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第14話 設定 女の子の気持ち(改)   初出08.7.8

 オレは次の日からは、もう絶対に寝坊しないようにしようと心に誓った。


 白石先生からもらった薬を使いだして4、5日すると効果が出始めて、オレは勃起に悩まされることもなくなった。それどころかオナニーしようという気持ちにもならないくらいだ。どうやらもうガードルも必要なさそうだが、心配なのでもうしばらくガードルは穿いていたいと思う。



 最近困っていることといえば、ワキ毛を剃っていたら、だんだんワキがヒリヒリしてきたのだ。鏡に映して見ると赤くなっている。


 オレはエステに行くと永久脱毛されて毛がなくなってしまうと思い、あれ以来行かなかったが、そうも言ってられなくなってきた。仕方なくお母さんに相談したら、あっさり行ってきなさいと言われてしまった。



次の日曜日にエステに行くと、

「あー、カミソリ負けですね。戸田さまは敏感肌のようですね。そういう方は生えかけの毛の刺激も良くないんですよ。」

そう言ってエステのお姉さんはオレのワキから次々に毛を抜いていく、抜いたところにはもう生えないのだと思うとちょっと複雑な心境だ。オレは男に戻った時、ワキ毛がなくてどうするつもりなのだろうか?しかしこれから3年間処理し続けることを考えれば、永久脱毛も悪くないかという気になってくる。


 なにしろオレは女の子になるので精一杯で、女でさえも面倒なムダ毛の手入れまで手が回らないのだ。それに男に戻っても毛はそんなに重要じゃない気もする。近頃では毛が多い男を嫌う女性も結構多いと聞くし、裸になる機会などそんなに多くないように思う。


・・もし裸になるときには・・脇を閉じてればいいか・・・


 この日は脱毛だけにした。お金のことは気にしなくていいと母は言ったが、あまりお金を使っては申し訳ない気がした。エステは結構お金がかかるのだ。まあ、今度の時はやってもらおうと思った。



 エレベーターで一階に降りると、そこにはちょうど二光さんが帰ってきたところだった。

「あらぁ!有希ちゃん来てたの?」

「は、はい・・・」

どうもおネエキャラの人って個性が強烈だ。前に来た時は知らなかったが、二光さんはテレビにも出たりする有名な人らしい。

「有希ちゃんったら、前に会った時より一段ときれいになってるじゃない!肌のつやも良くなって!」

二光さんがオレの頬をなでまくるので、オレは何も言えなかった。

「もっとゆっくりしていけばいいのに〜、またいらっしゃいね。」

そう言うとエレベーターに乗り込んで行った。今日はこの前と違って化粧をしていたから、なんとなく綺麗に見えた。なんかすごい人だ。


 オレも一度くらいは本気の化粧をしてみたい・・なんて気になってくる。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 クラブは結局、華道クラブに入部した。どういうわけか長谷川順子も一緒だ。まあ、オレのことを知っている人がいる方が、少しは心強いかもしれない。


 オレはお花も一応、三吉先生に教わっていたので、順調な滑り出しだったが、長谷川は結構手こずっている。座り方から、ハサミの持ち方から、いちいち指導されている様は、まるでお嬢様教育を始めたころのオレみたいだ。


 オレの方はと言えば、先生にも大胆で良いなどと褒められたが、それはオレが男だからに違いない。先生はオレが本当は男と知っているから点が甘いのだろう。


「もう・・・あんた何でいきなりそんなに出来るのよ!これじゃぁどっちが女だかわかりゃしない・・・」

ふたりきりになると長谷川は一緒のクラブにして失敗したとばかりに悪態をついた。

「ふふっ・・・だってわたし習ってたもの。」

「どこで?」

「教えない!」

春休みにお嬢様教育を受けていたことを教えても良かったが、今はまだ言いたくなかった。

「うわっ!キモチわる〜!!」

長谷川も決して負けてない。なんだか最近は長谷川の方が男っぽいくらいだ。長谷川ってこんなヤツだっただっけ? 中学のころはクラスが違ってほとんど話したことはなかったが、もっと大人しい女の子のイメージを持っていたのだが・・・



「それにしてもあなたも良くやるわよねぇ。見たわよぉ」

「え?なにを?」

「体育の時間よ。あんた休んでたでしょう。」

「あぁ・・・うん・・・」

オレはバツが悪かった。女のふりをするのは良いとしても、アノ日のふりをして体育を休むのは、なんだか気が咎めるし、すごく恥ずかしい。


 別にオレのことを女と思っている人に対しては、当たり前のことなので構わないのだが、先生たちはオレが男だと知っているのだから、男のオレが「アノ日なので休ませてください」なんて言うのはおかしいに決まっている。もちろん白石先生がちゃんと話してくれているというのは知っているし、先生方も納得してくれているとは言うが、それでもやはり恥ずかしかったし、変に思われていないか心配だった。


 それを長谷川にまで指摘されてはオレとしても立つ瀬がない。

「だって・・・長谷川さんは知ってるけど・・・みんなはわたしのこと女だと思ってるんだから・・・」

「わかってるわよ!そんなこと。それでも気持ち悪いんだからしょうがないでしょ!」

長谷川は何かというとオレのことを気持ち悪いという。そんなことはわかっているが、あらためて言われるとちょっと腹が立つ。


「巾着まで持っちゃって、トイレに入るの見たわよ。」

そりゃぁオレだって恥ずかしいに決まっている。中学の頃は女子も巾着なんか持ってなかったと思うが、高校に来てみるとみんな生理用品を入れた巾着を持っているのだ。女子校だからかも知れないが、男の先生もいるというのに平気なのだ、どうやら女子校では先生は男のうちに入っていないらしい。よほどカッコ良ければどうかわからないが。しかしみんなが持っている以上、本当はオレには必要なくても持ってなくてはいけない。


「仕方がないじゃない、白石先生に言われてるんだから。ほら・・・」

オレは生徒手帳にはさんだ印をつけたカレンダーを見せた。それがオレのアノ日のサイクルだ。白石先生が医者として、おかしくないように考えて多少ずらして印を付けてくれているのだ。

「わたしは、これに合わせてアノ日にならなきゃいけないの。」

「へ〜・・・」

長谷川はしげしげとカレンダーを見ていたが、真面目な顔になって言った。

「女のふりするのも大変なのねぇ・・・」

そんな風に言われると、なんだか憐れみを受けてるような気がしてくる。とはいえ、こんな話を出来るのも長谷川だけだし、ありがたいと言えなくはない。ただオレが性同一性障害という設定でなければもっと打ち解けることも出来るかもしれないのだが。


「でもいいの・・こういうのもわたしは嬉しいんだから・・・」

オレはあくまで女の子になりたいと思ってなければならない。そういう人ならアノ日のふりをするのも嬉しいハズなのだ。それを長谷川が理解出来ようが出来まいがオレは性同一性障害の人として発言しなければならない。

「ほんと、あなたって健気よねぇ・・・」

またトゲがある言い方をする。


「長谷川さんって、わたしのこと馬鹿にしてるの? なんかいちいち突っかかるような言い方するけど。」

「そ・・そんなことないけど・・・」

長谷川は少し言い淀んだ。

「なんかねぇ・・男の頃のあんたを知ってるから、変な感じなのよ・・・それに・・・」

「それに?」

「それにさぁ・・・みんなあんたのこと可愛いっていってるし・・・あんたは平気なんだろうけど、わたしは秘密を共有させられて困ってるのよ。あんたのこと知ってるのに話合わせなきゃいけないんだからね。」


 そうか、オレは自分のことで精一杯で考えたことも無かったが、長谷川はこの事を誰にもいえない立場になっているのだ。オレは大変だけど、先生方がサポートしてくれるからいいが、長谷川はオレのことを知りながら、オレ以外の誰にも話せずにいたのだった。

「・・ごめん・・・わたし自分のことしか考えてなかった・・・長谷川さんの大変さなんて考えたこともなかった・・・ほんとごめんなさい・・・」

オレは長谷川に頭を下げた。本当に申し訳ないと思った。


 オレは自分の勝手で女の子として入学したのだからどんなに苦労しても仕方がないことだったが、長谷川はこの事についてはオレのわがままの被害者なのだ。

「ちょっと・・・戸田君、どうしたのよ急に・・・そこまで謝ることないじゃない。」

「・・・だって・・・わたし協力してもらってるのに・・・ぜんぜん感謝してなかった・・・長谷川さんは被害者なのに・・・」

「被害者?!なんでそうなるのよ!」

長谷川はなぜか怒っている。


「戸田君!わたし戸田君に協力はしてるけど、被害者なんて思ってないからね!だって嫌なら戸田君のこと無視すればいいだけの事じゃない。」

言われてみればたしかにそうだが、オレには長谷川の気持ちは良くわからないのだからどうしようもない。

「あんたそれでも女なの?恰好だけ女らしくしても、ちっとも女の子の気持ちわかってないじゃない!」

痛いところを突かれた。オレはたしかに女の子の気持ちなんてわからない。いくら女の子の気持ちを書いてある小説を読んでも、本当のところは何もわかってないと言っていい。


「わたし・・・やっぱり女の子になんてなれないのかな・・・」

オレはやっぱり自信がない。女のふりをするのも、性同一性障害のふりをするのもなんだか無理な気がしてきた。

「やっぱり・・・男が女子高生になるなんて・・・無理なのかな・・・」

オレはなんだか悲しくなってきた。それにすごく情けない。そんな思いが重なって涙があふれてきた。オレは女になってすっかり泣き虫になってしまったようだ。それもまた情けなかった。


「ちょっと・・・戸田君・・・」

長谷川は慌てたように、泣き続けるオレの肩を揺すっている。

「戸田君・・・ごめん・・・」

長谷川はオレの頭に手を回して自分の胸に抱きとめた。オレの顔を長谷川の柔らかい胸が包み込む。オレにもこんな柔らかな胸があったらいいのに・・・

「意地悪なこと言ってごめん・・・有希は女の子だよ・・・すっごく可愛いよ・・・」

長谷川がオレの頭を撫でている。これでは男と女が逆ではないか?


「・・・長谷川さん・・・」

でも今は二人ともセーラー服を着た女の子なのだ。そんなこと考える方がおかしいのかも知れない。

「長谷川さん・・・わたし女の子の気持ち・・・わかるようになるかな・・・?」

「なるわよ。有希ならきっとなれる!」

長谷川はさらにオレをきつく抱きしめた。

「だって・・・こんなに可愛いんだもん・・・」

「!!」


長谷川のやつ・・さっきは気持ち悪いって言ったのに・・・


オレには長谷川の気持ちがまったくわからなかった。






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