第21話.冒険者ギルド《ティナ》
第2章スタートです!
「ここが、ゴンドワン王国のタークカナっていう街だね」
「おぉ〜! って、ローレンシアの街と変わらないね」
私たちがやって来たのは、タークカナっていう名前のゴンドワン王国にある街。
でも、なんて言うか、違う国に来たって感じがしない。
街並みとかはほとんどおんなじ感じで、レンガだったりで作られていてファンタジーっぽい。
あえて違いを挙げるなら、レンガの色が違うってところかな?
こっちの方が土の色が黒っぽい。
なんかそういうの、むかし習ったことがあるけどすっかり忘れたな〜。
ボドソル? ラトソルだっけ?
チェルノーゼムだったような気も……。
「確かにそうだね。 まぁ、隣り合っている国だし。 気候も大して変わらないからどうしても似たような街並みになっちゃうんじゃないかな」
「ほ〜ん……」
難しいことはよく分からないけど、近ければ似ているって解釈でいいのかな。
これが同じゴンドワン王国の中でも南の方に行ったら建物の感じとか違ったりする? だとしたらちょっと楽しみだな〜。
そんなことを考えながら街の中を歩いていると、ふとあることに気がついた。
なんて言うか、建物とか街並みはともかく、歩く人たちの雰囲気はだいぶ違う。
特に目を引くのは、武器を持った人たちだ。 剣や斧、槍、中にはどうやって使うのか分からない武器を持っている。
厳つい人たちばっかりと言うわけでもなく、線の細い男の人や女の人いる。 やっぱり魔法がある世界だから単純な力が全てじゃないってことかな。
「着きましたよ」
レイチェルさんが立ち止まったのは、ひときわ大きな建物だった。 開かれた扉からは中の喧騒が溢れていて、雑多な雰囲気がする。
入り口の上には2つの剣がクロスされた形をモチーフにした看板が付けられてて、それっぽさが引き立てられている。
「ここが、冒険者ギルド……」
「ファンタジーの定番……」
あ、いけね、つい……。
「ん? ティナ、何か言った?」
「あ、ううん! 何も!?」
アルフには私が言ったことの意味はバレないと思うけど、説明をするのも面倒だし私が転生者だってところまで話さないといけないから誤魔化しておく。
「そう? なら行こうか」
私の心をどこまで読んだのか分からないけど、にっこりと笑ってから話を元に戻された。 なんか、全てを読まれたような気がするのは自意識過剰……だよね。
「ご案内します」
レイチェルさんに続いて、建物の中に入っていく。
中は入ってからまっすぐ進んだところにカウンターがあり、そこまでの間に左右に4人掛けのテーブルやらが並べられている。
「おぉ……。 定番の厳つい人たち……」
そこに座っているのは、筋骨隆々な厳つい人たち。
何故か上半身裸で斧を担いでいたり、スキンヘッドで髭を生やして大剣を肘置きがわりに使っている。
もちろん、魔導師っぽい格好の細身の人もいるけれど、テーブルでお酒を飲んだり食事をしたりしているのはどうも厳つい人ばっかりだ。
私が軽く慄いていると、『ここはかつての戦争の名残から、武闘派なギルドなんです。 それ以外の方は他で食事をしています』とレイチェルさんが耳打ちをしてくれた。
そういうものなのか……。
じゃあ、もっとゴンドワン王国の中心部に近付くと魔導師が多くなったりするのかな。
「いらっしゃいませ」
市役所とかみたいになっている受付に行くと、係の女の人が丁寧に頭を下げて迎えてくれた。
お客さんは無骨でも、さすがに受付嬢さんは普通に受付嬢さんだった。 年はレイチェルさんと同じくらいかな?
「冒険者登録をしたいのですが」
「かしこまりました。 お一人ですね。 それではこちらの書類に必要事項を───」
「あ、いえ。 登録をしたいのはこの二人です」
なにやら設置型の魔法道具らしいものを弄っていた受付嬢さんだけど、レイチェルさんに背中を押されて前に出た私達を見て目を丸くした。
それと同時に、ついさっきまでガヤガヤと騒いでいたのが嘘のように静まり返った。
「え……。 あ……、え?」
受付嬢さんの視線は、レイチェルさんと私達の顔を何往復かした。
1秒か2秒か。 長いとも短いとも感じられる時間の後に辺りは先ほどよりも大きな喧騒に包まれた。
「ガハハハハハ! あのチビ二人が冒険者になりてぇんだってよ!」
「あのネェちゃんが冒険者になるのだって難しいだろうに。 何考えてんだか」
「いいじゃねぇかよ。 ガキが魔物に甚振られるなんて、いい余興になりそうだ!」
「やめろよ、趣味悪りぃ」
反応は様々だったけど、私たちが冒険者としてやっていけると思っている人たちはそう多くないみたい。
確かに、私だって逆の立場だったら間違いなく止めてたと思う。
受付嬢さんはさっきまでの和やかな笑顔を消して、怒りを押し殺すように言葉を紡いだ。
「冒険者という職業には低ランクの依頼であっても危険が伴います。 確かに、冒険者になるのに年齢制限はございません。 ですが、冒険者ギルドの受付として、このように幼い子供を危険と分かっている場所に投げ出すわけにはいきません。 冒険者という職業は貴女が考えているほど甘くありません。 せめてそれくらいの常識を持ってから、おいで下さい。 それとも貴女はこの子たちが魔物に殺される様を見たいのですか?」
感情的になったのか、受付嬢さんは次第に早口になり語尾も強くなっていた。
この人は多分とってもいい人なんだと思う。 コンビニでバイトをしている時とかに、未成年がタバコを買おうとしていたら面と向かって止めるだろう。
面倒な揉め事を起こすことを覚悟した上で、相手のことを考えて忠告できる人。
「どうか、本日はお引き取りくださいませ」
受付嬢さんは絶対零度の声で、事務的に頭を下げた。
そこにはこれ以上、話すつもりはないという強い意志が感じ取れた。
「それなら私が紹介状を書きますので」
そう言うとレイチェルさんは、懐から金色のカードを取り出した。 大きさはちょうどクレジットカードとかと同じくらい。
なんかゴールドカードってだけで、凄いってことはわかるぞ?
それが何かは知らんけど。
「金の登録証……」
「え、Aランク……!?」
「おいおい、マジかよ……」
「あのネェちゃんが、A……」
「はい。 A+ランクのチェルシーと申します。 これならば問題ないでしょう?」
あ〜……。
と言うことはあれがギルドの登録証ってことか。
色でランクが分けられてるみたい。 そして、チェルシーっていうのはレイチェルさんの使っている偽名だろう。
レイチェルさんはそれをカウンターテーブルの上に置いてスッと差し出した。 それに続いて、2枚の金貨置く。 おそらく登録料のようなものだろう。
そして、その一連の動作には拒むことを許さない迫力があった。
「……かしこまりました。 それでは、紹介状は不要です。 こちらの紙に二人分の必要事項を記入してください」
受付嬢さんは苦虫を噛み潰したような顔で下唇を噛みながら頷くと、テーブルの下から2枚の紙とペンを取り出した。
それでも、目はキッとレイチェルさんのことを睨みつけている。 ……強く噛んだせいか、唇が切れて血が滲んでいた。
「わかりました」
それを無視して、レイチェルさんはスラスラと必要事項を記入していく。
チラッと見たらそのほとんどが嘘だったけどね!
「アルフくんとティナちゃんですね。 少々お待ちください」
受付嬢さんはそれに目を通すと、裏に繋がる扉へと消えていった。 なんか、コンビニでチケットを発券してもらうような気分だ。
ちなみに私はティナ、アルフはアルフ────なんか変な感じだけど────という名前で登録してもらった。 2人とも愛称そのままだけど反応しやすいからその方がありがたいかな。
数分すると、いくつかの冊子を持って受付嬢さんが戻ってきた。
「お待たせいたしました。 こちらが、登録証になります。 それからこちらが冒険者の心得となっております。 始めはEーランクからのスタートとなっておりますが、くれぐれも無茶なことはさせないでください。 A+ランクでしたらご存知とは思いますが、この二人の監督責任は貴女にあります。 命に代えてでも、この2人を守って下さい」
「えぇ、分かっています」
一瞬の躊躇いもなくレイチェルさんは頷いた。
側から見れば、あまり考えていないように見えるかもしれない。 でも、レイチェルさんにとっては考える必要のないことなんだろう。
片腕を失った直後でもアルフと私を守ってくれたし、いざとなったら自らを犠牲にする覚悟はいたるところに見受けられた。
「危ないと思ったら……ううん、少しでも怖いと思ったら逃げるんだよ? 依頼が失敗になっちゃっても、生きていればまたやり直せるんだから」
受付嬢さんは真面目な顔で、そして何処か悔しさや自らを責める気持ちの感じられる表情で私たちの頭に手を置いてそう忠告してくれた。
「登録は以上となります。 依頼状は向かって右手の壁に貼ってありますので、まずはEランクのものを受注してください。 それでは皆様の無事を心より願っております。 ……アルフくん、ティナちゃん、何かあったら私に相談してね」
……言えない。
精神年齢は貴女よりも年上だなんて……。




