忠誠
まるで彼女の涙に反応するかの様に、しとしとと雨が降り始める。ゆっくりとそして確実に落ちてくる雨に濡れながら、時雨は安堵する。一歩進んだことに。それと同時に視界が段々真っ暗になる。
「あれ・・・」
視界が暗くなり、体を動かそうとするが、言うことを聞いてくれず、そのまま地面に突っ伏す。意識がおぼろげになり、時雨は思う。力を使った反動が思ったよりもでかかった。そしてレイナとの会話の緊張はそれに更に拍車を掛けてしまったと。だが後悔はしていない。
「時雨さん!」
「おい!大丈夫か?」
2人の声が消える意識に微かに聞こえる。
「ご苦労だった」
目の前の男が言葉を言う。
そして私は、この言葉に嬉しさが込み上がる。役に立てた事に。
「はっ!ありがとうございます」
彼女の気持ちの篭った返礼に、多少男はぎこちない笑顔を浮かべ、頷く。
ぎこちない笑顔の意味は彼女は知っている。自分の声が気持ちを込めすぎて、相手を驚かせてしまっているからだ。少し恥を感じ、頬を少し染める。毎度の事だと注意しようと思っているのに、目の前の男の声を聞くと、どうしても気持ちが入りすぎてしまう。
「ところで、諸国の献上品の中に、ある物を頂いた。とてもじゃじゃ馬らしくてな、使えたものは一人しかいない一品だそうだ。何故これほどの物をくれたのかはわからないが、まさにレイナの為にある品だと思う」
そう男は言い、高価そうな縦長い箱から1本の剣を取り出す。
「普通の武器では、レイナの力に耐えれない。しかしこの剣ならば耐えることができるだろう」
男はその剣をレイナの前まで進み、差し出す。
「これは・・・?」
男は微笑み。
「かつて使っていた者は炎帝と呼ばれていたことから、炎帝剣と名付けられた。まさにレイナにお誂え向きといって良いだろう。この剣は火を容易に操れる様になる。お前の力もじゃじゃ馬、この剣もじゃじゃ馬まさにお似合いではないか?」
一瞬迷う。確かに自分の力は制御が難しい。もしこの剣で制御できるならばそれに越したことはない。だが扱えない時は、目の前の男、自分の主君を失望させてしまうかと悩む。
レイナの気持ちを知ってか知らずか、剣を更に前に押し出し。
「将軍に着任して以来、散々働かせてきた。しかし、それに見合うだけの褒美を渡していない。これは、私からのせめての気持ちだ。受け取ってくれると嬉しい」
主君の言葉で心は決まる。
「はっ!謹んでお受け取りします。これに見合うだけの働きを必ずや!」
皇は頷き。レイナは差し出された剣を両手で受け取る。
レイナは例えこの剣が今、使えなくても必ず使いこなしてみせると決めた。それだけレイナを評価してくれたからこその至宝の授与なのだ。だからこそ、使えない使えると悩むことを止め、この剣に似合う働きを見せることが臣下の務めと心に決めたのだ。
それからというものこの剣は最初からレイナの剣だと言わんばかりに、容易く扱え、レイナの力と呼応して、火の扱いの幅が増えた。まさに皇王の言うとおりにレイナの為にあるような剣であった。炎帝剣は今や一心同体であり、皇王の忠誠の証とも言える。
だが、時間は過ぎ、忠誠を捧げる主君は空の玉座。それを不思議と思わなかった。それが当たり前とすら思っていた。そう思っていても、心が騒ぐ。いつも玉座を見ては、なぜか剣の鞘を触らずにはおれなかった。心のザワつきは次第に大きくなり、休暇を利用しては、何かを求めるように、旅に出る。そして最後には何かの事件があり、それを見ると心のザワつきは少し収まった。それを幾度となく繰り返し、私は時雨に出会う。
まさか、皇王を忘れているなどという事実をまだ少女である時雨につきつけられるとは思わなかった。なんという愚かさだ。自分がただ一人仕える主を忘れ、毎日を過ごしていたなど、愚者の極みと言える。もし、気がつかないまま一生終えていたらと思うと恐怖で震え上がる。私達が今仕えているは皇王の偶像であり、幻でありながら国は進んでいる。なんという皇王の偉大さか。しかし、今となってはもうそれもどうでもいい事。私の居場所はただ一つなのだから。
基本的に皇国の人間は、皇を過大評価しています。唯一してないのがヘルゲンくらいでしょうか?なので、皇いなくても国がうまく運営できてるのは、ただ臣下が優秀すぎた為です。




