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第16話 趣味 オレのアイドル   初出08.7.12

 「戸田さんは芸能人では誰が好き?」

岡本直美〈おかもとなおみ〉が聞くと、佐倉千里〈さくらちさと〉は

「ニースでは誰が好き?」と重ねて聞く。

オレはアイドルグループのニースは名前くらいは知っていたが、メンバーの名前など知らない。

「えっと・・・ニースって誰がいたっけ?」

オレが聞くと、佐倉はすかさずJINONのニースが出ているページを開いた。


 オレは単純に女の子になることだけを考えていたが、彼女たちの話題についていくのは並み大抵のことではなかった。三吉先生の“お嬢様教育”が楽に思えるくらいだ。特に教室では、別のクラスの長谷川も助けてはくれないから、オレひとりで対処するしかない。

「えっと・・・・」

オレはニースのメンバーを見たがどれも似たような顔で誰が誰だか良くわからない。真ん中にいるヤツがなんだか見た事があるような気がして、その男を指さした。

「あ!戸田さんも山上君が好きなんだ?!」

佐倉は嬉しそうな声をあげた。

「わたしも山ペーが好きなの!一緒ね。」


 そうだ思い出した。どうも見た事があると思ったら、こいつは山上といって前に永澤ますみとドラマに出てたやつだった。もちろんオレは山上ではなく永澤ますみが出てるから見ていたのだが・・・

「岡本さんは西喜怒君が良いんだって!でもニースといったらやっぱり山ペーよね!」

佐倉はオレと同じ趣味だったのが嬉しいようだ。

「原口さんはカツーンの亀有君が好きなんでしょう?」

「わたしは、しいていえばだけど・・・」

原口はそこまでアイドル好きじゃないのかな・・?


すると佐倉は急に思い出したように

「あっ!じゃあ、戸田さんも今日の山ペーのドラマ見るんでしょう?」

「え?・・う・・うん・・・」

オレは適当に返事をするしかなかった。今日、山上が出るドラマがあるなんて全然知らなかった。



 岡本と佐倉と胸が大きな原口弘子〈はらぐちひろこ〉の3人は良くオレに話しかけてくる女子だった。


岡本直美は髪はショートめで、少しウエーブがかかっているけどウチの学校はパーマ禁止なので天然なのだろう・・声が大きな女の子で、すぐに誰とでも仲良くなれるようなタイプだ。


佐倉千里は長い髪を後ろでひとつに束ねていて、大人しめで、ちょっと人見知りぎみだけどオレとは気が合うようで気づくとオレのとなりにいる。


原口弘子の髪型は・・ミディアム・ボブっていうのだろうか? 前髪も長いせいかピンで留めたりしている。ちょっとクールで大人っぽい感じ・・みんなとおしゃべりしてても一歩引いてるような気がする。


 そんな彼女たちがオレを友達と思っているのかは、オレには良くわからなかった。ただ彼女たちは、教室ではやたらとオレに話しかけてくるし、帰りにハンバーガー屋に誘われたりしたから、たぶん友達と言っていいのではないだろうか?


 最近、彼女たちから食堂に誘われたり、教室で一緒に食べようと誘われるから、オレは中庭で昼食を食べることも少なくなった。おかげでクラブ以外ではなかなか長谷川にも会えない。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 久しぶりに彼女たちを振り切って中庭でお昼を食べていると、長谷川がやってきた。

「あれ? 今日は取り巻きが一緒じゃないんだぁ・・・」

なんかあいかわらず嫌味な言い方だ。

「取り巻きってなによ。」

オレも長谷川には多少強気に出ることが出来る。とはいえ秘密を握られていては、それもあまり当てにはならないが・・・

「あのいつも有希にべったりの3人組のことじゃない。」

「ああ・・・あの人たちはただの友達よ。」


「有希は相変わらずわかってないわねぇ。あの3人は有希のことが好きなんじゃない!」

「好きって・・・女どうしで好きっていったら友達ってことじゃないの?」

長谷川は、まったくわかってないと言わんばかりに首を振った。

「そりゃぁ有希は男の子にしか興味がないのかもしれないけど、女子校では有希みたいな女の子もモテるの!」

「わたしみたいって?」

「あーもうっ!イライラする!!」

オレには何で長谷川がイライラしているのか見当がつかない。


「有希みたいにボーイッシュで可愛い女の子ってことよ!」

そう言った長谷川の顔は真っ赤だ。しかし長谷川にそんなことを言われたオレも真っ赤になっているに違いない。

「わたしが?! そりゃぁ男だから・・ボーイッシュかも知れないけど・・・」

オレには自分のことがわからない。

「わたしってそんなに可愛いかなぁ・・・」

「知らないわよ!!」

長谷川は完全に怒ってしまったようだ。



 「ねえ、パン買ったのなら一緒に食べましょうよ。」

オレがベンチの片方を勧めると、まだ怒っているのか長谷川はドスンと勢い良く座った。


 あの一件以降も長谷川は前と全然変わらなかった。変わったのはオレのことを有希と名前で呼ぶようになったことくらいだ。


「ねえ、有希・・・あんた最近また女らしくなってない?」

長谷川がオレの顔を見ながら言った。

「髪が伸びたからでしょう?」

オレがそう言っても長谷川は納得いかないというように首をかしげている。

「髪はたしかにそうだけど・・・でもなんか違うのよねぇ・・・」

「ちょっと・・・そんなに見ないでよ・・・恥ずかしいじゃない!」

オレはそんなに見つめられたら恥ずかしくてパンなんか食べてられない気分だ。

「その唇、リップかなんか塗ってる?」

「ううん・・・何も塗ってないわよ。あ、コロッケパンの油でも付いてるんじゃないかな?」

オレはナプキンで口をぬぐった。


「変だわ・・・やっぱりなんか変・・・有希ぜったい前より女っぽくなってる!」

「あのねぇ・・・わたしが女っぽくなって何が悪いのよ!なんかいけないみたいな言い方じゃない?」

「いけなくはないんだけど・・・」

長谷川はベンチから立ち上がり、少し離れてオレの爪先から頭まで一通り見てから言った。

「やっぱりなんか違う・・・前はセーラー服着てても、わたしから見れば確かに戸田君だったのに、だんだん戸田君らしさが無くなってきてる・・・」

オレらしさ・・・?オレらしさってなんだろう?


「いいじゃない・・・わたし女の子になりたいんだから・・・」

そうは言ったものの、長谷川の言うことも気になった。

女の子の中で生活しているだけで女っぽくなっていくものなのだろうか?麻衣が言ったように3年間で女になってしまうなんて事は無いとは思うが、なんだか心配になってきた。オレはこのまま、どんどん女になっていくのだろうか?



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 「あれ?お姉ちゃんこのドラマ見るの?」

「うん・・・見ないと話が合わなくなっちゃうから。」

「いいなぁ・・・あたしも見たいなぁ・・・もう中学生なんだから10時に寝なくてもいいんじゃないかなぁ!」

「録画しといてあげるから寝なさい。こんどお母さんに聞いてあげるから。」

「ほんとう?絶対よ!」

「うん。」

うちの親は勉強しろとかはうるさくないが、寝る時間とかには結構うるさい。


 オレはその日、仕方なく山上が出るというドラマを見てみた。『鼻より団子』みたいな女の子向けのドラマだったら困ったなぁと思っていたが、意外にも救命医療の硬派なドラマだった。


 それに今人気の若手女優も出ている。これなら男のオレでも楽しめそうだ。

しかし、山上のファンなんて言ってしまったからか、どうも山上のことばかり気になってしまう。それになんだかカッコいい。山上は男のオレから見てもなかなかカッコいい男だった。オレはドラマに引き込まれると同時に、山上のことがなんだかすごく気になった。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 「戸田さん昨日の山ペー見た?」

「見た見た!山上君カッコ良かったねぇ!」

次の日、オレたちは昨日のドラマの話題で盛り上がった。あんがい男と女でも同じドラマの話題で盛り上がれるものだ。

「「プロポーズ・・・」の時は可愛かったけど、今回はシブくていちだんと男っぽいからドキドキしちゃった!」

佐倉は山上の良いところを的確に表現するから、オレもつられていろいろ話をした。クラスメイトとこんなに話をしたのは初めてじゃないだろうか? なんだかいくら話しても話が尽きなかった。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 「でね、もうダメっ!って時になって山上君が現れるわけよ。それがすっごくカッコいいの!長谷川さんも絶対見た方がいいって・・・・」

オレは長谷川が不思議な顔でオレのことを見ているのに気付いて話を途切らせた。

「どうしたの?長谷川さん。」


長谷川はオレのことをまじまじと見つめて言った。

「わたし、これまでは半信半疑だったんだけど・・・有希って本当に男のことが好きなのねぇ・・・」

「え?!」

オレはいきなりそんなことを言われて驚いた。

「そ、そんなんじゃないのよ。だって山上君って男にも人気あるんじゃない?」

「そんな話、聞いたことないけど。」

「そうかなぁ・・・男から見てもカッコいいと思うけどなあ・・・」

オレはなんとか疑いを晴らそうとしたが、なんだか状況が変だ。


「だいたい、なんで有希が否定するのよ。あんた男が好きなんでしょう?」

そうだ、あやうくオレが性同一性障害だという設定を忘れていた。オレは男が好きで良いのだ。

「いや、だってなんか恥ずかしいし・・・これまで秘密にしてたから、その癖がなかなか取れないのよ。」

「ああ・・なるほどね。」

どうやら長谷川も納得してくれたようだ。


「有希ってあんな男が好きなのかぁ・・・なんか意外だなぁ・・・」

「い、いや、ただ山上君がカッコいいってだけで、好きとかそういうことでは・・・」

「何もわたしにまで照れなくていいじゃない。山上君は女子に人気あるから有希が好きでも良いんじゃない?好きなんでしょう?」

「・・・う・・うん・・・」


 オレは山上のことが好きなのだろうか?たしかにカッコいいとは思ったが、好きとかそういうのとは違うと思っていた。しかし、そういえば前のドラマの時は、オレは山上を見ても何とも思わなかった・・・


 でも今回のドラマは硬派な医療ドラマだし、男が見ても面白いのではないだろうか? そのドラマの主演だったから山上のことをカッコいいと思ったのではないのか?

 でも・・考えてみれば、オレは昨日のドラマで女優のことはほとんど気にしていなかった。山上ばかり見ていた気がする・・でも山上はカッコいいし、それにすごく可愛いし・・・


 !?・・可愛い? 男が男を見て可愛いなんて思うだろうか? 佐倉と話した影響か? それともオレは好みも女になってきているのだろうか? たしかに最近のオレはおかしいのかも知れない。いろんな人に女っぽくなっただの、可愛くなっただの言われることも多かったし・・・


 オレはこれまで女になろうと頑張っていたから、女っぽくなるのは当たり前だと思っていたが、最近は慣れてきたからそれほど頑張ってもいない気もする。それでもオレはどんどん女っぽくなっているというのだろうか? 髪が伸びたとかそんな問題ではないのだろうか? オレ自身はバレない程度の女っぽさで十分だと思うのだが・・・


 「有希・・わたしが有希のこと男だって知ってるからって、無理しなくてもいいよ。最近やっと、わたしも有希のこと女の子だって思えるようになってきたから。」

長谷川はそう言ってくれたが、オレ自身はなかなか納得いくものではなかった。


 オレは心まで女になっていくのだろうか? たしかにオレは女の子の気持ちがわかるようになりたいと思ったが、それはこういうことなのだろうか?


 なんか違う気がするがオレにはどうすることも出来なかった。オレには今の状況が良く理解できなかった。







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