プロローグ
黒の王を書き終えて、すぐに書きたくなったので書いちゃいました。不定期に書いていこうかなと思います。
あらゆる異種族が住むランドグリスという世界がある。
人間、エルフ、ドワーフ、獣人族、竜人族、そして魔族。
ただ例外が一つだけあった、それは異世界から来る異世界人。
異世界人は姿形は人と同じであるため人と区別する者もいるが、決定的な違いがある。異世界人がこちらに来た時に授けられる能力。この能力は人によって様々。しかし、人には無い力。それゆえ異世界人と呼ぶことが普通である。
彼ら彼女、異世界人は同じ特徴を持つ。目と髪が黒というランドグリスでは珍しい色をしている。たまに例外で染めている者もいるが基本黒である。異世界人がいつからやってきたのかは定かではない、だが当たり前の様に受け入れられる時代。
ここランドグリスの中で一番大きな大陸、アスティア大陸の中立国イラス国に一人の青年がいる。髪は短く切りそろえられ、男らしさとは幾分か離れた頼りない表情をした青年。腰には装飾はほとんどされてないが、高価な一品だと見る者が見ればわかるロングソードを差している。服装は冒険者だと人目でわかるローブを纏い、中にはチェインシャツを服の下から着込んでいる。彼の名はレン・ホシ。
いつもの様にレンは冒険者組合で依頼達成の報告を終え、帰路に着いている途中。
路地に佇んでいる一人の若い女性に目が釘付けになる。
道行く人道行く人が一瞬視線を向けるが、すぐに視線を変える中、レンだけは目が離せなかった。
マントとも呼べないボロい布に身を包み、隙間から見える服は何日も洗ってはいないのではないだろうかと思わせる程、汗と泥で変色している。
レンは服装よりも女性の表情に目が離せなかった。
一言で言えば絶望の表情、全てを諦めている表情。
だからレンは彼女の側まで歩を進め。
「望みはあるのか?」
そう聞いた。
レンの声が彼女に届いたのだろう。ビクッと身を震わせ、恐る恐る顔をあげる。
何というひどい表情だとレンは思う。
レンに向けた表情は恐怖の色に染まりきっていると言っていいほどなのだから。
「望みはあるのか?」
レンは再度恐怖に染まった彼女に声を掛ける。
視線を交差し、決して長くはない、しかし、早くもない時間が流れ。彼女は震える唇で言葉を言う。
「望み?」
レンはやっと声を発した女性に満面の笑みで。
「そう望み、なにかやりたい事、行きたいところはあるのか?」
ただただ女性はレンの問いに首を横に振る。
レンは首を傾げ。
「ここではゆっくり話せないか。着いてきてくれ。俺の城に案内するよ」
彼女はそれにも首を横に振る。
拒否する彼女の手を掴み起き上がらせる。そして握ったまま歩を進める。
その手を振りほどこうと彼女は抵抗する。
「ダメ、私は・・・。私は・・・」
レンは後ろにいる彼女に顔を向け。
「心配しなくていい、僕は大丈夫だから」
笑顔で言うレンに彼女は何故か不安がかき消される。そんな訳がないのに、今までもそうだったのに、いつも最後は疎まれるのに、そう思っていても歩を止めることはできなかった。