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溺愛王子と転生令嬢は平和に暮らしたい  作者: ティラナ
第1章.崩れ落ちる平和
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第16話.襲撃

 


 凄まじい爆発音とともに、天井が崩落した。

 その際に真下にいた数名が瓦礫に飲まれたけれど、巻き上がった砂埃のせいでその安否は確認できない。

 会場は瞬く間に混乱の渦へと陥った。


「ティナ!」


 僕はティナを抱き寄せて、防御壁を作る。 レイチェルほどじゃないけれど、そこらの人よりは丈夫な防御壁だ。

 もしこの上の天井が崩落して来ても持ち堪えられる。


 しかし、天井の崩落?

 王城の設備は万が一がないように定期的に点検と修理が行われているはずだ。 老朽化による崩落なんてあり得ない。

 それに、さらに万全を期すために物体の強度を高める魔法磁属性の魔法がかけられているはずだ。 たとえ魔法だろうとそう簡単には破壊できない。

 そもそも会場の外には魔法を扱える騎士が大勢待機しているはずだから、外部から侵入することもできないだろう。


 冷静にそう考えていると、砂埃が収まるよりも早く辺りを照らしていた光が消えた。

 まさかこのタイミングで偶然に照明用の魔法道具の故障なんてことはあり得ない。 これは、誰かが意図して作り出した状況ということになる。


「な、なんだ!?」


「何事ですの!? 暗くて前が見えませんわ!」


 悲鳴に混じりながら、混乱する人たちの声が聞こえる。

 僕は状況を正確に把握するために自分自身の目を強化して辺りを見渡す。 さすがに昼間と同じ明るさというわけにはいかないけれど、薄暗いという程度までは明るくなった。

 そこに映ったのは、地べたを這い蹲る人やキョロキョロと辺りを見渡す人、手探りで動いて他の人とぶつかる人。 まさにパニックだった。


 僕と同じように防御壁を張っている人もいるけれど、気が動転しているせいか数は少ない。


「ア、アルフ……! これは一体……」


「分からない。 でも、僕たちにとって良くないことだっていうのは確かだと思う」


 怯えた様子のティナの頭を撫でながらそう囁く。 ティナは不安そうに僕の方を見上げているけれど、この薄暗さではよく見えていないのだろう。 抱きしめているせいだけではなく、いつもよりも距離が近い。

 でも、この状況で笑顔を作れるほど、僕は肝の座った人間ではなかった。

 安心させようとティナの額に唇を落とそうとした時、崩落した天井の方向から人の叫び声のようなものが聞こえた。


「きゃあ!?」


「ぐぁっ!」


 声のした方向に目を向けたとき、僕は目を疑った。



 そこは────地獄だった。


 つい先ほどまで人々がブドウ酒の入ったグラスを片手に和やかに談笑し、僕たちも婚約の挨拶をしていたその場所に血まみれの人たちが転がっていた。 どれも首元あたりから多量の血を流しており、もはや生きていないだろう。

 そのどれもがドレスや燕尾服に身を包んでおり、中にはつい今しがた言葉を交わしたはずの人も姿もあった。


「………うっ」


 胸のあたりまで込み上げるものがあったけれど、力づくでそれを堪える。 ティナの手前そのような無様な姿を見せたくなかったし、今はそんな呑気なことをしている場合ではないと判断したからだ。


 正体は分からない。

 そしてこの暗闇の中、どこにいるのかも分からない。

 けれど、この会場のどこかにあの凄惨な光景を引き起こした存在がいることだけは確かだ。


「明かりだ、火でも光でもいい! 使える者は各自で明かりをつけろ!」


 どこからともなくそんな声が聞こえた。 その声に従って、あちらこちらで光の球や火の玉が浮かび上がる。

 そして、いつからそこにいたのか、崩れ落ちた天井の瓦礫の上に5名ほどの黒づくめの影があった。 その手元にある血に濡れたナイフがチラリと光を反射している。


「何なんだ、奴らは……」


  年齢はおろか、頭の先から足の先までを覆う大きなローブのせいで、男なのか女なのかの区別もつかない。

 あたりに転がる死体は10や20ではない。

 こいつらがやったのか……?

 たったの5人で……。


 人は殺せば死ぬというのは分かっている。

 そして、歴史を遡れば大勢の人が殺されて来たのも知っている。

 武器が人を殺すための道具だと、攻撃魔法が人を殺すための方法だと理解している。

 けれど、人の死を僕は受け入れられなかった。


「殿下!」


 まるで引き込まれるように黒ローブたちを見ていると、僕たちのすぐ真横から声が聞こえた。

 そこにいたのは、紺色の髪をした侍女だった。 いつの間にか彼女は僕とティルリアーナだけでなく自分自身も囲むように防御壁を張った。

 そこまで来てようやく、隣にいた侍女の正体に気が付いた。


「……レイチェルか。 これは……一体……」


 そう問いかけながら、僕は自分の思考が鈍っていたことに驚いた。

 常日頃から僕のそばにいてくれる存在を認識するまでに予想外の時間がかかった。 それほどまでに僕自身もこの事態に気が動転しているということなのかもしれない。


「相手は正確には分かりません。 しかし、何者かが反乱(クーデター)を起こしたのでしょう」


「クーデター……」


 過激な思想を持った集団が国内にいることは知っていた。

 けれどそれは少数で、父上の献身の甲斐もあって人々は現在の暮らしに満足してくれているものだと思っていたのだ。


「私が護衛をいたしますので、お二人は安全な場所へ!」


 レイチェルが僕たちの手を引いて早足で会場の外へ向かおうとする。 僕はそれに従おうとしたけど、ティナはその場から動こうとしなかった。


「ま、待って! お父様とお母様は!? 他の人たちは!?」


「この混乱の中では公爵と公爵夫人を探すのは危険です! 他の方々も各家の護衛を雇っていますので心配は不要です! さぁ、こちらへ!」


 レイチェルの言う通り、公爵家だって優秀な護衛を雇っているはずだ。 振り返ればそれぞれの主人を守るように、剣などを持った人が大勢、会場の中に入って来ていた。


「行こう、ティナ! 二人なら大丈夫だよ!」


「う、うん……」


 僕はレイチェルとともにティナの手を引いて走り出す。

 向かうのは城の中にある騎士団の詰所だ。 あそこには国内でも選りすぐりの騎士が駐在しており、万が一に備えて城の警備を行なっている。

 相手は手練れみたいだけど、精鋭の騎士が複数名集まるあそこならば安全だ。


 しかし、僕のそんな淡い期待はあっさりと打ち砕かれることになる。


「っ!?」


 騎士団の詰所に着いた時、そこにあったのはただの死体の山だった。

 そのほとんどが手に剣を握っており、応戦をしようとした形跡が見られる。 つまり、奴らは正面から国の精鋭を全滅させたのか……。


「王太子とリリトア公爵家の娘か……」


 そんな死体の中で、黒ローブの男が1人立っていた。

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