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溺愛王子と転生令嬢は平和に暮らしたい  作者: ティラナ
第1章.崩れ落ちる平和
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第11話.国王

 



「改めて、婚約が決まったことを喜ばしく思うぞアルフォード」


 国王の玉座に座った国王陛下がそう言葉を下さる。

 玉座の間は大勢の騎士が入れるように広く作られており、僕一人だけだと無駄に広く感じてしまう。

 二つ並べられている玉座の片方が空席となっているのもそう感じさせる理由の一つだろう。


「お騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」


 玉座のある場所から一段低くなった場所に跪き頭を下げる。

 相手は僕の父親である。 けれども、僕はこの人との間には親子としての関係はあまり存在していないと思う。


「良い良い。 お前が謝ることではない。 それに、女心というのは変わりやすいものだ。 女心と秋の空、などという言葉もあるだろう?」


 蓄えられたヒゲを撫でながら、穏やかに笑った。

 僕のことを気遣ってくれていることに感謝しながら、おもむろに顔を上げる。


「そのようにおっしゃっていただけると、少しは気が楽になります」


「しかし、婚約が決まったからと言って安心するでないぞ」


「……どのような意味でしょうか?」


 陛下の不穏な言葉に内心で眉をひそめる。


「女心はとても変わりやすいものだ。 婚約が決まったからといって、リリトア公爵令嬢のことを蔑ろにしていては愛想を尽かされてしまうやも知れぬということだ」


 続けて陛下は『リリトア公爵は宰相をも務める切れ者であるが、いかんせん娘のことが絡むとな……』独りごちるようにそう口にした。

 確かにティルリアーナの父上────リリトア公爵はまごう事なき優秀な人物である。 けれどもティルリアーナのことが関わると少し親バカのように感じるのもまた事実だ。

 そもそも、娘が婚約を嫌がったからと言って王族、しかも現国王の長男との婚約を破棄しようとするなど正気の沙汰ではない。 彼なりの勝算などがあってのことだとは思うけれども、それでも無謀なことは無謀だ。 彼の宰相としての地位も揺らぎかねない。

 バカと天才は紙一重という話もあるが、あながち間違っていないのかもしれない。 そして、陛下にもそれは当てはまるだろう。


「陛下のお言葉、心に刻み込んでおきます」


「王家の務め、確と果たしてくれ」


「畏まりましてございます」


 王族としての務め。 結局のところ、僕に求められているのはそれだけだ。

 この人にとって僕は息子というよりも、自分の後を継ぐ者。 それ以上でもそれ以下でもない。

 先王の代に勃発した隣国との大戦の傷を癒し、ローレンシア王国経済をここまで回復させた賢王。

 けれど様々な仕事に追われ続けたためか、この人は人として大切なものを忘れてしまったように思える。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 玉座の間を出で、僕は自らの部屋へと戻ってきていた。

 時刻はまだ昼前、およそ10時半だ。 昼食を摂るにはまだ早いけれど、僕は心を落ち着けるために紅茶を飲んでいた。

 爽やかな香りのするハーブティーにひとくち口をつけて、ほぅとため息をついた。


「お疲れさまでございました」


「うん、ありがとう」


 用意してくれた甘いお菓子を一つ摘む。

 一口で食べられる大きさのチョコレートで、その甘みも僕の心的疲れを癒してくれる。


 国王陛下────父上の年は40を過ぎたあたりだ。 つまり、僕は父上が30代前半の時の子供ということになるけれど、この国の平均からしてみればだいぶ遅くにして子供を授かったということになる。

 その理由は明確で、父上が国王に就任したばかりの頃は国政が大きく乱れていたから。

 先代の国王────僕の祖父の時代に隣国との間で起こった戦争により、田畑は荒れ、人口は減り、経済は傾いていた。 おまけに、戦争は引き分けということで終結を迎えたものの、軍を指揮するために前線に赴いていた祖父はそこで大怪我を負い、治癒魔法による結果も虚しくこの世を去ってしまった。

 国王が最前線に赴くなど無鉄砲としか言いようがないけれど、当時のローレンシア王国内で最も優れた魔導師は祖父であったと言われており、実際に祖父が参戦した戦場は全て隣国の大部隊が壊滅させられている。 そのおかげで隣国はこれ以上の戦闘を続けることができなくなり、こちらも国王を失ったことで和睦をするに至ったのだ。


 そして、荒れ果てたローレンシア王国をまとめることになったのが、当時16歳だった父上だった。

 先代ほどの魔法能力は有していなかったものの、それを補って余りあるほどの才能があった。 しかも努力を怠らなかったために、自らの父親が戦場に赴いている間の国政の一部を担っていたほどだ。

 当然、若すぎる国王に反発がなかったわけではない。 むしろ当時の人々の将来への不安も相まってとても酷いものだったそうだ。 それをたった10年でまとめ上げ、以前にも負けない豊かな国にしたのだからその才能は本物なのだろう。


 しかし、平和な国になった時、父上を悲劇が襲った。 彼の妻である王妃が、僕を出産した直後に亡くなってしまったのである。

 田畑は豊かになり、経済も回復したけれども、人はそう簡単には増えない。 戦争で失われてしまった優秀な人材の代わりはすぐには育たなかった。

 現在と比べれば十分な魔法が使えなかった当時の治癒魔法では、母上の命を繋ぎ止めるには至らなかったのだ。

 だからこそ父上は、国を育てることに躍起になっているのだろう。

 しかし────


「実の父親とは言っても、国王と長いこと話すというのは気が滅入るね」


 そんな事情と僕の感情はまた別物。

 ため息まじりに言うと、レイチェルはなんとも言えない苦笑いを浮かべた。

 レイチェルは名目上は国王陛下に雇われて僕の側で働いているということになっている。 実際には陛下が側近や護衛の一人一人の雇用に細かく関わったりはしていないのだけれど、書類上の雇い主は陛下なのだ。

 だからこそ、レイチェルも苦笑いを浮かべるしかできないのだろう。


「馬車の用意は出来てるかな」


 お茶とお菓子をある程度楽しんでから、僕はレイチェルに問いかけた。

 時間は11時くらい。 今日は公爵家でお昼をご馳走になることになっているからそろそろ出発すればいい頃だろう。


「はい。 いつでも出発できます」


「ん。 それじゃあ、着替えたらすぐに出よう」


「畏まりました」


 謁見用の形式ばった者からある程度カジュアルなものに着替えて、僕は馬車に乗った。

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