降伏勧告
皇は王様になったので、敬語ではなくなりました。タブンユルグに言われたんだと思います。
各国の反対表明から1月が経過した。現在新たな国、皇国が今日誕生する。そして新たな王、皇王が誕生した。民衆が皇国、皇王を祝して浮かれている中、新しく皇王の宮廷として建てられた、といってもまだまだ発展途中の為、貴族の屋敷の様な館の中ではそれと比例して暗いムードの中、即位式が恙無く行われる。
本来であれば、使者の返答を聞いた直後、即死式は中止し、後ろ盾を作ってから改めて行うのが最善の判断。しかし、それを許さないのが民衆である。もし事情を話しても、彼らはこう言うだろう「他国が干渉するのかと」もし、強行に中止すれば、皇の側近は他国に屈したと断罪し、最悪処刑もあった。
処刑で済めば側近達はきっと中止にした。だがそれですまない。側近達を断罪した後、即位式は確実に行われる。それがユルグ以下、そしてヘルゲンの考えの答えである。それだけは確実に阻止しなければならなかった、何故なら側近を失って皇国の政治を行うなど愚の骨頂に等しい。更に最悪なのは、皇を幽閉し、その力を好きなように使う事、民衆はかくも恐ろしいものだ。いくら崇拝していても、皇の上に立ったと思った瞬間、それは一気に崩れるのだから。
それから数ヵ月後。
「なんだと!」
ユルグの怒声が王の間の中で響き渡る。
「まさか・・・想定していた最悪な自体が・・・」
ユルグの怒りの矛先は、ユルグの手にある手紙が原因だった。その手紙の送り先は3カ国、つまり北のテーグ共和国、東のトラント公国、南のウカルナ国、西は海で巨大な魔獣が住処としているため、国はない。3カ国の連名で送られた手紙の内容は。
「国として認めることはできず、もしこのまま国として存続するのであれば3カ国は協力して滅ぼす。しかし、3カ国の内1つに降れば罪を許す」
ユルグから手紙の内容を聞いた重臣は驚きと、怒りが混じり合い複雑な表情をしている。
3カ国との戦争、年数が立ち国力のある国ならあるいは耐えられるかもしれない。だが、現在の皇国は蓄えもほぼなく、軍事力は比べようがないのが現状。
動揺が部屋の中に広がる中。
「これからどうすればいい?なにか意見のある者はいるか?」
皇の声が響き渡る。
前にヘルゲンと話してから皇は、正直に聞くようにしていた。わからない事は聞き、解決すればいいと開き直っているとも言えるが、間違うよりは断然いいと決心したのだ。答えを出さぬまま先延ばしにする事はこの先、王としてできないのだから。
答えを返すものはおらず、沈黙だけが場を支配する。
視線をレイナに移し。
「レイナ将軍、我が軍はどのくらいいる?」
苦虫を噛み潰した表情で、口を開ける。
「現在我が軍は・・・、約2千。それも訓練も武器や防具、物資もまだ万全な状態ではありません」
皇は頷き。
「もし攻めて来るとしたら、どのくらいの数だと予想できる?」
さすがのレイナもこれには躊躇う。周辺3カ国、どれも大国。それを言えば更なる絶望が場を支配するだろう。だが、皇の質問を無視するわけにもいかず。震える唇で何とか言葉を吐き出す。
「1カ国だけでも・・・、最低1万以上と予想されます。しかし、それは最低の数です。全軍でくれば1カ国10万近くと予想されます」
それを聞いた重臣達は目を丸くする。
皇は息を吐き出す。
全く話にならない。こちらは数で劣り、武器でも劣り、物資で劣る。にも関わらず、その上3カ国同時では、耐えるとかの話ではない。・・・ならば、答えは一つだな。
決意を決め、皆に問う。
「この戦、勝負にならんな。では改めて問う。他に最善の方法があるか?」
重臣の視線が一気に皇に集まる。
そして皇の覚悟の表情をみて、分かっていて問うているのだと理解する。
皇が求めている答えは重臣の誰もが知っている。でもそれを口に出すことは出来ない。出来るはずがない。それを言うということは、国だけならまだしも、皇を他国に差し出すと同意義なのだから。ここで絶望していた人達を希望を持てる様にした人物を、例え口が裂けても言えようか。
再度皇は息を吐き出す。
大切に思っていてくれる事には感謝している。でも優先順位をこの者達はわかっていない。一番守らなければいけないのは民だ。例え、王になって1年足らずとはいえ、俺は王になってしまったんだ。ならば俺がすべきことは民を守る、ただそれだけなのだから。
「ヘルゲン、君は何が最善だと思う?」
レイナの後ろに控えていた男に皇は視線を移す。重臣の視線がその男に一斉に向き、男はニコリと微笑む。
「左様ですね、私が言えることは降伏・・・」
ヘルゲンの言葉に重臣は怒りが頂点に達しようとした時。
「は、悪手ですね。」
重臣の目が点になる。ヘルゲンは何でも口にする男だと理解しているからこその怒り。ほとんどの事でヘルゲンは間違いがないからこそ、この質問の返答も想定していた返答をすると思っていた。だが違った。
「悪手?私にはそうは思えないが?民を守る事を考えたら降伏こそ最善だと思っている」
ヘルゲンなら降伏という言葉を言ってくれるだろうと期待しての問いに、別な返答に少し苛立ちを覚える。
「陛下はとてもお優しい方ですね。自分を差し出し、他国におもちゃのように力を使うことを強要されることを理解されている。そして陛下は、その前に死ぬことをすでにお決めになっている」
ヘルゲンの言葉は爆弾に近かった。
それは部屋にいる誰もが驚愕する。そして皇自身も。
「・・・・・それはお前の勝手な考えだ」
「そうですね、陛下が自決しようともおもちゃにされようとも、それはどちらにしても悪手なんですよ陛下」
「どういう・・・」
「陛下は民を守りたいと仰る。しかしながら、降伏した後、陛下が望まぬ生き方をしたと知った民はどう思うでしょう?それは自決でも同じです」
重臣の一人がボソリと呟く。
「そんなことは許されない」
一人が呟くとまるで連動するかの様に、また違う人が呟く。
「あってはならないことだ」
そしてまた一人と、どんどん声が大きくなる。
それは先程の静かな部屋とは一変して、部屋中に響き渡る。
それは10分程続き、皇が声を大にして言わなければ、静まらないほどの勢いだった。
「ヘルゲンつまりこいう事か・・・」
「左様です。陛下は勘違いしていらっしゃる」
「何?」
「いまだ自分の立場がお分かりになっておりません。あなたはもう自分の判断でどうこうできる方ではないんですよ。陛下が自決するにしろ、おもちゃにしろ、陛下にはそれは美談でしょう。しかし残った民はどうなるでしょうか?陛下は民を守りたいのではないですか?ならば、最後まで民と共にあることを望まれる方がよろしいでしょう」
「それが民を守るに繋がるとは・・・」
「死ぬよりも恐ろしいのは、精神いえ心が犯された時です」
皇は反論する言葉が見つからなかった。すでにヘルゲンには先が見えているのだろう。だが、この男はそこまでは言わない。しかし、だからといって納得はできない。ヘルゲンの言葉は民の全滅を意味する。
しばらく考え込、思考していると。
「陛下、私達は覚悟を決めました」
ユルグが声を掛ける。
「覚悟・・・?」
ユルグの表情にはもう暗さなどどこにもなく、それどころか、朗らかな笑みをしている。
「はい、今から逃げたい民は逃がしましょう。手紙には今すぐとは書いていませんので多少の猶予はあるでしょう。そして、3カ国付近に簡易な砦を築き、民から兵を募集するのです」
「民を戦わせるというのか」
「もちろん強制ではありません。ありのままの事情を布告し募集するのです。ヘルゲンの言葉でわかりました。民に全てをさらけ出して民の心に任せたいと思います」
「だ、だが、残った民達はどうなる?反抗した国の民は酷い目にあうのではないか?」
「ですが、民の心は救われます。残ると決心した者は陛下と最後まで共にしたいと望む者です。どうか、ご決断を」
周囲を何度も見る。
何度見ても何度見ても、皆の顔は晴れやかな笑顔。
答えを覆す事ができないと悟る。
数日後、街の広場に現在の状況を布告。逃げる者は速やかに役所に申し出るという言葉はまるで、見えなかったかの様に、役所に現れたのは志願する民だけだった。
3カ国の国境近くに簡易砦を建設。
すぐに他国の間者によって知られる事になる。
布告してから3ヶ月後。
国境沿いに軍勢が集結、3方向からの軍勢の総勢13万。
数日後に開戦する。