プロローグ
プロローグは短いです。
今日は僕とティナの婚約披露パーティー……のはずだった。
けれど、魔法で強化した目に映ったのは、ドレス姿の女性たちが、燕尾服に身を包んだ男性たちが抵抗の余地なく切り捨てられている様子。
何者かによって魔力の供給が止められたらしく、魔導ランプの光は届かない。 わずかに窓の外から月明かりが差し込んでくるけれども、魔法で夜目を強化しなければ1メートル先の相手の顔を見ることも難しいだろう。
「ア、アルフ……! これは一体……」
僕の横で愛おしい婚約者───ティナがキョロキョロと辺りを見回している。
彼女は目を強化していないのだろう。 凄惨な光景が繰り広げられている方へ顔を向けた時にもなんの変化もなかった。
彼女は僕ほどには魔法を使うことに慣れていない。 けれど、今はそれで良かったと心から思った。 こんな光景をティナに見せたくはないから。
切り捨てられていく中に、見知った顔もあった。 この国の政治を担ってくれていた大臣の一人だ。
床に転がる人たちの中に、もしかしたらティナにとっても知った顔があるのかもしれない。
「分からない。 でも、僕たちにとって良くないことだっていうのは確かだと思う」
突然、パーティー会場に乱入してきた黒づくめ達。 頭の先から足の先までを真っ黒のローブで包んでおり、男女の区別すらもつかない。
いまの光景を表現するならば────
────地獄。
つい先ほどまでは確かに幸せだったはずだ。
それが、どうしてこうなった……。