第25話.妙案《ティナ》
「うにゃ〜。 できない〜……」
宿の部屋の片隅で、私は頭を悩ませていた。
その内容は新しい魔法道具について。
昨日、レイチェルさんに私は魔力を体外に放出しにくい体質だと言われた。
それは別にいい。 魔法道具を作る方が楽しいし、道具を使う方が現代日本で生きていた私としてはしっくりくる。
問題は、いまある魔法道具で戦えるのかということ。
手元にあるのは護身用としての側面の強い魔法道具が多いから、戦闘という面においては少し心もとない。
この前の爆弾風の魔法道具はアレで使い切っちゃったし。
あの魔法道具はシンプルな仕組みで、衝撃が加わると次の魔法陣に魔力を送る魔法陣と爆発する魔法の魔法陣を組み合わせたもの。 後者は2属性を組み合わせた魔法だから普通にあるものだったんだけど、前者は色々と試行錯誤したんだよね。
そもそも、そんな近代的な魔法はこの世界にはなかったから、色々な属性の魔法を試した末に生み出した。
つまりは私のオリジナルってこと。
ドヤっ!
私だって、やれば出来るんですよ!
ちなみに、閃光弾風と煙玉風のものもおんなじ原理。
応用が効く素晴らしいものを生み出したんだよ!
私えらい!
でも、今から同じものを作るのって無理なんだよね……。
「と言うか、材料も加工する技術もないし……」
幸い、手元には魔法陣を描く用の専用の紙がある程度はある。 常日頃から持ち歩いていたから、あの日もドレスの中にいくらか仕込んで置いたんだ。
ふはは、我ながらなんて都合のいい性格なんだろう!
でも爆弾風の魔法道具は鉄で作ったボールの中に魔法陣を描いた紙を詰めたもの。
紙むき出しだと、破れたりしたら使い物にならなくなっちゃうし、何より衝撃が加わりにくい。 投げてもヒラヒラって飛んじゃうだけだからね。
紙だけの時に衝撃を加えようとしたら、踏み付けるとか落とすとかしないとダメ。
トラップとしては使えるかもだけど、地面に置いておくと破れる心配も出てくるから難しい。
だから本物の爆弾───実物は見たことがないからイメージだけど───みたいに鉄のボールに入れるっていう形にしたんだけど、アレは加工するために職人さんに頼んでいたから、いまの環境では作ることができない。
特注で作ってもらおうとしたらお値段が半端ないから、依頼の報酬じゃ足りなくなっちゃうんだよね。
コスパがあまりよろしくないのは、喜べないよね。
そうすると、この紙────魔法紙に魔法陣を描くだけで作ることができて、なおかつ繰り返し使えるものが必要になる。
ただ、ここで問題になってくるのは魔法陣の耐久性。
魔法陣は繰り返し使えば使うほどボロボロになっていって、最終的には使えなくなっちゃう。
難しい魔法を使おうとすればするほどにその消耗は激しくなるから、難しい魔法を使おうとすればこの紙だったら数回でダメになっちゃう。 逆に、光を灯すとかそういった簡単な魔法だったらほとんど限りなく使えるんだけど。
ただありがたいのは、どんな素材を使っても少なくとも一回は発動してくれると言うこと。
例えば正確に魔法陣を描ければ、地面に木の棒で描いたものでも魔法は使える。
ただ、実際の生活の中でそんなことをする人はいない。 魔法陣をさらさらと書けるような人は大体は普通に魔法を使えるから、わざわざ時間をかけて行う必要はない。
魔法を使えない人ならあり得るけど、魔力はあるのに魔法が使えない人は本当に希。 魔法を使えない人はそもそも魔力が少ないから、大体は魔力が元から入っている魔法道具を買っている。
魔法紙を使い捨てにするのを覚悟の上で、戦闘用の魔法陣を作るか……。
でも、これって結構高いらしいんだよね〜。
なんでも、世界樹の繊維が使われているとか何とか。
「ファンタジー漫画だったら、魔法陣ってあっという間に出てくるのにな〜」
こう、腕の周りをくるくる回るみたいに光でできた魔法陣が現れたり、地面が光り出したりとか。
そんな感じであっという間に魔法陣が、でき……たり……。
「そうだよ! 魔法陣を魔法で作ればいいんだよ!」
何だ、簡単じゃん!
特定の模様を地面に掘ったりする魔法を作ればいいんだよ。 地面がよっぽど硬くなければ大した威力は必要ないから、魔法紙への影響は少ないし。
そんでもって、完成した魔法陣に魔力を流せば魔法を使うことができる。
「え、私本当に頭良くない……?」
デメリットといえば、発動までに時間がかかるということと魔力が余計にかかることくらい。
それも大した時間はかからないし、私は魔力の量は多い。
私が使うだけならその辺りの問題は無視しても大丈夫だと思う。
そうと決まれば早速制作に取り掛かろうっと。
魔法陣を描く魔法を発動させるための魔法陣ってなると、その呼び方とおんなじように構造も複雑になっちゃう。
でも、魔法の勉強をしていた甲斐があったね。
今までの勉強の成果を生かして、やってやろうじゃないですか!
「ふ、ふふ、ふふふふふ……」
貴族のご令嬢っぽいことよりもこういう地道な作業の方が好きなんだよね!
しかもどこにもない技術だから、完成すれば私が第一人者ですよ!
いやぁ、楽しくなってきた!
「………ティナ、さっきから大丈夫? ブツブツ言っていると思ったら、突然叫んだり笑い出したり……」
……アルフの素直な心配がとても心に刺さった瞬間でした。




