっと痛いところがあって・・・あの・・・胸が・・・」

「あら、ちょっと見せて。」

先生は診察室にカーテンをした。


 オレは夏服のセ−ラ−服を脱ぎ、ブラジャーも外すと、そっとヌーブラを剥がした。

先生はオレの腫れた乳首を見てから言った。

「なるほどね・・これは乳腺が発達してきてるのよ。病気じゃないから心配いらないわ。」

「・・乳腺・・・ですか?」

「そう、男の子にも女の子と同じで、お乳を出すための乳腺があるの。ホルモンのバランスが変わるとそうなるのよ。」

「・・ホルモンが・・・?」

「大丈夫、しばらくすれば落ちついてくるから、そうなったら痛くなくなるわ。」

オレはそれでも心配だったから聞いてみた。

「乳腺って・・男でもお乳が出るようになるんですか?」

先生は残然そうに首を振った。

「たぶん、そこまではいかないと思うわ。戸田さんには悪いけど。」

先生はオレのことを性同一性障害だと思っているから、オレがお乳が出るようになりたいと思っているかもしれないが、オレはそれを聞いて正直ほっとした。


 女っぽくなるだけならまだしも、男のオレが母乳を出すようになってはかなわない。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 白石先生が言ったとおり、胸の痛みは次第におさまってきた。しかし腫れっぽさは引いたが、腫れて膨れた状態はなかなか元には戻らなかった。それに・・痛くはないものの、なんだか突っ張るというか、胸の筋肉から乳首まで一本のヒモで繋がっているみたいな変な感じだ。特に走ったりして揺れると、その突っ張りが乳首をツンツン引っ張るようだ。しかし、痛みはなくなったため、あまり気にはしなかった。


 「いらっしゃい有希ちゃん。」

何度かエステに通ううちにエステのお姉さんとも仲良くなったので、お姉さんもオレのことを有希ちゃんと呼ぶようになっていた。たぶん二光さんがオレのことをそう呼ぶから、みんなそう呼ぶようになったんじゃないかと思う。


 オレはいつものように、ピンクのガウンに着替えてベッドに横たわる。エステで脱毛してもらうようになって、カミソリ負けで赤くなっていた部分もきれいに治っていた。お姉さんの話では、オレのワキ毛の永久脱毛処理はほとんど終ったらしい。これからは、たまに生えてきたやつを脱毛すればいいのだそうだ。オレのワキにはもう一生毛は生えないというわけだ。高校卒業後、男に戻ってもワキ毛の無い男として生きていかなければならない。それは少々困った事態だが、今現在できることは何もない。ワキ毛の無い男よりも、ワキをカミソリ負けで真っ赤にした女の方が恥ずかしい。


 それにワキ毛はどうせそんなに見えないから大きな問題ではないかも知れない。オレはそれよりもっと男に戻った時に困る可能性があることを始めてしまっていた。それは全身の永久脱毛だった。しかしこれも仕方がないことなのだ。オレのアレルギー体質は全身に及んでいるようで、足や腕もカミソリ負けしてしまうのだ。テープで抜いても痛いうえ、後が赤くなってしまう。それでオレは決断せざるを得なかったのだ。お姉さんが言った、最近は男性も毛がない方がモテるという言葉だけが、オレにとって唯一の救いだった。


 脱毛が終り、肌のケアも兼ねて全身をマッサージしてもらっているとお姉さんが言った。

「有希ちゃん良かったわね、だいぶ体つきが女性らしくなってきたじゃない!」

「え?」

あまりに普通に言われたので、オレは訳がわからず聞き返した。

「なんのことですか?」

「女性ホルモンのことよ。だいぶ効いてきたみたいね。」

「効いてきたって・・・?」

「あら?有希ちゃん、ホルモン治療始めたんでしょう? ホルモンは若いうちから始めた方がいいのよ。有希ちゃんくらいの歳からだったら、女の子と区別がつかないくらいになるかもしれないわね。」

「わたし・・・ホルモンなんて・・・」

「恥ずかしがることないのよ。ここには有希ちゃんみたいな男の人も結構来てるから、パッチのことも知ってるの。」

「わたしみたい・・・? パッチ・・・?」

するとお姉さんはオレの脇腹を指さして言った。

「このパッチよ!」


お姉さんが指さしたオレの脇腹には、白石先生から貰った肌色のパッチが貼ってある・・・


・・男の子の働きを・・押さえるための薬・・・!?


!! その瞬間、このところオレの身におこっていた事態がすべて繋がった。


・・女性ホルモン!!


オレは自分でも知らないうちに女性ホルモンを摂取させられていたのだ。白石先生からもらったパッチは、ただ勃起をしなくなる薬だと思っていたが、実は女性ホルモンだったのだ。


 これでオレのオチンチンが勃起をしないだけでなく、射精もしなくなったうえ、すっかり小さくなってしまったことも・・オレの胸が腫れて戻らなくなったり・・体型が変わってきたことも・・全て説明できるのではないだろうか?!


白石先生はなんでそんな薬をオレにくれたのだろう? オレを女にしてしまうつもりだったのだろうか?



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 次の日、オレは登校するとすぐに保健室へ向かった。

「先生!」

「あら、戸田さんどうしたの? こんな朝早くから。」


オレは怒っていた。先生のせいで、危うく女になってしまうところだったのだ。

「先生・・・先生がわたしにくれたパッチって・・・女性ホルモンじゃないんですか?」

「そうよ。エストロゲンという女性ホルモンなのよ。」

先生は事も無くそう言った。まったく悪びれたふうもない。


「あの・・・このパッチのせいでわたしの身体は女っぽくなってるんですか?」

「そうなの。戸田さんの歳から使えば、見た目もかなり女の子らしくなれると思うわよ。性器以外はね。」

そんな・・・勝手に・・・

「も、もしも、今薬をやめたら、男に戻れるんですか?」

「そうねぇ・・・身体つきはある程度戻るかもしれないけど、機能は戻らないかもしれないわ。」

「・・機能・・・?」

「そう。女性ホルモンを投与すると男性の機能、つまり精子を作る機能は衰えてしまうの。投与の期間や個人差はあるでしょうけど・・」

「・・じゃあ・・・子供も出来なくなること・・・?」

すると白石先生は驚いた顔になった。

「もしかして・・・戸田さん子供作るつもりだったの?!」

「・・・・・」

オレはなんて言っていいかわからなかった・・・


白石先生は血の気が引いた顔で・・・

「・・どうしよう・・・わたし・・・てっきり戸田さんは男でいるのが嫌だとばかり思って・・・」

「い、嫌なのはそうなんだけど・・・」

そうなのだ、先生はオレが性同一性障害だと思っているのだから、女にされても怒る筋合いではない。しかし、オレは本当は性同一性障害ではないのだ。将来は女の人と結婚すると思うし、結婚したら子供だって欲しいと思う。高校生になったばかりのオレには、はっきりとは想像しにくいけど・・・


「ごめんなさい・・・戸田さんが子供を作ってから女になりたいと思ってるなんて・・・知らなかったから・・・」

「先生・・・わたし・・・もう男には戻れないってことですか?」

「そうね・・・ハッキリとは言えないけど・・・どうしよう・・・わたし・・・大変なことを・・・」

白石先生はすっかり取り乱してしまっている。それはすなわちオレの身に起こっていることが、すでにどうにもならないかも知れない状態だと言っているようなものだ。

「それじゃ、わたしがいま薬を止めても、もう元には戻らないって事ですか・・?」

「・・たぶん・・」

先生はうなずいた。


 オレはいったいどうすればいいのだろうか? これはまったく予想もしない事態だった。オレはいままで女の子になる努力はしていたが、本当に女になろうと思っていたわけではない。もちろんこの白鴻女学園を卒業したら男に戻るはずだった。


 それがどうしたことだろう・・・オレの身体はすでに女になりかけている。女性ホルモンの影響で乳腺が発達し始め、身体には女性特有の脂肪が付き始めている。肌もきめが細かくなり、潤いを増しているとエステのお姉さんにも言われた!


 それとは逆に、オレの男の象徴はすっかり萎びたようになってしまい、いまや何の役にもたたなくなってしまった。オレはあまりのショックに呆然としてしまい涙さえ出なかった。


 「先生・・・このことは黙っててもらえますか? 校長先生にも教頭先生にもまだ言わないでください。」

「・・・もちろん・・・言わないわ・・・」


 オレは少し冷静になって考えたかった。今は頭の中が混乱して何も考えられなかった。

「先生・・・わたし・・・今日は帰ります・・・具合が悪くなったから帰ったと言っておいてください・・・」

「・・・そうね・・・わかったわ・・・」

白石先生は心配そうな顔をしたが、オレの頼みを聞いてくれた。


 オレがイスから立とうとすると、先生がオレの腕をつかんだ。

「戸田さん・・・くれぐれも・・・早まらないで・・・」

「?」

オレは一瞬、何を言っているのかわからなかったが、先生はオレが自殺でもしないかと思っているようだ。

「あ・・大丈夫です・・・ただちょっと・・ひとりで考えたいので・・・」

オレはしっかり掴んだ先生の手を放してもらい保健室を出た。









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