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溺愛王子と転生令嬢は平和に暮らしたい  作者: ティラナ
第1章.崩れ落ちる平和
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第10話.あまいお菓子

 


 気が付くとすっかり日も暮れていて、いつの間にかアルフォードもいなくなっていた。

 いや、見送った────というか、出て行くのを見ていた記憶はある。 でも、そこからはほとんど思考が停止していたせいで、たったいま出て行ったように感じているというか……。


 あぁ、もう。

 自分で言ってて何が何だか訳がわからない!


 そもそも何だあれは!

 絶対に9歳児じゃないでしょ!

 まさかアレか!?

 アルフォードも転生者だったりするのか!?

 それにしてはゲームに出てきた子供時代と性格が似すぎだけど……!


 マジキスに登場するアルフォードは、基本的に常に笑顔だけれど心は決して開かないというキャラだった。 それが、自分の恋心に気が付いた中盤以降はひたすらに主人公のことを溺愛して、何かにつけて甘やかしてくる。 王太子という身分からお金も権力も十分にあるもんだから、タチが悪い。

 ああいうのをダメ女製造機と言うんだと思う。


 そしてちょっとばかり盲目的なところもあって、悪い女に引っかからないか不安なタイプだ。 イケメンだからそうそうないだろうけど、貢いで貢いで最後には捨てられちゃうような感じ。 無償の愛情に飢えているっていう設定もあったはず。

 本物のティルリアーナに恋をしなくて本当に良かったと思うよ。 あのワガママに付き合っていたら国が傾き兼ねない。

 まったく。

 アルフォードも大概ダメ男なんだよなぁ。


 なんて、アルフォードの悪口? を考えていたら扉がノックされた。


「入るわよ」


「あ……、お母様……」


「お疲れさま。 大変だったわね」


「………えぇ」


 やめて!

 思い出させないで!

 せっかく落ち着きを取り戻してきたところだったんだから!


「でも、後悔はしていないのでしょう?」


「それは………」


 私はとっさに答えることができなかった。

 アルフォードに限らずマジキスの登場人物と関わることは私の破滅への道を一歩ずつ進んで行くことになる。 しかも、アルフォードはゲームでもティルリアーナの婚約者だった。

 結局のところ、各々の心情や過程を無視して事実だけ見れば、ゲーム通りに進んでしまっているということになる。

 ……でも、アルフォードに関わったから私が破滅するという確証もないし、関わらなかったから破滅しないという保証もない。 そう考えると躍起になって拒む必要もないんじゃないか、なんて考えてしまう。


 私は、どうすればいいのだろう。


「そうそう、美味しいお茶菓子が焼きあがったのよ。 良かったら中庭でティータイムにしない?」


『貴女の大好きな、料理長特製のマドレーヌよ』と、お母様が付け加えた。

 マドレーヌ……!

 私が前世の頃から大好きなやつだ!

 おばあちゃんがお歳暮で送ってくれたお菓子の詰め合わせの中にいつも入ってたな〜。

 


「せっかくのマドレーヌを無駄にするわけにはいきませんものね。 少しお待ちください、すぐに支度をいたしますわ」


「それじゃあ、先に中庭に行っているわね」


「はいっ。 すぐに向かいます!」


 久しぶりのマドレーヌ、楽しみだな〜。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ローレンシア王国、リリトア公爵家の一室で現リリトア公爵と公爵夫人が語り合っていた。

 この親にしてこの子ありといったように、二人とも眩いばかりの美形だ。


「結局、王太子殿下との婚約は破棄しないということで良いんだな?」


「そうみたいね」


 二人はロココ調の豪奢なソファに腰掛け、向かい合っている。 間には重厚な作りのローテーブルが置かれており、ブドウ酒の入ったグラスが二人それぞれのものが用意されていた。

 公爵はブドウ酒に口をつけ一気にそれを喉に流し込んでから言葉を紡ぐ。


「女は気難しいものだとは思っていたが、自らの娘というものは輪をかけて難しいものだな」


 リリトア公爵は31という若さでリリトア公爵家の当主であり、さらにローレンシア王国の宰相すらも務める国内屈指の傑物である。 そんな彼をして難しいと言わせるのだから、女心とは男にはなかなかどうして理解できないものだ。

 ティルリアーナに関しては例外であるけれども。


「なんて言えばいいのかしら。 あの病気の後から人が変わったというか、大人になった感じなのよね。それでいて、素直になったわ。貼り付けたような笑顔をすることも無くなったわね」


「……何者かに操られているということや、身体を乗っ取られているという様子はないんだな?」


 身を乗り出して公爵がより一層真面目な表情になる。

 この世界の魔法には様々な属性が存在する。

 元素属性と呼ばれているものが『炎』『水』『風』『土』『雷』の5つであり、2つ以上の属性を組み合わせることで生まれる属性は複合属性と呼ばれている。

 以前アルフォードが用いた『幻』属性は複合属性の1つであり、『炎』属性と『水』属性を組み合わせることで発現する属性だ。 また、ティルリアーナがお世話になっていた『治癒』属性は『水』『風』『土』の三属性を組み合わせることで発現する。


 魔法の属性は、元素属性と複合属性を合わせて理論上は31存在しているということになる。 無属性を含めて32という説もあるが。

 しかし、現実では三つの属性の組み合わせまでが限界とされており、それを扱うことができる人も稀である。 ほとんどの魔道士は二つの属性を組み合わせるのが限界であり、『治癒』属性魔法を得意とする治癒魔道士はとても貴重な存在とされている。 確認されている限りだが、大国と呼ばれるローレンシア王国でさえ実用的なレベルで治癒魔法を使える人間は十数名程度だ。


 さて、そんな魔法属性の中に『精神』属性というものが存在する。

『精神』属性はその名前の通り、人間の精神を操る魔法だ。 治癒属性と同様と同様に三つの属性を組み合わせる必要があり、難易度は高いがその危険性は無視できない。

 簡単なものでは、自身の記憶力を向上させることもでき、学生にとっては喉から手が出るほど習得したい魔法だろう。 また、こと戦闘においては自分自身の思考速度を速めることもできれば、逆に相手の思考を鈍らせることもできる。


 そして、難易度の高いものの中には相手の精神を乗っ取ったり、洗脳したりする魔法もある。

 公爵が危惧しているのはこのことである。

 公爵家の一人娘であり、このままいけば次期王妃となる人物。 そんな相手を操ることのメリットは計り知れないだろう。

 さらに親の贔屓目を抜きにしてもティルリアーナは美しい。 まだ二桁にすら満たない歳ではあるけれども、下衆なことを考える輩がいてもおかしくはない。


 男の欲望をすべて満たしてくれる甘美な存在。 それが公爵がティルリアーナに対しての客観的な評価だった。

 だからこそ、精神属性魔法が使われている可能性を危惧したのである。


「そういうことはなさそうよ。 治癒魔道士だけじゃなくて、精神魔道士にも確認をしてもらったけれど魔法を使われた形跡は微塵も感じられないそうよ。 それに、言動に不自然なところもないわ。 あの病気で寝込んでいる間に何があったのかは知らないけれど、成長したと言っていいんじゃないかしら」


 なんの異常も見られない以上、自然とそうなったと考えるしか考えられない。

 そして人間というものは複雑なものだ。 何が原因で心変わりするかは本人ですらも分からない。


「そうか。 それなら、いいんだ」


「もうしばらくは様子を見てみましょう」


「そうだな」


「……シルベーヌ」


「何かしら?」


「私が側で見ていてやれない分も、ティナのことを頼む」


 仕事柄なかなか家に帰って来られない彼は、娘のことは妻に任せることしかできない。 そのことを歯痒く思いながらも、自分の肩に国の政治の重要な部分がかかっていることも理解できてしまうため、投げ出すこともできなかった。


「うふふ。 分かっていますわよ」


 そんな夫の真面目で不器用なところを理解している妻は、にっこりと微笑みながら頷く。

 そのまま、二人の夜は更けていった。


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