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シスコン次男の決断  作者: さき太
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間章 次郎と柚香②

 「おはようございます。次郎様。」

 満面の笑みでそう言う柚香を見て、次郎はため息を吐いた。

 「何で人ん家で朝餉の支度してるの?ここお前の家じゃないから、勝手に入ってくんな。」

 そんな次郎の言葉を無視して柚香は配膳をしていく。その姿を見て次郎はまたため息を吐いた。色々、文句を言うが全部無視されて、関係のない話を振られて、次郎は途方に暮れた。

 「朝食の支度が出来ましたよ。」

 そう柚香に促されて、結局文句を言うのを諦めて次郎は席に着いた。米をよそった茶碗を渡されて、何とも言えない気持ちになる。

 「そんな世話焼かれなくても自分でできるから。ってか、こんなことされると本当落ち着かないから。いい加減にして、まじで。俺、ちゃんと自分の事自分でできるからね。炊事洗濯、一通りできるからね。世間で思われてるほどダメ人間じゃないから。」

 そんな次郎をまた無視して柚香は、おいしいですか?なんて訊いてくる。うん。おいしい。おいしいけどさ。少しくらい俺の話し聞いてくれないかな、まじで。お前、俺のなんなの?なんでこんなに人の世話焼いてくんの。そんなことを考えながら次郎は黙々と朝食を食べた。そんな次郎の姿を微笑みながら柚香が見ていて、次郎は本当に落ち着かない気持ちになった。

 野党に襲われているところを助け、ついでに父親の介抱も手伝ってから、柚香は毎日次郎のところに通ってきていた。柚香の父親の容態は悪くもう助かる見込みはなかった。だから次郎は術式で苦痛を感じなくだけさせた。それは本人達にも伝えてあるが、それでも酷く感謝された。余命わずかな父親の傍についていてやれよと思う。でも、恩人である次郎に娘が使えることは父親の願いでもあった。娘が自分についてるより次郎様のお役に立てた方が心安らかにいられるなんて言われたら、強く拒否もできなかった。

なんでこんな風になったんだろう。そう思って次郎はまたため息が出た。最初こそ恐縮してた柚香だったが、今では完全に次郎の方が彼女に翻弄されっぱなしで、すっかり彼女は世話女房のような感じになっている。

 「お前さ、年頃の娘が男の家に毎日通ってくんなよ。嫁の貰い手なくなるぞ。」

 次郎がそう言うと柚香はしれっと、もう次郎様の手つき娘だと思われてますから今更ですと言った。それを聞いて次郎は頭の中が真っ白になった。

 「何さらっとそんなこと言ってんの?どうすんの?まじで。」

 焦る次郎とは裏腹に柚香は静かに微笑んだ。

 「次郎様がもらって下さればいいのではないですか?」

 は?今こいつなんて言った?ちょっと待って、今、なんて言った?いや、意味が解らないし。そんな間柄じゃないよね?そんな関係になったことないよね?混乱状態に陥る次郎を見て、柚香はくすくす笑った。

 「次郎様は本当にかわいいですね。」

 そう言われて、からかわれたのだと気づいて、次郎は頭を抱えた。

 「そういう冗談言うの本当にやめろよ。」

 そう嘆く次郎に柚香は言った。

 「全くの冗談でもありませんよ。」

 それを耳にして次郎が顔を上げると、自分を真っすぐ見つめる柚香と目が合った。

 「わたしは次郎様の事をお慕い申しております。次郎様がもらって下さるのでしたら、それほど嬉しいことはございません。」

 はにかみながらそう言う柚香の姿を見て、次郎は自分の顔が熱くなるのを感じた。

 「いや、なんで俺なの?どう考えても不良債権だから。俺そんな甲斐性ないし。お前等に地上の神の出来損ないの息子呼ばわりされてるような奴だよ?実の姉にさえ、夜遊びばっかして昼間引き込もってぐーたらしてる、何やらかすかわかんないろくでなし呼ばわりされてるような奴だよ?」

 助けられたからとか、恩があるからとかそんなのどうでもいいから。俺が良く見えるならきっと勘違いだから。他にもっといい男いるって。そんなことを捲し立てる次郎の手を取って柚香は微笑んだ。

 「世間でどう言われていようが、一姫(いちひめ)様が次郎様をどう思っていようが関係ありません。わたしは次郎様が好きです。次郎様がとても優しい方だとわたしは知っています。口は少し悪いですが、本当は真面目で誠実な方だと知っています。それに、次郎様はとてもかわいらしいです。そんな次郎様をわたしはとても愛おしく思っております。わたしは本当に心よりあなたのことをお慕いしているのですよ。」

 柚香のその言葉に次郎は何も言えなくなった。目を伏せて柚香が次郎の胸に手を置く。

 「次郎様のここには別の誰かがいることはよく解っております。だからわたしの想いが報われることはないのだと解っているつもりです。ですから、こうして傍にいることを許していただけるのなら、それだけでわたしは幸せなのでございます。そうしていれば、もしかしたら次郎様がわたしを見て下さるようになることもあるかもしれないでしょ。そんな夢を見ることをわたしに許していただけませんか?」

 そう言われて次郎はそっぽを向いて、そんな相手いないよ、と呟いた。それを聞いた柚香が微笑む。

 「なら、わたしが次郎様のお傍にいさせていただいても何の問題もありませんね。」

 柚香のその台詞に次郎は、俺の気持ちは?と心の中で突っ込んだ。もしかして俺嵌められたの?今までの事を考えると、何を言っても押し切られる気がする。そんなことを考えて次郎はため息を吐いた。

 「一応、考えてみる。」

 そう言うと柚香はとても嬉しそうに笑った。


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